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冬の旅

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「ルシウスはお前がやったと言った。私は満足した。話をしてから3日しかたっていなかったしな。最初にしては上出来だ。だが、あれはルシウスがやったそうだな。別に答える必要はない。確認済だ」
 胸の鼓動が身体を叩く。耳の中が膨張したかのようにヴォルデモートの声がぼわんぼわんと遠くに大きく小さく聞こえる。無意識に小刻みに肩で息をしていた。
 気づかれた。
 誰が言ったのか。誰が知っていたのか。
 血の気が引いていくのが自分でもわかる。唇が震えそうになるのを止めるのが精一杯だった。
 見られていたはずはない。あの場にはルシウスと二人しかいなかった。あのかわいそうな老人に無理やり毒薬を飲ませたとき、周りには誰もいなかった。老人の家の中でやったことだし、念には念を入れて目くらましと防音魔法をかけていた。
 老人とは思えないほどの暴れぶりに身体を押さえつけていたスネイプはあまりの興奮で気を失った。気づいたときには家のベッドに横になっており、アンテウォーズにさえいなかった。すべて終わっていたから最終的にどうなったのかは知らない。ルシウスも気分の悪い話はしなかった。
 あぁ、ルシウス。
 動けないほどのダメージを受けてどこにいるのだろう。この人に抵抗するわけがないから一方的にやられたに違いない。
 ルシウスはとばっちりを受けただけだ。善意で手を貸してくれたばっかりに、気を失い役にたたなくなった自分に代わって最後まで一人で処理しなくてはならなかった。あの老人の遺体は・・・・・・どこに。スネイプはぐっと手を握りこんだ。
 ジェームズを傷つけ、ルシウスを傷つけ、次はいったい誰を傷つけるんだろう。スネイプは蹴られた身体より心が痛かった。自分さえいなければ誰も傷つかなかったのだろうか。もしかしたら。
 もしかしたら、ジェームズさえも?
「私は騙されるのもごまかされるのもはめられることも大嫌いだ。そのようなことを考えることさえ腹が立つ。やった奴は殺してやりたい」
 スネイプがビクリと身体を震わすとヴォルデモートは冷たく笑った。
「そうだ、お前を殺してやりたい。この右手を少し振ればお前の命など簡単に吹き飛ぶ」
 ヴォルデモートはカップをスネイプに投げつけた。カップの割れる耳触りな音が部屋に響く。半分ほど入っていた紅茶がかかったが熱さは感じなかった。
「お前がそうやって突っ立っていられるのもルシウスがいるからだ。今回のことはルシウスが責めを負った。奴に免じてお前を許すが二度はない。やれと言われたことは自分でやれ。やれないなら死ね。簡単なことだ、わかったか」
 スネイプは無言で頷いた。
「ルシウスは余計な手出しをしたのは自分だと言った。美しき同寮愛じゃないか」
 そこで、くくっとヴォルデモートは笑ったが目はどこまでも冷たかった。
「お前の落ち度が奴の足を引っ張るというのも面白い。ルシウスはお前に殺されるのか」
 不吉なことを口にしたヴォルデモートは大きなため息をついてこめかみを揉んだ。
「ああ、忌々しい。このところ頭痛がひどくなる一方だ。薬はあるか」
 はいと返事をしてスネイプはさっと身を翻した。ベッド下に薬箱を収納していた。念のためヴォルデモート用に多めに調薬した薬も一緒に保管している。
 備えあれば憂いなし。スネイプはホッとした。これ以上、ヴォルデモートの機嫌を損ないたくなかった。
 小瓶を差し出すと無言で奪い取るようにつかみ、ヴォルデモートはスネイプが止める間もなく10粒ちかくも丸薬を口に放り込んだ。
「っ!」
 驚きは声にならなかった、というよりできなかった。今は何も言えない。
 ヴォルデモートの頭痛は本当のことだったらしく、本人が口にした以上の早さで頻発しているようだった。薬のなくなり方が早い。
 ルシウスを通して伝えられた要望に従って、スネイプは薬をかなり強いものに改良していた。通常は1粒で足りるところを10粒。いつもならば誤飲を考慮して調合しているが今回に限っては効き目を優先していて、即座に「問題ない」と口にできない。
 ひっかかるのは原料にレシ草を使用していることだった。幅広い症状に効く便利な薬草で一般的なものだったが、スネイプはレシ草と相性の悪いツタ葉を一緒に調合することでヴォルデモート専用の頭痛薬としていた。しかし、これら2つの薬草を一度に多量に摂取することは危険だった。10粒は多すぎるとスネイプの薬師としての経験が警告を発する。考えられる副作用は意識混濁、手足の震え。常人ではないかもしれないが不安はある。
 テーブルに右肘をつき、こめかみを揉むヴォルデモートは眉間に深いしわを寄せ不機嫌以外の何物でもなかったが、その姿はスネイプさえ魅了するほど美しかった。甘い金髪がはらりと額に落ちてエメラルドの瞳を隠した左瞼の上にかかっている。頬から顎、首にかけてのラインはまるで彫刻のような芸術的な滑らかさをスネイプに見せつけていた。赤く薄い唇から愛の言葉が紡ぎだされたならば虜にされない人間などいないに違いなかった。ジェームズを心に住まわせているスネイプでさえそう思うのだから、その魅力はそうとうなものだ。
 しばらくたってもヴォルデモートは動かなかった。スネイプはコップに水を入れ、そっとテーブルに置いた。いまさらな気はしたが少しでも薬の濃度を薄めておきたかった。
「くそっ」
 ヴォルデモートが荒々しくテーブルを叩いた拍子にコップに手が触れ、それは打ち払われたように部屋の隅まで飛んで行き壁に当たって割れた。それが引き金になったのか、テーブルの上の物は次々と薙ぎ払われた。スネイプは目を伏せ、ただ立っていることしかできなかった。散らばる花の白さが眼の端で存在を主張する。
「くっ」
 立ち上がったヴォルデモートは杖を取り出したが、何もできないままテーブルに手をつくと呻き声を上げた。
 このときになって初めてスネイプはヴォルデモートの様子がおかしいことに気付いた。恐ろしさにすくむ足を無理に動かし、ヴォルデモートに近づくと額にびっしりと汗をかいているのがわかる。
 傾く身体を支えれば荒々しく振り払われ、余計なことはするなと緑の瞳に睨みつけられた。立っていることも辛そうな姿にどうして良いのかわからない。中途半端に腕を差し出したまま動けずに見守るだけだった。
「ううぅう」
 スネイプの手を拒んだヴォルデモートは一際大きな声で唸ると頭を押さえ、杖を握ったまま崩れ落ちた。
 慌ててスネイプが助け起こそうとしても身体を丸めて右へ左へとのたうち回ると表現できるほど唸り声をあげて苦しんでいる。
 まさか副作用? しかしこんなに早く? スネイプはさっとヴォルデモートを見立てる。手足に震えはない。意識の混濁については怪しかったがスネイプは直感的に「違う」と判断した。しかしそれではこの苦しみようは説明がつかなかった。
「マスター、マスター!」
 呼びかけるとこんな時でも緑の瞳がきつい視線でスネイプを睨んだが、それもすぐにまぶたに隠される。額の汗は今や滝のように流れ落ちていた。
 医師ではないスネイプにくわしいことはわからない。副作用ではないと思うが薬を飲んだ後にこのような状態になったからにはなんらかの影響は受けていると考えられる。
作品名:冬の旅 作家名:かける