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冬の旅

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「それから自らの意思でこちら側に来たとしてもいつ裏切ってもおかしくないというリスクだ。ジェームズのためではないというごまかしは必要ない。否定しても腹立たしいだけだ。いいか、お前がどのような理由で私の元に来たのかは問題ではない。私のために何をするかが問題なのだ。必要のないものは排除する。その力が私にはあるし、お前の存在は塵芥に等しい」
 そう言ってスネイプを見つめたまま、ヴォルデモートは歩み寄った。微笑みを浮かべた表情は煙るように美しかったが生きた人間の温度を感じさせなかった。
「私はマスターを裏切るようなことはしません」
「ほう」
 スネイプの前に腕組みをして立ったヴォルデモートは眉を上げた。
「私はお前が少々目に余る行動をしたとしてもそのスリルを楽しむ余裕はある。いい気はしないがな。自分が可愛ければいらないことはしないことだ」
「マスターを裏切るようなことはしません」
 スネイプはうつむいて再度繰り返した。この人の信頼を勝ち取ることは永遠にできない。しかし、逃げ出すことはできない。すでに印章という名の手錠はかかっている。
 いつの間にか指先が細かく震えていた。
 ふいに耳元で声がする。ベルベットのように柔らかく、羽毛のように優しい吐息のような声が。
「もしも私がジェームズを始末しても同じことを言えるのか」
 小さな笑い声が耳元ではじけると同時にヴォルデモートの気配はふっと消えた。



 フランクとアリスの結婚披露パーティはこじんまりとだがリリーの采配で9月の半ばに執り行われた。よく晴れた日で、日陰にいても汗ばむほどの気温は秋はまだ遠いのだと思わせた。
 そこかしこに花が飾られ、庭に張られたテント下に用意されたテーブルには女性たちが持ち寄った思い思いの料理が並べられた。
 質素ながら白いウェディングドレスに身を包んだアリスは輝くばかりの笑みを浮かべてひな壇に座り、ときおり隣のフランクに話しかけていた。
 綺麗に着飾った参加者たちも幸せそうなカップルに自然と笑みが浮かび、なごやかな雰囲気でパーティは始まった。
 ダンブルドアやアラスターを始め、エルファイアスら年長者たちもそろって顔を見せていた。プルウェット兄弟はいつも通りの陽気さを見せ、深いスリットの入った異国風のドレスをまとったエメリーンはまるで女主人のようだった。シリウス、リーマス、ピーターたちもフランクに祝辞を述べたり、ついでにからかってリリーにしかられたりと楽しい時間を過ごしていた。
 しかし、そこにジェームズの姿はなかった。誰もがそれに気づいていながら、あえて口には出さなかった。
 いつも快活でウィットに富んだ姿が騎士団本部に現れなくなってすでに2ヶ月になろうとしていた。ジェームズは表向き、病気療養となっていたが、彼の身に何があったのかは騎士団内において公然の秘密だった。結局は随分前に流れた噂話は本当だったのだが、内心どう思っているかはともかく表立っては誰もジェームズを責めることはなかった。年長者たちは年長者同士で話し合ったのかもしれないが、若い者たちにはそれも漏れてこなかった。
 先月末の騎士団の定例会で、リーマスが静かに話し始めた時はすでに会議も終盤で、室内は気の緩んだ雰囲気が漂っていたところにジェームズの話だった。笑って聞いていたメンバーも話が中盤になると誰も笑みさえ浮かべていなかった。
 セブルス・スネイプの名前は今や禁句だった。ジェームズとリリーの仲をからかっていた者たちさえ、この状況ではスネイプとの仲を信じざるを得なかった。
 リリーの落ち込み方は普通ではなく、気の強さは影を潜め、時折ぼんやりしては「だめね」とひとりごちた。その姿は誰の目にも失恋したように映ったが、シリウスとリーマスはスネイプが原因であることを知っていた。シリウスはリーマスが、リーマスはシリウスが、ジェームズとスネイプのような状況に陥るとしたならばリリーのようになると彼女の姿に納得していたが、リリーの内情はそれ以上に複雑だった。
 それらすべてを忘れるようにアリスの結婚披露パーティの用意は彼女によって準備され、すべてを吹き飛ばずように誰もが楽しいことだけを考えた。
 主賓のテーブルに飾られた淡いピンクを基調とされた大きな花かごはジェームズからの贈り物と紹介されたが用意したのは気を利かせたリーマスだった。
 ジェームズとシリウスは杖での喧嘩こそ回避したが、ついに先週シリウスの一方的な殴り合いが起こった。リーマスが止めてもシリウスはジェームズを殴った。派手な音がしたがジェームズの顔が心配したほど紫にならなかったことを考えれば、喧嘩慣れした者同士、やる方もやられる方も上手く立ち回っていたのだろう。
 それにしてもジェームズのスネイプへの思いは体調を崩すほどまでに深いものだったのだということがリーマスを驚かせていた。疑っていたわけではない。しかし自分を省みれば、二十歳そこそこでそれほどまでに人を愛すことのできるジェームズの人間性は自分たちとは違う次元にあるのだと痛切に思った。
 シリウスとリーマスの付き合いは親友と恋人の間で宙ぶらりんとしている。好きと言う言葉もなしに流されるまま身体を重ねた。
 今から思えば笑ってばかりの学生生活はリーマスの人生を大きく変えた。アニメーガスとしての苦しみから解放された素晴らしい時でもあった。
 あれは忘れもしない5年の春だった。どのような経緯だったかクラス中でかくれ魔女をした。シリウスとジェームズが提案したことは間違いない。いつでも二人が中心だった。
 かくれ魔女は魔女役と魔法使い役に分かれ、魔女が100数える間に魔法使いたちが隠れて、それを魔女が見つける遊びだ。
 広い学園の中、こんな遊びをすると下手したらいつまでたっても見つからない。魔女役たちとかち合わないようにふらふらとさまよい歩くのもかくれ魔女の楽しみ方のひとつだった。
 いつもの3人でなんとなく歩いていると突然ジェームズが「じゃ、僕はここで」と手を上げて走っていってしまった。「え? え?」と訳がわかっていないリーマスにシリウスは肩をすくめて「物好きだな」と言った。それでスネイプのところに行ったのだと納得したのだが、困ったことになったと内心穏やかではなかった。
 ジェームズ以外は誰も気づいていなかっただろうけれども、すでにこの頃、シリウスとリーマスの間はぎくしゃくしていた。何があったわけでもないのに一種の緊張感が二人を包んでいた。しかし、表面上二人に大きな変化はなく、あえて普段通りを心がけ毎日を過ごしていた。
 化学実験室の片隅にある用具入れに隠れたのは突然魔女たちの走る足音が聞こえて室内から出る余裕もなく、隠れる場所も見つからず、否応なくという状況だったからだ。
 そこで二人は初めてキスをした。驚いたが、柔らかいなと妙に冷静に頭の片隅で思った。それからは二人になると約束のようにキスをした。シリウスは何も言わなかったし、リーマスは何も言えなかった。唇だけが触れ合う行為は言葉も疑問も飲み込ませる。今では身体までも触れ合わせているのに相変わらず言葉はない。
作品名:冬の旅 作家名:かける