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冬の旅

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 ずかずかと部屋を横切ってジェームズの前に座ったシリウスはソファをぽんぽんと叩き、動揺して赤い顔のリーマスの気を引いて隣に座るよう促した。シリウスとのことを知られているとは言え、いざそれを口に出されるとリーマスはいまだに恥ずかしかった。
 そんな気持ちを知っているのか知らないのか、隣に座るとシリウスはリーマスの後頭部をポンと叩いてジェームズに話しかけた。
「復活か?」
「別に。カレンダーを見たらもう来週はハロウィンじゃないか。どうりで寒くなったはずだよ。今年は何の仮装をする? どうせならばかばかしいくらいくだらないことをやろうか」
「それもいいな」
「去年は不発だった。誰か笑ってくれるかと思ったらドン引きだもんな」
「完全なウケ狙いだったのにアリスまでしかめっ面だったぜ」
 シリウスはテーブルにあったポットで紅茶を入れた。
 この数ヶ月のことがまるで何事も無かったかのように話す2人にリーマスは取り残されたような気分になる。この二人の呼吸の合い方は誰にも真似ができない。あまりに自然体で何かあったのだと気づかせる変化はジェームズがすっかり痩せていることだけだ。
「あの身体をつくるのがどんなに難しかったか誰も興味ないなんてさ。どれだけビーカーや試験管を爆発させたか聞かせてやりたいよ」
「あれで金欠になったってのにな。ビスケットだけのランチ、懐かしいぜ」
 シリウスとジェームズは視線を合わせてニヤニヤ笑った。その光景を呆れながら見ていたリーマスは昨年のハロウィンを脳裏に思い起こした。
 お祭り騒ぎが大好きな元グリフィンドール寮のお騒がせ男たちは、毎年ハロウィンパーティには皆をあっと言わせる姿で登場する。まともだったのはホグワーツ時代にマクゴナガルが事前に「今年も馬鹿なマネをしたら退学です!」と再三言い放っていたときだけで、そのときでさえ「それもいいか」と頷きあう2人をリーマスが止めたという過去がある。
 シリウスがボタンスイッチを身体中につけていたときはボタンを押せば音がなり、においが出るという不思議な現象があったが、迷惑なことに音はともかくどれを押しても鼻がひん曲がるような臭いにおいが発生した。ジェームズはといえば毛むくじゃらの熊姿で現れたかと思えば、どうなっているのか口からマトリョーシカのように小熊を次々と出現させ、それをまた飲み込んだり出したり、もう何が何やらよくわからないことをやらかしていた。あれにはマクゴナガルが散々怒ったものだった。
 しかし、ついに昨年、2人は皆を呆れかえらせた大技を繰り出した。
 サンタクロースのような赤い帽子をかぶった小人が誰もが見上げるほどの大男に抱かれて現れたのだ。もちろん、このコンビがジェームズとシリウスだったのだがこの時点では誰もそれを知らない。
 小人は妙に年を取っていて髪も髭も真っ白だった。もし大男をアーサーが見ていたら「フランケンシュタイン!」と叫んだだろうが、あいにくこの日、アーサーはモリーと旅行中でいない。
 パーティには招待状が必要だ。部屋に入ってきたということは誰かから招待状を受け取っていることになるのだが、こんな珍妙な二人組に誰も心当たりはない。誰だろうと思っている間にこのコンビは次々と料理をたいらげ、ワインを飲み干し、耳が壊れそうなほどのゲップをして皆の眉をひそめさせた。
『さてと、腹ごしらえも上々。皆様、これよりマジックショーをお見せいたしましょう』
 キーキー声で小人が大男の腕の中で言うと、ぴょんと飛び降り不恰好にお辞儀をした。小人は食事中も大男にかかえられていたのだ。
 その後は小人の言葉通り、ハンカチの中から白いハトが出てきたり、何もない空間から札束が出てきたりと楽しいマジックが披露され、奇妙な二人組みの存在はいつしか受け入れられていたのだが、小人がわざとらしく『ウォホン』と咳をした後にニヤリと笑った顔は皆に一抹の不安を抱かせた。
 その不安ははずれることなく、部屋はすぐに大混乱に陥る。小人はにこにこと能面のように笑いつつ、ハットから巨大なドブネズミを次々に取り出し、それまで何もしていなかった大男まで服の袖からあらゆる種類の蛇をマジックを楽しんでいた人々に向かって放り投げ始めたのだ。
『キャー!!』
 女性たちのつんざくような悲鳴と男性のうわずった声が渦となって部屋に響いた。子供連れも多く、誰もが出口を目指して逃げ惑う中、小人と大男の笑い声が聞こえる。逃げ惑う人々が彼らを振り向くとさらに驚くことになった。小人が大男に、大男が小人に、姿はそのままで大きくなったり小さくなったり伸び縮みしている。まるで悪い夢のようだった。自分の目を疑うようなことが起こり、人々のパニックは輪をかけて大きくなった。蛇は今や部屋の床を埋めるほどになり、部屋の壁をドブネズミたちが駆け回る。女性の中には気絶する者まで現れたが今度は出口の扉が開かない。
 ついには人々の身体の上をネズミが走り抜けるようになり、天井までのぼった蛇が上から落ちてくる最悪の事態になったとき、どこからともなくジェームズとシリウスの高らかな笑い声が響き渡った。
 見ると腹を抱えて2人が笑い転げている。ふと気づくとおぞましいネズミも蛇もいなくなっていた。どうやら時間がたつと自然と消えてしまうものだったらしい。腕や足に巻きついていたはずの蛇や身体を駆け上ったネズミたちの感触はありありと残っているのに、まるで幻だったかのように部屋はまったく乱れたあとがなかった。
 窓際に小汚いかっこうをした2人組みが立っている。服装からして、大男がシリウスで小人がジェームズだったらしい。
『すっごいマジックだろ?』
 得意気にシリウスは言ったが凍りついたように動かない人々に首を傾げた。先ほどの騒動が嘘のように部屋は静まり返っている。
『どうしたんだ?』
 傍らのジェームズに問いかけるがジェームズは肩をすくめただけだった。
『シリウス』
『わかってる』
 2人が窓から飛び降りるのと、人々が叫ぶのは一緒だった。
『ジェームズッ』
『シリウスーッ』
 それから1週間、2人は姿をくらましていた。さすがにやりすぎたと反省したのだろうと人々は忌々しく思いながらも呆れていた。毎年毎年、よくもやってくれる。このいたずらにかける情熱を普段の生活に活かせばいいのに。ジェームズは要所は締めるが見切りが早く見放したが最後、まったくといっていいほど同情を見せない。シリウスにいたっては行動自体がジョークなのか本気なのか区別がつかない。
「去年は散々な目にあったからな、ちょっとはアートで攻めるか」
「誰も彼もが嫌味を言うんだからまいったな」
「特にリリーにはな。俺らの可愛いいたずらにはがみがみ怒る癖に、人の耳元で突然叫ぶのは許されるっていうのはどうかと思うぜ。文句を言ったら百倍になって返ってくるし」
 ここでついにリーマスは口を挟んだ。2人の会話を聞いているだけで頭痛がする。
「あのね、リリーが怒るのも当たり前だろ? 去年は僕だって部屋を逃げ回ったんだよ。あのドブネズミと蛇、今思い出すだけでも寒気がする。今年も同じようなことをするつもりなら付き合いを考えさせてもらうよ。もうあんなのはごめんだ」
作品名:冬の旅 作家名:かける