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冬の旅

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 ジェームズはテーブルにあった角砂糖をシリウスに投げつけた。
「やばい、シリウス。君の危機だ」
「砂糖を投げんな。なにが危機だ」
「君のかわいこちゃんが怒ってる」
 シリウスははぁーっと大きなため息をつくとおもむろに足を組み替えた。
「これに関しては一度お前と話をしなきゃならないな」
 ジェームズはシリウスにふん、と鼻を鳴らし、リーマスには真面目な顔を向けて言った。
「言葉は悪かったけどリーマスをからかっているわけじゃないよ。シリウスをからかってるんだ。こんな偉そうな奴がメロメロになってるなんて。リーマス、シリウスに遠慮することないさ、もっとわがままを言って困らすくらいがちょうどいい」
 リーマスが口を開く前にシリウスが言った。
「なにがメロメロだ。それはお前だろう」
「否定はしない。僕はセブルスに骨抜きさ」
「けっ。やってられるかよ。お前、色ボケしてる場合じゃないぞ」
「わかってるよ。長く休みをもらった。今、騎士団はどうなってる?」
 ゆったりとソファに腰掛け、シリウスに話を促すジェームズは以前と変わりなく、彼にまかせておけばなんとかなるという安心感を漂わせていた。
「年長者たちがまとめてる。お前がいない間にヴォルデモートの勢力は一段と増したぜ。下っ端の奴が数人行方不明だ。中堅どころはさすがだ、動揺しているかもしれないが表には出していない。でも若い奴らはちょっとマズイな。どうにかするのはお前の役目だぞ」
「うん、そうだな。気は進まないがやるしかないか」
「それが無断で長期休暇をとった奴の言い草か。働け」
「シリウス、そのことで僕は言っておきたい」
 ジロリとシリウスはジェームズを睨んだ。聞きたくないことを言うに違いないと確信している目つきだ。
「明日から騎士団には顔を出す。だけど、半分だけだ。残りの半分は僕の時間にさせてもらう」
「なんだと?」
「わかってるだろう」
「わかりたくもないね。ばかばかしいことにヴォルデモート側につく奴は増える一方で狂ってるとしか思えない。それなのに騎士団は末端から崩れかけてる。若い奴らはお前が頼りなんだ。お前がいるから騎士団に入ったって奴だっているんだぞ。それでもお前は半分しか協力しないって言うのか」
 2人の口調が激しくなるにつれて、リーマスはまた仲違いをするのではないかとハラハラした。ジェームズがこんなことを口にするなんて。
「そんなことは言ってない。できる限りのことはする。ヴォルデモートが支配することは絶対に阻止したい。僕らは確実に殺られるだろうしな。でも、もしもだよ。もしも、セブルスがそばにいて僕と生きてくれるならヴォルデモートなんてどうでもいい。誰が世界を支配しようが構わないさ」
「・・・・・・殴るか?」
「殴られるだけですめば助かると思えるくらいのことを言った自覚はあるよ」
 2人はしばし睨み合った。先に目を逸らしたのはシリウスだ。前のめりになっていた身体を起こして深くソファにもたれ大きく息をした。
「いいか、ジェームズ。お前がスネイプを探している間、俺たちが何もしなかったと思うか。必死になって探した。一人二人じゃない、ほとんど全員が探したんだ。それでも見つからないって言うのはあいつが自ら姿を消したってことの証明になるんじゃないか」
 死体さえ見つからないんだぞ、という言葉はさすがのシリウスも自重した。
「仮に1ヵ月後にスネイプが見つかるとしよう。それまでに世界がヴォルデモートの支配下になってたらどうするんだ? 2人でいればハッピーだとか馬鹿なこと言うなよ。現実的な話、ヴォルデモートは必ず騎士団を潰すまで容赦しないだろうし、お前が言う通り俺らは殺られる。名前も顔も割れてるからな。お前がイカレたハッピーライフを送りたかったらヴォルデモートを殺るしかない。あいつと俺らは共存できない。どちらかしか生き残れないんだ。言いたかないがスネイプはヴォルデモート側にいると俺は思うぞ」
「・・・・・・もしも、の話さ」
 ジェームズはポツリとそう言ってソファにもたれたまま目を閉じ、しばらく眉間を指で揉んでいた。
 誰も何も喋らなかった。リーマスはジェームズがシリウスの話を否定しなかったことに驚きつつも納得していた。スネイプがヴォルデモートの近くにいることをジェームズが考えなかったはずはなく、行方を捜すうちに出した結論なのだと思われた。うつむいて目を閉じているジェームズの顔は顎が尖り、前より彫りが深くなった。そこには愛する人がいなくなってからの苦悩が表れていた。
 どのくらい時間がたったころだろう、ジェームスが口を開いた。
「シリウス、リーマス」
 穏やかな口調だった。微笑んでいるかのように唇が綻んでいる。ジェームズの蒼い瞳が優しく光っていた。
「僕が先にセブルスを好きになったんだ」
 ジェームズは少し首を傾けて懐かしそうに目を細めた。
「5年前だ。セブルスは僕のことなんて知らなかったと思うよ。僕は今思えば自信過剰の嫌な奴でさ、口には出さなくても相手を馬鹿にしてることなんてザラだったし、ムカつく奴は最初からシャットアウトさ。だけど、セブルスを見てると自分が恥ずかしくなったよ。絶対に人を馬鹿にしない優しさを持ってる、たとえ自分が馬鹿にされたとしても。ひどく傷ついたことがあると優しくなれるんだね。本当に人として大切なことを教えてもらった」
 ジェームズはポットの紅茶をカップに注ぎ、ソーサーを持ってソファに深く腰掛けた。
「僕らはうまくやっていた。喧嘩をする理由も見当たらないくらいにね。どんなときでも僕はセブルスのことが好きだったし、セブルスも僕のことが好きだった。自信過剰だって笑わないでくれよ、落ち込むから」
 ふふっとジェームズは幸せそうに笑った。シリウスとリーマスはその笑みに思わず引き込まれた。
「いつも手が冷たくて、冬じゃなくてもハンドクリームが手放せなかった。僕は荒れた手にクリームを塗るのが好きでさ、・・・・・・寒くなってきたのにセブルスはクリームを持っているのかな」
 窓の外に視線をやりながらジェームズは紅茶を口に含み、膝においていたソーサーにカップを静かに置いた。
「『流星の騎士と三日月の王女』って本、読んだことあるかい?」
 突然、話が飛んだ。リーマスは軽く頷いた。
「あるよ。ホグワーツの図書館にもあった。シリウスは?」
「俺が読んでるわけないだろ」
「けっこう有名な本なのに。いつだったか課題図書にも選ばれてたよ」
「興味ない」
 一言で話を終わらせたシリウスは沈黙をもってジェームズに続きを促した。
「あの本はプリンセスとナイトのラブストーリーさ。二人は相思相愛なんだけど悪大臣に騙された王女が騎士を処刑するって話」
「アホらしい。お涙ちょうだいか」
「ストーリー自体は単純なんだけど僕は感心したね」
「乙女か、お前は」
「ちょっとシリウス、なんだって文句ばっかり言うんだよ。僕だっていい話だと思ったけどな」
 シリウスは身体ごとリーマスに向き直っていつもより少し真剣な顔をした。
「リーマス、死んでどうなるっていうんだ。俺なら見苦しくても言い訳を並べ立てるね。引っ叩いてでも信用させる。死んだら終わりだ。愛する女ともお別れだ。何もいいことはない」
作品名:冬の旅 作家名:かける