二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

冬の旅

INDEX|34ページ/75ページ|

次のページ前のページ
 

 ジェームズも軽く頷いて同意する。
「シリウスの言うことはもっともだね。死んだら終わりだ。でも僕が感心したのは死ぬときまで騎士が王女を信じていたことさ。一片たりとも疑わなかった」
「ありえないな。だから物語なんだ、現実的じゃない」
 シリウスの否定にジェームズは少し笑って、手にしていたカップ&ソーサーをテーブルに置いた。ビスケットののった籠をリーマスのほうに押しやって手を伸ばすように視線で促し、リーマスがひとつ手に取ると、それを見てからジェームズはシリウスに向き直った。
「シリウス、セブルスは『さよなら』って言っていないんだ。僕は信じてる。いつか帰ってきてくれるって」
 シリウスは思わずソファを叩いた。こいつは何を言っている? 親友がここまで理解できないことは初めてだ。
「お前が信じるのは勝手だ。だけどそれと騎士団とを天秤にかけるな。スネイプは消えた。お前も認めてるんだろう、ヴォルデモートのそばにいるってことを。生きてるってことはヤツに協力しているってことだ。役に立ってるんだ。それがどういうことかわかっててそんな甘いことを言ってるのか?」
 掴みかからんばかりに身を乗り出したシリウスの肩にリーマスは軽く手を置いたが、それにも気づかないようにシリウスは言葉を続けた。
「スネイプが騎士団のことなんて何も知らないのはわかってる。お前が話すわけないもんな。だけどスネイプはお前のことを話すぞ。お前の情報はあっち側に筒抜けだ。もうお前はハンデを背負ってるんだ。誰よりもお前が危ないんだ、しっかりしろよ。ここまでされてもお前は信じるって言うのか? スネイプの何を信じるって言うんだ」
 なぜ簡単なことがわからない。スネイプが生きているからジェームズが危なくなる。
 口が裂けても言えはしないが死んでくれていたほうがよっぽど事は簡単だった。ジェームズはスネイプを諦めるしかないし、一時的に落ち込みはしても以後は復讐という名のもとに目をよそに向けず、すべてを騎士団に賭けるに違いない。そうすればその鬼気迫る姿に今崩壊しかけている団員たちもまとまり勢いを増す。考えれば考えるほどいいこと尽くめだった。
「シリウス、理屈じゃないんだ。セブルスがどうとか関係ないんだよ。僕がセブルスを信じる。それだけだ。好きな気持ちはどうしようもないんだよ」
 呆気に取られた顔のシリウスを放って、ジェームズはリーマスに話しかけた。
「迷惑をかけるね、リーマス。プルウェットたちは明日本部に顔を見せるかな」
「え、あ、うん。ここのところ毎日来てるから来ると思う」
「二人は動揺してる組?」
「うううん、いつもどおりだよ。動揺してるのはディグルとかジェームズのことが大好きなエドガー」
 リーマスの軽口にジェームズはくすっと笑った。
「僕も明日本部には顔を出すつもりだけどプルウェットたちが来たら教えてくれないか。特にフェービアンとは必ず会いたいんだ」
「何をする?」
 これまでにないくらい不機嫌顔のシリウスが口を挟んだ。とりあえずスネイプのことを考えるのはやめたらしい。考えたくもないというのが本当のところだろうが。
「最近、ダンブルドアは何か言っていたか?」
 シリウスの問いに答えずにジェームズは反対に問うた。
「大々的には忠告しただけだ。はっきりとわからないことで騒ぎ立てるのは愚かだ、冷静になれと3日前のミーティングで言ったきりだ。年長者たちがかろうじて混乱を抑えてるって感じだな。俺らとダンブルドアたちじゃ年が離れすぎてる。尊敬はしていても現実は共感が得られにくいんだ」
 そうしてシリウスはチラッとジェームズを見てコーヒーが飲みたいと言った。それにリーマスが「もうっ」とため息をついた。
「紅茶じゃダメなの?」
「リーマス、悪いけどお湯をもらってきてくれないか。リビングに母がいると思うから。あと前に褒めてくれたキルトの布団カバーだけど、よっぽど嬉しかったかして母がリーマスのために作ったんだ。もらってやってくれ」
「ほんと? 悪いことしちゃったな、キルトって作るの面倒なんだよ。でも嬉しいな」
 リーマスは笑顔で立ち上がった。ジェームズの母親は気の優しいリーマスがお気に入りで息子そっちのけでいつも気にかけている。柔らかな風貌と丁寧な言葉遣いでリーマスは母親年代に受けが良かった。
「シリウス、コーヒーが飲めるのは20分後だから」
 そう言い残してリーマスは部屋を出て行った。
「わざとらしかったかな」とジェームズは言った。
「さあな。気づいてても言うような奴じゃねぇよ」とシリウスは答えた。
 シリウスの意味ありげなアイコンタクトに気づいたジェームズがさりげなくリーマスを部屋から出したのだった。
「それで? 何があった」
「アンテウォーズのレノンがいない」
「またか」
 騎士団員ではない一般人で、ヴォルデモート嫌いとして有名な老人だった。魔法力は弱く魔法学校をまぐれで卒業したと言われていたがさだかではない。
 反ヴォルデモート運動と称してふらりふらりと出かけて行ってはこそこそと何かやっているらしい。騎士団としては年を取りすぎ、さらに魔法力がないような人物を本部に迎え入れるには二の足を踏むが、世間が尻込みするなかでも断固として反ヴォルデモートを唱えているのは心強かった。だからこそ身の危険を心配してダンブルドアが護衛として誰かを差し向けようとしたが断られた。誰とも馴れ合う気はないらしく、いつも一人でいる変わった老人だった。
「それがな、今回はいつもと様子が違う。俺がこの話を聞いたのは昨日なんだが姿が見えなくなったのは1週間以上前のことらしい」
「どういうことだ」
「俺はノリスに聞いて、ノリスはパトリシアから聞いたと言っていた。彼女は時々食事の差し入れをしていて、爺さんとはそこそこ懇意にしていたらしい。たまに一緒に食事をするってレベルだけどな。1週間ほど前に焼き菓子を持って遊びに行ったら爺さんはいなくて、焼き菓子だけ置いて帰ろうと家に入ったら綺麗過ぎて違和感がしたって話だ。あの家は確かに薄汚かったからな。あとな、どうも魔法が使われたのを消したような後があったそうだ」
 ふぅん、と頷いてジェームズは腕組みをして黙った。
「・・・・・・殺られたと思うか」
 シリウスには判断がつかなかった。一年以上も騒ぎ立ててきたにも関らず今まで無事であったのに、今さら何の力もない老人をヴォルデモートが消すだろうか。
「直接パトリシアには話を聞いたのか?」
「いや。甥っ子が病気だとかで実家に帰っていて聞いてない。甥っ子ってのは姉の子なんだが両親が面倒を見てるんだ。彼女の姉は3年前に亡くなってる」
「そうか。死体が見つかったわけじゃないんだな?」
「ああ」
 シリウスは頷いた。
「このことを知っているのは誰だ?」
「今のところ、お前と俺だけだ。ノリスには口止めしておいた。次から次に人が消えてるなんて話をしてもいいことはないからな」
「それが正解だな。あやしいところはたくさんあるけど、まだ1週間程度しか経っていないなら判断はできないな。明日リリーに聞いてみよう。何か知っているかもしれない」
「わかった、そうしよう。ところでさっきフェービアンに会いたいって言ってたが何かあるのか?」
作品名:冬の旅 作家名:かける