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冬の旅

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 話をひとつ終わらせたことでリラックスしたのか、肩をぐるぐると回してシリウスは尋ねた。
「前に気になることを言ってたんだ。夜の闇横丁でルシウスを見たと」
「ジェームズ、マルフォイ家はあっち側だぞ」
 動きを止めたシリウスの目つきが悪い。顔までしかめている。シリウスのルシウス嫌いは学生時代から有名だ。
「うん。でもこれまでルシウスはマルフォイ家を継いでから目立った動きはしてこなかった。あれだけ強大なファミリーの頂点にいながらね。でも確実にヴォルデモートに次ぐナンバー2の地位にいることは間違いないだろう? そいつが少しの間ここを離れるって話をしてたんだって言ってた」
「ちょっと待て。フェービアンは夜の闇横丁に行ったのか?」
「ルシウスの後をつけてね」
「あいつだって顔が割れてるだろ? あっぶねぇな」
「ルシウスは何をしに行ったんだろう。ヴォルデモートの腹心の部下が自分で動くっていうのはかなり重要なことだと思わないか」
 ジェームズは薄々感づいている。シリウスが思いつくことがジェームズに思いつかないわけはない。ルシウスという名が出た時点で自動的に浮かぶ名前がある。ということは、ジェームズはスネイプがヴォルデモートのそばにいることを認識しているわけだ。
「結局、どんな話をしていてもお前の問題はひとつなんだな」
 ジェームズは何も答えなかった。ソファに背を預けて、何を考えているのかわからない瞳でシリウスを見つめている。
 いつからこいつはこんなふうになったんだろう。死んだら終わりだと言うくせに自分の命を危機にさらす男を好きだと言い、そばにいてくれるなら後はどうでもいいと口にする。
 スネイプより優れた男も女もやまほどいる。スネイプより下を探すのが難しいほどだ。それなのにジェームズはスネイプを選ぶ。陰気な顔をした男の何がいいのかシリウスにはひとつも理解できなかった。
「死ぬ気はないよ」
「当たり前だ。俺もない」
 ジェームズの言葉にシリウスは即答した。
 そこへ上気した顔でリーマスが戻ってきた。赤い首輪をしたシャム猫を抱いている。
「ジェームズ! 猫、飼ったの?!」
「・・・・・・ああ。話したことあったろう? エルザだよ」
 シリウスの隣に座り、リーマスは優しく猫を撫でた。とても気に入ったらしく嬉しそうににこにこしている。エルザも珍しく大人しく撫でられていた。
「すごく可愛い。いいなぁ、僕も飼いたくなっちゃうよ」
「リーマス、湯は?」
 シリウスの問いかけは軽くスルーされる。
「この子、今何歳? いつからいるの? あ、舐めた」
 エルザが小さな舌でリーマスの指を舐めていた。
「4歳。夏からいる。いつもリーマスたちが来るときは寝てるかどっか行ってたから見たことなかったんだ。今日はいたのか」
「鈴が良く似合ってる。美人さんだなぁ」
「おい、湯は?」
「そんなの自分で持ってこればいいだろ。僕はリーマス・ルーピンですよー、レディ」
 リーマスはエルザを抱き上げて挨拶をした。リーマスは動物が大好きでその中でも猫が一番好きだった。特にエルザのような上品なシャム猫には心を持っていかれる。
 シリウスはジェームズに肩をすくめて両手を上げた。
 リーマスが戻ってきたことで先ほどまでの話は途切れたが、まったく関係ないことを話題にすることで雰囲気がパッと明るくなった。リーマスの曇りない声が暗い気分から二人をすくいあげる。
 以降、三人はフランクとアリスのウエディングパーティ、彼らの新居、ハロウィンの仮装などとりとめのない話で盛り上がった。
 早めの夕食をジェームズの母親が用意してくれたので久しぶりに三人で食事をした。良く食べ、良く飲み、良く笑った。
 最終的にハロウィンはまともな仮装をすることになり、リーマスの願いが聞き遂げられた格好となったがそれでもリーマスは何度も念押しをした。前科がありすぎるだけに油断はならない。
 帰り際、玄関まで見送りにきたジェームズは「もうこんな無様な姿は見せないよ」と妙にさばさばとした口調で言った。もしかしたら、それは自分に言い聞かせていたのかもしれないとリーマスが気付いたのは久々の親友との食事で機嫌の良いシリウスの腕が腰を抱いてきたときだった。
 ジェームズは前に進もうとしている。僕たちをおいて。たった一人で。たった一人のために。
 
 
 ヴォルデモートが倒れてから1週間がたっていた。呼吸のたびに上下する胸の動きがなければ死んでいるのかと間違うほど静かに眠っている。静脈さえ青々と見えそうな顔色は相変わらず真っ白で、まるで精緻な彫刻がベッドに横たわっている錯覚に陥る。
 スネイプは原因がわからなくとも大量に摂取した薬の成分を薄めるため、とにかく水分を摂らせようと少しづつ水やスープや果汁を口に含ませた。不思議なもので器官に詰まることなく、呼吸とともに本当にわずかだったがこくりこくりと飲み込んだ。
 発熱もなく、外傷もなく、ただ目を開けないだけで、快方に向かっているのか、悪化しているのかスネイプにはわからなかった。
 医者に診せたかったが、この人の顔が割れているのか割れていないのかわからず、おそらく割れていないと思ってもうかつなことはできなかった。定期的に栄養剤を口に流しこんでいても、近いうちに医者の手を借りなければならないことはわかっていた。
 ルシウスに頼りたかったが今日まで音沙汰がないことを思えば、傷はスネイプが考えていたより数段ひどいもので、そうだとすればいまだ治癒しておらず、精神的なダメージも大きいに違いない。何より、自分のせいで大変な目にあったのにそれを棚上げにして無神経にも顔を見せることなどできはしなかった。
 ただラッキーだったのは、定期例会までは時間があること、今のところ誰も事態に気づいていないこと、おそらくこの場所は知られていないことだった。まだ時間はある。
 冬が急速に近づいて来ていた。山の日没は早く、4時になればあたりには宵闇が漂う。チラリと目をやった壁時計は5時を過ぎていた。すでに外は真っ暗だ。今日は一日中北風が強く吹き、今も部屋から漏れる灯りで木々が激しくからだを揺らしているのが見える。時折窓ガラスがビリビリと音をたてた。この冷え込みでは近いうちに山頂で初雪が降ってもおかしくない。スネイプは厚いカーテンを閉め、暖炉に新しい薪をくべた。
 昼間、何かしていないと落ち着かないために作ったブラウニーは焼き上がる前の甘い匂いが気を失うかと思うほどつらかった。さらには一人で食べるには多すぎ、またそれ以上に思い出が詰まりすぎていて胸が痛く、おもいのほか口にすることができないままラップをかけてテーブルの上にあった。
 苦しくなるくせに昔を懐かしむことをやってしまう。ペーパーナイフを眺め、ハンドクリームを塗り、首にかかる銀のネックレスを触っている。そうして、戻ってこない日々をますます痛感するのだった。
作品名:冬の旅 作家名:かける