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冬の旅

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「ひでぇ面だな、ジェームズ。幽霊みたいだぜ。杖まで出しやがって。お前、俺に何か言うことあるだろう」
 シリウスのとげとげしい言葉にもジェームズはなんの反応も見せず、「鍵はオートロックだから」と淡々と言って、ソファの横に置いてあったディパックを手にした。
「ジェームズ、待って。君が帰るのに僕らがいたらおかしいよ。僕らも帰るから一緒に出よう」
 なんとかして時間を取ろうとするリーマスにジェームズはどこまでもそっけなかった。
「放っておいてくれないか」
「ごめん、ジェームズ。そんな姿の君を放っておけないよ。何があったの? 僕らにできることはある?」
 部屋を出て行こうとしたジェームズの腕を強く掴んでリーマスは言った。
 どんなピンチのときもジェームズはまっすぐ前を向いて、強い信念のもと何事にも立ち向かっていた。その姿が周りの人間を支え、慰め、勇気づけてきた。誰もが憧れて惹きつけられ、ジェームズという存在を心強く思った。ジェームズがいれば安心だった。
 それなのにどうだろう。洗ったばかりと思しき髪は半乾きのうえ櫛も入れられずぼさぼさで、病人のような顔で言葉少なに人を拒絶する。いつもの溌剌としたジェームズはどこにもいない。あからさまに面倒くさげな顔をして、リーマスに掴まれた腕を見ていた。
「騎士団に顔を出してって話に来ただけだったんだ。ひと月の蜜月はどうだったんだい? 君らが仲良くて妬けるよ」
 ちょっと冗談めかしてジェームズに笑いかけたリーマスは息をのんで黙った。いつも微笑んでいるような蒼い目がどこまでも冷たくリーマスを見下ろしていた。
「ふぅん、それで? 心にもないことを言った気分はどう?」
 ジェームズは腕を振り払うとリーマスのブラウスの胸元を荒々しく引っ張り、鎖骨の下に鬱血を認めるとせせら笑った。ドンッとリーマスの身体を押しやり上から見下すように眺める。
「こんな痕をつけているのに妬けるって? すごいね。シリウスじゃ物足りないっていうんなら僕が相手してやろうか」
 瞬間、リーマスの前を黒い影が唸りを上げて横切り、ガツッと大きな音を立ててジェームズがソファに倒れこんでいた。
「お前・・・お前、何言ったのかわかってるのかっ」
 シリウスが拳を震わせ肩で息をしていた。ジェームズは殴られた際に口の中を切ったらしく、唇からわずかに赤い血が垂れていた。
「いちいちうるさいんだよ、僕のことは放っておいてくれ」
 手の甲で唇をぬぐいながらジェームズは挑戦的にシリウスを睨みあげた。それを真っ向から受け止め、シリウスは吐き捨てるように言った。
「ああ、ほっとくよ、勝手にしろよ。最低だ、お前。何があったか知らないがリーマスが何も言わないからって八つ当たりするのもいい加減にしろ。今度スネイプに会ったら言ってやるよ。ジェームズじゃ物足りないなら俺が相手してやるってな」
「シリウス! 言い過ぎだ。なんてこと言うんだよ。ジェームズ、嘘だよ、シリウスはそんなこと言わない」
 リーマスは慌てて二人の間に身体を滑り込ませた。シリウスの腕を押しのけて少しでも二人を遠ざける。
「言えよ、言ってみろよ。ちょうどいい、一度お前相手に真剣に杖を使ってみたかったんだ」
 醜い声に振り返るとジェームズが口を歪めて笑っていた。リーマスはそれを茫然と眺めた。
 これは何かあったというレベルじゃない、異常だ。シリウスも同じことを思ったのか、はらわたが煮えくり返っているだろうに何も言い返さずに背を向け、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。ぎゅっと口を結んでいるのは緩めたらとんでもないことを言ってしまうことをわかっているからに違いなかった。
 リーマスはソファの前に跪き、ジェームズの手をとった。眉をしかめられはしたが、今度は振り払われない。
「君を放っておけるわけないよ。力になりたいんだ。僕らの仲じゃないか、一人で悩まないで話してほしいよ。困っていることがあるんなら、三人で、あ、スネイプも入れて四人でどうすればいいか考えよう」
 ジェームズは何も答えなかった。圧倒的な存在感はどこに消えてしまったのか、抜け殻のような姿でソファに背を預けている。目があっているのか、あっていないのか、蒼い瞳からは何の感情も読み取れない。
「頼むよ、久々に君に会ったらこんなことになっているなんて、僕らがどんなに驚いているかわかる? なんでこんな・・・ぼろぼろになっているの」
 リーマスはぎゅうぎゅうとジェームズの手を握っていたが、ジェームズが顔をしかめたのを見て立ち上がった。
「タオルを濡らしてくるよ。顔が少し脹れてきてる」
「別にいいさ、どうなっても」
「良くないよ、スネイプが見たら卒倒してしまうから」
 なげやりな口調でなげやりな言葉を口にするジェームズをリーマスが何気なく諭した瞬間、ジェームズの怒鳴り声が部屋に響いた。
「スネイプスネイプってうるさいっ」
「え?」
 ジェームズは片手で顔を覆い、激しく泣き崩れた。もうたまらなかった。虚勢を張るのも限界だった。否定しても否定しても、恋人とヴォルデモートの名前が結びつく。ほとんど一日中、否定と肯定を繰り返し、最後にようやく否定を勝ち取る孤独な闘いはジェームズの心を疲弊させていた。助けてもらえるものならば、いつでも助けて欲しかった。そんなときにシリウスやリーマスの顔を見て、どこか気持ちが緩んだ。
 悪い推測が多すぎて、不安な気持ちを一人で抱えるのがつらかった。両親には話せず、かと言って騎士団の皆にも話せない。話したいけど話せない。話せば誰もがセブルスを責めることがわかりきっていた。恋しすぎておかしくなりそうな自分でさえ、心が灰色に染まっていくのだ。他人は疑いもせずにセブルスを裏切者だと思うだろう。ああ、セブルス! どこにいるんだ。
「ジェームズ」
 困惑したリーマスの声が耳に入り、瞬時に後悔した。こんな醜態をさらすなんて、馬鹿なことをした。いくら精神的に疲れていたとしても人前で、特に親身になってくれる親友たちの前でこのような無様な姿を見せたくなかった。もしかしてヴォルデモートが関係しているかもしれないとしても、個人的なことで今の時期、わずらわせたくない。そう思いながら、親友だからこそ話せないのだとも思う。
「あの、ジェームズ?」
 セブルスのことは言うべきじゃないんだろう。一人でどうにかしなくては。顔を伏せ息を整えながら頭をフル回転させる。どうやってごまかすか。
「ふふっ、情緒不安定なんだ、最近。今頃、青春なんだよ」
 すばやく目元をぬぐって顔をあげる。こんなことはなんでもないと、ふん、と鼻をならした。それでもいつも優しい光をたたえている瞳を見返すことはできず、視線を床に落としたままリーマスのくたびれたサンダルを見ていた。
「本当に放っておいてくれ。体調が良くないんだ、夏バテなんだろう。そのうち復活するさ」
「そんなわけないだろ」
 怒ったリーマスの声に、ジェームズは肩をすくめた。少し視線をあげるとダイニングにいるシリウスの組んだ足が見える。それがおもむろにすいっと立つとキッチンに消え、ジャバジャバと水が流れる音がする。そして、黒いジーンズがゆっくりと近づいてきた。
「・・・・・・殴って悪かった、ジェームズ」
作品名:冬の旅 作家名:かける