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冬の旅

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 ジェームズはシリウスとリーマスの仲はそれなりにまとまっているのだろうと思い込んでいるが、当事者のリーマスは考えてもどうなっているのかさっぱりわかっていなかった。すでに好きとか嫌いとかは関係ないような、ただ「なんとなく」という表現がぴったりだと思った。なんとなく一緒にいて、なんとなく身体を慰めあう。だけどそれが自然だったから余計何と言っていいのかわからなかった。
 スネイプはどこにいるんだろう。
 リーマスはスネイプをよく知らないが、何と言えなくとも彼の気持ちを理解しているような気がしていた。
 聞こえてきた不幸せな過去をまるごと包み込むように愛されていたはずのスネイプが何も言わずに姿を消す理由などただひとつを除いてないに違いなかった。
 ジェームズにはわからない。シリウスにもわからない。だけど、リーマスにはわかる気がした。
 ひな壇に座るフランクとアリスがまぶしかった。これから彼らは互いを唯一の伴侶として、手に手をとって前を向いて人生を歩んでいくんだろう。フランクは真面目で器の大きい男だし、アリスはおっとりと優しく人の心を癒す女性だ。これ以上のカップルはない。周囲の人々をも明るい気持ちにしてくれる。
 フランクの肩に手を回し、シャンパンの飲み比べを始めたシリウスをリーマスは遠くに見た。珍しくシリウスの挑戦を受けてたったフランクをアリスが袖を引いて勇めている。隣でリリーが呆れたように何か言っていた。
 随分と落ち込んでいたリリーも今日ばかりは元気だった。学生時代に彼女とスネイプの間にあったことは周知の事実だったが、それをいまだに気に病んでいたとは知らなかった。気が強く、何事にもさっぱりとした彼女の中に住み続けるスネイプ。ジェームズに身動きもできないほど愛されていたスネイプ。彼はどんな人だったんだろう。いまさらながらにリーマスはそれが知りたかった。
「リーマス?」
 エドガー・ボーンズが不思議そうな顔をしてリーマスを見ていた。
「どうした?」
「どうもしないよ。まだまだ暑いなぁ」
 物思いから我に返り、リーマスはじんわり滲んだ額の汗をぬぐって答えた。
「へぇ、君でも暑いなんて言うんだね。いつも涼しそうな顔をしているからてっきり暑さなんて感じていないのだと思っていたよ」
「そんなわけないよ。毎日暑い暑い。この服の下だって」
 リーマスはおろしたての淡いオレンジ色のシャツの首元をパタパタと扇いだ。
「びしょ濡れだよ」
 ジャケットもネクタイもとっくにはずしてしまっている。たいして強くもないのに暑さに負けてシャンパンの杯を重ねたために酔いの足音が遠くから近づいてきていた。
 対してエドガーは底抜けにアルコールに強い。リーマスとは比べ物にならないほどに杯を重ねているはずなのに顔色も言動も普段のままだ。
「ははっ、何を隠そう俺も汗だくなんだ。今年は去年より暑いな。花嫁さんも大変だ」
 シャンパンの入ったフルートグラスの先にいるアリスは腕までの白いレースの手袋をしていた。
「そんなこと幸せすぎて忘れてるよ」
「それもそうだ。でも不思議だな、俺たちと同じ年で結婚して。そのうち子供が生まれたりするのだよね。俺たちの親もああやって結婚したのかな、みんなに祝福されて。で、俺たちが生まれた、と」
「どうしたの、突然」
「時々考えるんだ。君はこういうことない?」
 リーマスは困ってちょっと首をかしげた。手にしていたシャンパンに口をつけて、エドガーはふっとため息をついた。ついでそっとあたりを見回すと庭の隅にリーマスを引っ張っていった。
「ごめん。こんな話をするつもりじゃなかったのだけどこの際だから聞いて欲しい」
 小声で話し出したエドガーにリーマスは耳を寄せた。
「君にはいまさらかっこつける必要もないから言えることなんだ」とエドガーは前置きしてリーマスの顔を見た。それに頷きながら何の話なんだろうと気になった。
「例のあの人のことだよ。こんななりして恥ずかしいのだけど」
 それでもなお言葉を切って黙ったエドガーの広い肩に手を置いて、リーマスは優しく続きを促した。決まり悪げに視線を落とし、大きく息を吸って一息にエドガーは言った。
「怖いんだ。毎日誰かがいなくなっている。そのうち俺の番じゃないかって。フランクたちの結婚が本決まりになった頃からひどいんだ。いつか結婚して子供をつくって爺さんになって・・・って漠然と思ってた。だけど、そんなこと言ってられるような状況じゃないだろ? ジェームズがあんなことになって余計不安なんだ。俺はダンブルドアたちみたいに何年も大人をやっているわけじゃない。見栄も張れない。でもこれまで俺が偉そうな口を利いてられたのはジェームズがいたからなんだ。みんな、そうだと思う。ジェームズがいるから俺たちはまとまっていられた。先週、ベンジーと話をしたんだ。これからどうなるのだろうってひどく怯えていた。笑えなかったよ、俺だって怖かったから。リーマス、ベンジーだけじゃない、みんな不安を必死に隠している。それを感じないか。このままじゃ騎士団がばらばらになってしまう」
 リーマスより一回りも大きいエドガーが目の前でうな垂れる姿に胸騒ぎがする。皆をクスリと笑わせるような大口をたたくエドガーは大きな身体ほどは心が強くない。人を引っ張るタイプではなく、リーダーを信頼することで精神状態を安定させ尽くすタイプだった。
「ジェームズのことはなんとかするよ、と言うかどうにかしなきゃね」
 リーマスは大きくため息をついた。
「彼は相変わらず・・・・・・?」
「うん、塞ぎこんでるよ。今は外出さえしてないみたいだ。時間はかかると思うけどジェームズには立ち直ってもらわなくちゃ」
「ジェームズ一人を頼りにしすぎだったって反省したよ。本当なら俺たち一人ひとりが責任を持って行動していかなくてはいけないことなのだけど、今まで彼の姿勢はブレることがなかっただろ? 知らないうちに彼に全部の責任を押し付けていたのだね、俺たちは」
「ジェームズはそれが重荷だったなんて思ってないよ」
「俺たちは学生時代から変わってないなぁ、いつもジェームズを当てにしてる」
「エドガー、まだ闘いは始まったばかりだ。僕らは今ばらばらになるわけにはいかない。あの人が支配した世界を想像してごらんよ。絶望しかない。それこそ結婚して子供つくって爺さんに、なんて夢になってしまう。この闘いは誰かのためじゃなくて僕らのためなんだ」
「エド」
 突然のシリウスの声に二人は飛び上がった。いつの間にかワインボトルの首を持ったシリウスがリーマスのすぐ後ろに立っていた。腕まくりした白いシャツをズボンから出し、ボタンも2つほどはずしたシリウスの姿は、これで顔が赤かったら酔っ払いに間違われるところだ。
「しけた面してんなよ。フランクたちの晴れ舞台だぜ。いつもの偉そうな口ぶりはどこいったよ」
「シリウス」
 リーマスが眉をひそめて注意する。軽く鼻で笑うとシリウスはエドガーの胸元をポンと叩いて言った。
「まったくどいつもこいつも、ジェームズジェームズって、ヤツがいなきゃ何もできないのかよ。とにかく心配すんな。あいつもわかってるはずなんだ。自分でどうにかするしかないってな。なんとか折り合いをつけるさ」
作品名:冬の旅 作家名:かける