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冬の旅

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「時間は2週間だ。お前とポッターがどのような関係にあるのか、すべてわかっている。愁嘆場を演じるなり、修羅場になるなり、切り捨てるなり、好きにしろ。興味はない。だが以後会うことは許さない。ポッターだけではなく、すべての魔法使いとだ。お前を信用していない。だから大人しくしていろ。私を信用させろ。嘘でも忠誠を誓え」
「嘘でも・・・・・・?」
 スネイプは恐る恐る顔を上げ、ヴォルデモートを見上げた。長い睫毛に縁どられた緑の目が見下ろしてくる。この男の正体を知らなければ、誰もが虜になるほどの完璧な美貌だった。美しさが恐怖というスパイスを取り込んでさらに輝きを増している。
「忠誠を誓っているのかいないのか、見ていれば私にはわかる。本人以上にな。見込みのない者には消えてもらう。綺麗に跡形もなくすみやかに」
 ためらいもなく物騒な言葉を吐いて、艶やかに男は笑った。自分の魅力を十分に知っている笑い方だった。スネイプの心が男を美しいと感じていることを知っている。
「お前が選んだ道だ。そう後悔した顔をしてもらっても困る」と男が柔らかく苦笑する。
 普通じゃない男の普通な感覚。スネイプは激しく混乱した。
「2週間後、迎えに来よう」
 そう言葉を残して、男は現れたときと同様、瞬きする間に姿を消した。
 

 迷った末、スネイプはジェームズに何も言わないことに決めた。
 与えられた2週間を有効に使うため、久しぶりに2人で穏やかな時間を過ごした。心配する恋人の言葉に静かに頷き、恋人が望むように素直に甘えた。
 学生時代からジェームズはスネイプを甘やかすことが最大の楽しみだと言って憚らなかった。スネイプが少しわがままを言うだけで、十分すぎるものが返ってきた。
 学生時代、『あの月が欲しい』と夜空を指差したのは単に困った顔が見たかっただけか、前の晩にラジオから流れてきた恋歌が原因か。なんの興味もなかった歌に思わず耳を澄ましたのは恋愛をしている自覚があったからなのか。
 ジェームズはクスリと笑うと「どうしたのかな?」と言って、スネイプの頬を軽くつねった。そして「それじゃあ、散歩」とスネイプの手を握った。
 鈴虫がリンリン鳴いている裏庭を2人でゆっくり歩いた。花壇近くの水やり場でジェームズは蛇口からポツン、ポツンと垂れている水を受けているバケツに両手を入れて水をすくい上げた。
「僕が言いたいことわかる?」とジェームズは言った。
「うん」
「言ってみて?」
 蒼い瞳がスネイプを見つめている。月の光を浴びて黒い髪が輝いていた。スネイプはジェームズの手の中でゆらゆら揺れている水を覗き込んだ。月がうつっていた。
「今夜の月は半月?」
「じゃなくて」
「これって下弦の月って言うんだっけ」
「でもなくて」
 ジェームズが苦笑している。目を優しげに細めて、スネイプを見下ろしていた。いつも自分を見守っていてくれる蒼い瞳。なんの不安も抱かせない甘い視線。
「わかっているよ」
 スネイプは少し背伸びをして、素敵な恋人にそっと口付けた。
 そう、あの後が大変だった。
 ジェームズが「うわっ」と驚いた拍子に手の中の水をスネイプにかけてしまったのだった。
「ごめんっ、セブルス。大丈夫?」
 パジャマの裾で水を拭ってくれながらも焦った顔をしているジェームズがおかしくて声をあげて笑った。そんなスネイプをジェームズは愛しくてたまらないとばかりに見つめた。
「どうしたの?」
「うん、もう、どうしようかなぁ、ほんとに」
 そう言いながら嬉しそうだった。 
「何が?」
「その前にキスしよう」
 両手で頬を包むようにしてキスされた。いつにもまして情熱的なキスはスネイプから徐々に力を奪い、最後にはくったりとジェームズにもたれかかってしまった。腰に手がまわされ、ぎゅーっと抱きしめられた。耳元でささやき声がする。
「初めてだ」
 ふふっと吐息だけで笑われ、軽く耳を齧られる。
「初めてだ。セブルスからキスしてくれたの」
 そんなに感激した声を出されたらどうしていいかわからなくなる。ジェームズがくれる喜びの100分の1にも満たないこんなささいなことで喜ばれては。
 骨がきしむほどの腕の強さが嬉しかった。
「月をありがとう、ジェームズ」
 僕の望みはいつも叶えられる。ジェームズがいれば本当は何もいらないのに。
 それからの2人は「何が欲しい?」に「お月様」と答えるたわいない遊びを喜んで繰り返した。それは2人しか知らない2人だけの遊びだった。ジェームズは「じゃ、散歩」と答えることもあれば、静かにキスするだけのときもあって、これはキスする前の言葉遊びのひとつとして定着した。
「ねぇ、セブルス。僕がどれだけ幸せかわかるかい?」
 ベッドの中で2人、抱き合った後、ジェームズはいつも言った。それにスネイプは答えたことはなかったがジェームズの胸や腕をそっと撫でるだけで気持ちは通じた。
 ジェームズが幸せだと言うとき、スネイプこそ自分がどれだけ幸せか伝えたかった。すべてを諦めた子供時代から救い出してくれたジェームズに感謝していた。愛しているが、もしかしたらそれ以上に崇拝しているかもしれない。自分の何を差し出しても惜しくはない。死んでくれと言われたら一片の疑問も挟まず死ぬことは間違いなかった。
 15歳の終わりから4年弱、2人は着実に絆を深めていた。 
「ジェームズ、僕が呼んでおいて何だけど、ここに入り浸っていていいの?」
「いいんだよ」
 言葉少なに答えたジェームズはソファに座って、お茶の用意をしているスネイプを見ていた。
 優秀な成績でホグワーツを卒業したジェームズは魔法省に勤めるかとおもいきや、就職せずに対ヴォルデモートの騎士団に入っていた。シリウスやリーマスも一緒だった。彼らの友情は固い。
 学生時代からシリウスはジェームズがスネイプと付き合うのにいい顔をしなかった。口には出さなかったが時々訪ねてくるルシウスに関係があるに違いなかった。
 何を考えていたのかルシウスは卒業しても3ヶ月に1回ほど学校にふらりと現れ、何を話すでもなく数時間スネイプの部屋で過ごすとそのまま帰っていった。スネイプが卒業してからはピタリと現れなくなったことを考えると単にホグワーツが懐かしかったのか。
 時々手土産がわりに持ってきた美しい羽ペンが半ダース、スネイプに残された。繊細な造りのそれは書くというより、眺めるためのものだった。
「リリーは元気?」
 スネイプはコーヒーを差し出しながら尋ね、ジェームズの隣に座った。肩があたる2人がけのソファはオフホワイトのレザー仕立てだ。ジェームズが小さめのものを選んだ。『言い訳しなくてもくっついていられるから』と言って。昔から同じことを言うジェームズがおかしかった。
「元気だよ。時々、セブルスはどうしてるって聞くから、知らないって答えてる」
「意地悪したらいけないよ」
 カフェオレという名のコーヒーを口にして、スネイプは笑った。
 リリーもまた騎士団に入っていた。魔法力に優れ、勝気な彼女が入団するのは不思議ではなかった。
「リリーはいい子だよ。可愛いし、ジェームズとちょっと似てる」
 盛大に鼻を鳴らしたジェームズは、やめてくれ、と言った。
作品名:冬の旅 作家名:かける