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冬の旅

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「わかりました。オーソドックスなものを調合しますので、頭痛がしたら教えてください。症状に合うように調合しなおしますから」
「気が向いたらな。いつ痛くなるかなどわかるわけがない」
 ピシャリと言い切られて、スネイプは話の矛先を変えた。
「あの、どれほどの量をご用意すればよろしいですか」
「どれほど、とは」
「1回分、1日分など、ですが」
「お前がいいと思うだけ用意しろ。いちいち聞くな」
 うるさげに片手を振り、この話は終わりだとヴォルデモートは告げた。
「ところで、アンテウォーズにレノンという男がいる。いささか邪魔だ。どうにかしろ」
 エメラルドの瞳がまっすぐスネイプを射抜いていた。やれないとは言わさない強い光が宿っている。不意打ちにスネイプは唇をわななかせた。
「安心しろ。騎士団の男ではない。お前のジェームズとは関係ない。一人でぎゃーぎゃー騒いでいるだけだ」
 ヴォルデモードは片頬だけで意地悪く笑ったが視線は冷たかった。ジェームズという名前に身体が凍る。優しく響くはずの名前は寒風となってスネイプに吹き付けた。
 この人が「どうにかしろ」と言うことは暗に一つの行為を指しているんだろう。ジェームズと関係ないと聞いても安心などできない。
「いいか、今後いっさいあの男が騒ぎ立てるのを聞きたくない。耳障りだ。きれいに排除しろ」
 スネイプはヴォルデモートの視線に縛られながら頷いた。「排除」という言葉が身体を刺す。
 レノンという男は何をしたんだろう。若いのか、年寄りなのか。家族はいるのか。・・・・・・どうすればいいのか。痛いほどわかっていても焦りながら自問する。
「お手並み拝見といこう、セブルス」
 そう言ってヴォルデモートは紅茶のカップを手にした。花柄のカップでさえ恥じらいそうな芸術品のごとき指にエメラルドの指輪がはまっているのを目にしたとき、スネイプはふいにリリーを思い出した。
 学生時代に仲違いをして以来一言も話をすることはなかった幼馴染の気の強い女の子の瞳も深いエメラルドグリーンだった。同い年なのに姉のように振舞った彼女と過ごした日々は幼少時代唯一の慰めだった。あの頃は将来、リリーと暮らすことを夢見ていた。子供がいて、小さな家に住んで、それでも庭があって、リリーの笑い声が響く、そんなおとぎ話のような光景を脳裏に描いた。
「そろそろおいとましよう。かわいいナギニが待っているからな」
 すらりと立ち上がる身のこなしは優美としか言いようがなく、一瞬恐ろしさを忘れる。タイを直す姿は街角にあるファッションポスターのどれより絵になっていた。
「ナギニとはどなた、・・・・・・ペットの名前ですか」
「そうだ。それでは良い知らせを早いうちによこせ」
「はい、マスター」
 ヴォルデモートは目を細め、くっと笑った。
「ルシウスに言われたか、わたしをマスターと呼べと」
「はい」
「奴は今日も帰って来ないぞ。ここに来る前に数人ばかり始末したからな、処理に手間取るだろう」
 まるで肩が凝っているかのように数度首を左右に倒してヴォルデモートは言った。その普通の仕草と口にした言葉との落差に寒気がする。
「毎度律儀なことだ。放っておけば獣なり、死霊なりがどうにかするだろうに。わたしには関係ないからどうでも良いことだが」
 面倒くさい男だ、と鼻で笑った。
 この人にとって人の生死など関心はなく、気に入らなければそれを葬り去るだけのことなのだ。そうとわかっているつもりでも、実際に本人の口から聞くのとそうでないのとでは受け止め方が違う。
 スネイプはルシウスがしつこいほどに頷けと言った意味が少しわかる気がした。この人は少しのことで我慢ならないほど、誰かに否定されたことがないんだ。なまじ力があるから簡単に人を殺す。そうやってわずらわしいことを振り払ってきたのだとしたら、この人の側にいるからと言って排除されないわけではなく、むしろ命を落とす機会は多いのかもしれなかった。
 ルシウスが今夜も戻らないとなるとレノンのことを相談する相手がいない。アンテウォーズの町は知っているけれども、本当にこの手で・・・・・・?
 この人は『排除しろ』とは言ったけど、それが具体的にどのようなことなのかは口にしていない。たとえ『排除』を指す行為が誰の目にもどのようなことなのか明らかだったとしても、『騒ぎ立てるのを聞きたくない』のだから『一人でぎゃーぎゃー言っている』のを止めればいい。
 そう思うことでスネイプは心臓が迫り出しそうな圧迫感から逃れようとした。実際に肩の力が少しだけ抜けた。
「余計なことは考えるな」
 ハッと顔を上げるとヴォルデモートの瞳が見下ろしていた。おもむろに向かいから顎をつかまれ、鼻が触れるぎりぎりのところで美貌がささやいた。
「余計なことは考えるな。すみやかに行動しろ。馬鹿は嫌いだと言った」
 スネイプは近すぎる美貌に瞬きで答えた。
 思わず心が叫ぶのを必死で打ち消す。心を読まれるわけではないと思っても、もしかしてと恐れた。
 ジェー・・・・・・ムズ。
 ふるっと身体を震わせたと同時に顎をふり払われ、スネイプはとっさに手で口元を覆った。本能がジェームズの名を呼びたがる。あの愛しい名前を。
「いまのところお前に価値はない」
 ヴォルデモートの言葉に顔をあげると腕を組んだ美貌が見下ろしている。音を立てるかのような長い睫毛が翠の瞳にかぶさっていた。
「使えるか使えないかでお前の価値は上下する。もっとも下がる余地はない、今が最低だ。この意味はわかるな?」
 スネイプは頷いた。それを覚悟してここにきた。
「私がすべて、だ。私のために行動しろ。そうすればお前の価値は上がる」
 ここでヴォルデモートはくくっと肩を震わせた。
「私がこんなことを言うとはな。本当のところ、お前には少々期待している。気が利くそうじゃないか、ルシウスが随分とほめていた。あの生真面目で無愛想な男が口にするからには悪くはないんだろう」
 ルシウスがそんなことを。スネイプはヴォルデモートがここに現れたときから大して威圧的ではないのはルシウスのおかげなのだと思い当たった。忙しくて帰る暇もない中で、スネイプのことにも気を配っている。ルシウスがそばにいて本当に良かったとあらためて思った。
 ヴォルデモートは窓へと歩み寄り外を眺めた。
「できる限りのことはします」
 スネイプは言ったが、窓を背に振り向いたヴォルデモートは冷え冷えとした口調で答えた。
「できる限りでは駄目だ。できないことでもやれ」
「・・・・・・はい」
「私はお前に対してリスクを背負っている。お前がジェームズに言い含められて来たのではないかということと、」
「違います!」
 スネイプは思わず立ち上がった。その拍子に椅子が倒れて大きな音を立てた。
「私の話は最後まで聞け」
 スネイプはざっと血の気が引く音を聞いた。テーブルに両手をついて揺れる身体を支える。
 ジェームズとは言われた通りにきっちり別れて来た。逃げるようにではあったけれども縁を切ってきた。
 誰に謗られようとこの人に従い、行動を共にすることはたとえジェームズのためだったとしても彼に強要されたわけじゃない。
作品名:冬の旅 作家名:かける