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冬の旅

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 あの朗らかな声でけろりと「なんとかなるさ」と言われれば本当になんとかなると思えた。若さ溢れる溌剌とした姿はダンブルドアとはまた違った意味で皆の心を勇気づけた。
 ついにジェームズが騎士団に現れなくなってから2ヶ月がたったこの日も、リーマスとシリウスはジェームズの家に向かっていた。季節はすっかり秋になり、2人の装いも半袖から長袖シャツに変わっていた。そろそろコートが欲しいくらいだ。
 軽口しかたたかないと揶揄されているシリウスさえ、ここ数日はめっきり口数か少なくなっている。ジェームズはシリウスにも詳しい話はしていないようだった。わかっていることは何も言わずにセブルス・スネイプがいなくなったことだけで、他の騎士団メンバーとの認識と差異はない。そのことについて、リーマスは少なからず衝撃を受けていた。親友という定義が崩れていくような気がした。言い方は良くないがその他と区別されるはずだと思い込んでいた。それは傲慢な考え方なのだろうか。リーマスがそう考えるのならシリウスも考えていておかしくないが、そういったことをシリウスから聞いてはいない。ただ無口になっていくだけだ。
 そう考えてリーマスは結局二人は似た者同士なのだと思った。始終人をからかうくせに真剣に考えているときこそ何も言わない。絶対的に自分の考えが正しいと信じて行動する。
 リーマスなら誰かに相談する。その誰かはシリウスであり、ジェームズであり、年長者であるダンブルドアあり、信頼する誰かだ。問題を丸投げにするのではなく、一番良い選択をするために智恵を借りるという点で頼りにする。
 スネイプの場合は誰にも言わなかったかもしれないがシリウスたちとは違う。自虐の考え方だ。自分さえ犠牲になれば他は幸せになれると思っている寂しい考え方だ。そう思いながらも理解できると思うのも事実だった。
「限界だな」
 ジェームズの家が見えてきたとき、シリウスが言った。
「うん」
「あいつがいないだけでこんなに脆くなるとはな、俺たちじゃジェームズの代わりにはならないってことだ。わかってはいたけど、なんかムカつくな」
 最後にニヤリと笑ったシリウスはここのところ見たこともないくらい晴れ晴れとした顔をしていた。自分の中で何か答えを見つけたんだろう。
「これだけ探してもスネイプを見た奴がいないってのは誰かにかくまわれているか、とらわれているか、最悪死んでるとしか考えられないだろ。それに例のあの人の件もある。嫌な話だぜ。2ヶ月も音沙汰ないんだ、ジェームズもわかってる。それをどう受け入れるかだな・・・・・・いや、もう受け入れているかな。認めたくないだけで」
「どういうこと?」
「あいつの中でも答えが出たってこと。自分で飯を食いだしたことがいい例だろ。腹が減っては、ってのを地で行く奴だからな」
「ああ、そういえば」
 リーマスは頷いた。確かにジェームズはどんなときでも食事をきっちり三食取っていた。
 それにジェームズはどこへ行くにもちょっとしたもの―例えばお茶菓子―を買っていた。でもそれを自分で食べるわけではなくて、リリーの話によると「細すぎなんだよ」とことあるごとに口にする恋人に渡していたらしい。しかし菓子類より食料を渡したがっていたそうだから恐れ入る。
「奴も臨戦態勢に戻ってきたってことだな」
「まだ先になると思うけど。あれじゃぁみんながびっくりするよ」
 リーマスは頬のとがったジェームズの顔を思い浮かべて言った。
「まぁな。ハロウィンの仮装ってことにしたらいいんじゃないか。この際だから派手にすりゃいいさ」
「そんなのまだ先だし、毎日そんなことしてるわけないだろ」
「俺も付き合うって」
「もうっ、馬鹿みたいなこと言ってないでよ」
 リーマスが呆れるとシリウスはふん、と鼻を鳴らして笑ったが、すぐに声をひそめた。
「真面目な話、スネイプはどうなったと思う」
 リーマスは急な話の切り替えにいつものことだと思いつつ小さくため息をついた。
「ジェームズには言えないけど自分から姿を消したんだと思う」
「だろうな。あのクソ酒場に出入りしてたってのがいい証拠だ」
「うん」
 リーマスは頷いたが、やっぱりシリウスはわからないんだなと思った。
「シリウス、僕ね、スネイプがどんな人だったのか詳しくは知らないけど、なんでこんなことしたのかわかる気がするんだ」
「なんだよ」
「うん、うまく言えない。きっと僕とスネイプは同じ側の人間なんだ。シリウスがジェームズと同じ側なのと同じで」
「なんだ、そりゃ」
「まぁいいよ、そんなことは。たぶんスネイプは死んではいないと思う。死んでたらジェームズのもとに遺体が届くはずだから。こんなこと考える僕もどうかと思うけど、たぶんそういうことになってると思う。ダンブルドアたち年長者よりジェームズは目立ってきていたし、とにかく目障りな存在だろうからダメージを与えられるなら何でもするんじゃないかな」
「まぁな、俺もそう思う。で、奴はどこにいるんだ」
「わからないけど人目につかないところ。誰も見ていないなんておかしいもの。それに一人じゃ生活できるわけないから誰かと一緒にいると思う」
「誰かって?」
「最悪、あの人」
「本当に最悪だな」
 忌々しげにシリウスが口にしたとき、2人はジェームズの家の玄関先に着いた。呼び鈴を鳴らす前にシリウスが言った。
「ジェームズには俺から話すからお前は黙ってろよ」
「言われなくても黙ってるよ。上手く言える自信ないもの」
 肩をすくめたリーマスにシリウスは嘆息して呼び鈴を鳴らした。
 扉を開けたジェームズの母親に軽く挨拶をして、通い慣れた部屋に向かう。
「奴も難儀なことになったもんだな。愛だか恋だかよくわからんがここまでおかしくなるもんかね」
「僕らにはわからない次元の話なんだよ」
 シリウスが呆れた口調で「わからない」と言ったことに対して諦め半分衝撃半分でリーマスは言った。本当に自分たちには関係のない話なのだろうと思う。昨日もシリウスの指はこの身体を好きにしたというのに。いったい僕らはどこに向かっているんだろう。
「リーマス」
 何、と言う言葉はシリウスの唇の中に消えた。かすめるようなキスをした後、何も言わずにシリウスはジェームズの部屋の扉を開けた。
「ジェームズ!」
 ソファに座って雑誌をめくっていたジェームズの顔色が昨日より格段にいい。さっぱりと身なりを整え、リーマスを見た瞳は蒼く澄んでいる。いつも締め切られていたカーテンは開かれて部屋全体が明るかった。
「やぁ」
 雑誌を閉じ、テーブルの上に置いたジェームズはとても穏やかに挨拶をした。
「よぅ」
 シリウスも一言で済ませる。リーマスは突発的なキスに心臓が裏返りそうになっていてひきつった顔で笑うだけだった。
「シリウス、君のかわいこちゃんが困るようなことをするなよ」
「うるせぇ」
 ジェームズの軽口にリーマスは目を白黒させた。見ていたわけでもないのにどうなってるんだ。
作品名:冬の旅 作家名:かける