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冬の旅

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 そして、豪快にワインをボトルのままラッパ飲みした。
「シリウス! みっともないよ、もうっ」
「リーマス、見ろよ」
 目の前に掲げられたボトルには名産地の希少価値品であることを示すラベルがついていた。なかなかお目にかかれない高級なワインだ、誰が持ってきたんだろう。
「ちょっと止められない美味さだぜ。エド、お前、もっと飲めるだろ、グラス出せよ」
 大人しく差し出したエドガーのグラスにシリウスはどばどばと乱暴にワインを注ぎ入れた。勢い余ってグラスから溢れ出る。これにはエドガーも苦笑いをして言った。
「シリウス、酔ってるのかい? 手元が危ういじゃないか」
「馬鹿言え。これくらいで酔うかよ。まだボトル2本しか空けてないんだぜ」
「十分飲みすぎだよ。それ、3本目なんでしょ。ほとんど空になってるよ」
 リーマスは上機嫌で肩に腕を回してきたシリウスを睨んだ。いつものスパイシーなコロンの匂いが鼻をくすぐる。それでなんとなく気持ちが落ち着くのだから人のことを笑えない。エドガーたちがジェームズを頼りにしているのなら、自分は勝手にシリウスを頼りにしている。
「君たちは変わらないな。学生時代からずっと仲がいい」
 リーマスは咄嗟に返事ができず無言でいたが、シリウスもふん、と鼻で笑っただけだった。その微妙な雰囲気に気づくこともなくエドガーは「今日はお目出度い日だったね。こんな暗い話をしていたらフランクたちに失礼だな」と言って、なみなみと注がれたグラスを少しかかげ「彼らに幸あれ」と祝いの言葉を口にした。
 グラスの先でフランクとアリスが音楽に合わせてダンスを踊っている。それを囲むようにして次々にダンスの輪が広がり、まぶしい青空の下、楽しげな笑い声が響いていた。
「俺たちも誰かを誘って踊ろう。シリウスの言う通り、今日ばかりは楽しもうよ」
 エメリーンを誘ったら反対にリードされそうでちょっと怖いけど、とエドガーはいつものように軽口をたたいて去って行った。
 そうだ、今日一日は幸せに浸って過ごそう。仲間の新しい門出と光り輝く未来のために。
 ロングボトム夫妻の幸せを祈りながらも肩に回されたシリウスの腕の熱さに意識は集中し、リーマスは軽いめまいを覚えた。


 指先が震えていた。心臓がむやみに騒ぐ。スネイプはベッドに横になったまま眠りにつくこともできず、暗闇の中で目を開いていた。
 アンテウォーズのレノン。あの人の怒りを買った不幸な人。死という運命が避けられないとしても手を下すのが自分なのだとは今になっても思えなかった。どこか他人事のような気がする。
 それでも逃げられないことは理解していて指先は震える。きつく手を握ってみても止まりはしなかった。
 ジェームズ。
 苦しくなると心は勝手に彼の名を呼ぶ。なるべく考えないように目を背けていても何度呼んだことか。もう何もかも失くしたというのに心の中から愛しさは消えない。今でも彼の存在がスネイプを支えていることに変わりはなかった。
 風もなく、規則正しい壁時計の音を除けば、静けさが耳に突き刺さるような夜だった。
 ヴォルデモートが来てから2日が経っていた。今夜もルシウスは帰ってこないのだろうか。早くこの不安を話してしまいたい。一人では重過ぎる。一人では何もできない。
「あぁ」
 思わず漏れるため息と暗闇に身体が圧し潰されそうになる。もう誰も抱きしめてはくれない身体をスネイプは自分で抱きしめた。
 心にぽっかりと黒い黒い穴があいている。恐々眺めてみてもどこにつながっているのかわからない。冷たい風が吹きぬけて夏だというのに身体を冷やす。スネイプは穴のふさぎ方を知っていたがそれは使えもしない方法だった。闇には太陽を。たった一人の男が自分を生かしも殺しもするのだ。
 もう一度密やかにため息をついたとき、ほのかな灯りとともにルシウスがあらわれた。すぐに灯りは消え、暗闇の中にさらに黒い影が立っている。
「ルシウス」
 スネイプのささやき声に影が答えた。
「眠れないのか」
 真夜中にふさわしく落ち着いた闇色の声に安心してスネイプは静かに身体を起こした。
「ご相談したいことがあるんです」
 ポッと小さな灯りが部屋の真ん中につく。ルシウスの指先に点った灯りはゆらゆらと揺れて近づいてきた。
「何かあったか」
 ベッドの端に静かに腰掛けたルシウスの手がスネイプの肩に乗せられ、顔を覗き込む。
「一昨日、あの方がいらっしゃったんです」
「マスターが」
「はい」
「それで」
「アンテウォーズのレノンを知っているか、と」
 ピクリと肩に置かれた手が反応する。スネイプはルシウスのグレーに光る瞳を見つめた。
「ご存知なんですね、ルシウス」
「ああ。いい歳をした老人だ。1年以上前から騒いでいた。・・・・・・消せと言われたか」
「はい」
 ルシウスは小さくため息をつくと立ち上がり、テーブルのランプに火をともした。光をしぼったのか部屋は暗闇に慣れたスネイプの目にも優しい明るさだった。
「眠れないのなら何か飲むものをくれないか」
 椅子に座りこんだルシウスがスネイプに頼む。慌ててベッドを抜け出したスネイプは冷蔵庫から冷えたアイスティを取り出し、グラスについだ。ハチミツを少し垂らしてルシウスに差し出す。
 なんでも一人でやってしまうルシウスがスネイプに頼みごとをすることはめったになく、今夜のように最初から椅子に座ってしまうことも珍しかった。
「何かあったんですか」
 いや、と答えてルシウスはグラスに口をつけて黙った。傍らに立ち、スネイプはその姿をただ眺めるしかできなかった。
 帰ってきてくれて嬉しかった。これで一人悩まなくて済むと安心するのと同じくらい罪悪感は強かった。あの人の味方になると豪語した癖に嫌なことはすべてルシウスに押し付けている。打開策を考えようともしていない。自分にはできない、力がない、やれるわけがないと言い訳を並べて考えることを放棄している。どんなことも覚悟したはずなのに。
 頭を振り乱すことでもあったのか、ルシウスの髪が絡まっていた。スネイプはその絡まりにそっと手を伸ばした。ルシウスは何も言わずスネイプの好きにさせ、静かにアイスティを飲んでいる。
 指に感じるルシウスの髪は記憶にあるよりさらに柔らかかった。絡まりをとってしまってもスネイプはルシウスの髪をひとまとめに持ち、ゆっくりと手ぐしですいていた。そうしているうちに学生時代を思い出した。
 ルシウスはスリザリンの上級生たちの中でも1、2を争うくらい優秀だったが、それと同じくらい気難しいことで有名だった。気に入らないことははっきりと口にし、その口調はいつでも厳しかった。相手が何も知らない下級生だったとしても、優しく注意するということは皆無だった。いつも眉間にシワを寄せた顔は不機嫌としか表現しようがなく、下級生の中にはルシウスを見かけるだけで不自然に背を向ける者も少なくなかった。
 そんな中、スネイプがルシウスと口を利くようになったのはささいなことがきっかけだった。図書室に忘れられていたハンカチをスネイプがルシウスに届けたのだ。正確には「人づてに届けた」のだった。
作品名:冬の旅 作家名:かける