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冬の旅

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「お前なぁ、何言ってんだ。俺が知るかよ。ジェームズだよ、ジェームズ。俺はな、好き嫌いが激しいんだ。顔も見たくない奴なんて山ほどいる。だけど我慢してるのは俺がごちゃごちゃ言ったらジェームズがやりにくくなると思ってるからだし、奴が一番どうにかしてくれるって思ってるからだ。俺だって他の奴らと何にも変わんねーよ。ジェームズに丸投げだ。だからジェームズがこうだって言ったらそれに従うし、その結果死ぬようなことがあっても悔いはない。それがあいつ一人に事を押し付けてる責任だからな。他の奴らはそこがわかってねーんだよ。あっちこっちで文句言うのはそういうことだろ。一人じゃ何もできないくせに文句だけは一人前だ。ジェームズがいなけりゃいないで文句を言うし、いたらいたで文句を言う。ジェームズがスネイプを探すことはもう仕方ねーんだよ。それを受け入れられないなら一人で立ち向かって行けって。俺はスネイプなんか大嫌いだけどな、真剣に出てきて欲しいぜ。ジェームズのそばにいてやって欲しいって心から思ってる。それで万事うまく収まるんだ。そうだろ」
「声が大きいわ、シリウス」
「文句言ってる奴らにはな、ジェームズにばかり求めるがお前らはいったい何をしたんだって俺は言いたいね。少なくともスネイプはジェームズの心のよりどころってやつだったんだ。貢献度は奴が一番だ」
 普段にはない真面目な顔で言い切ったシリウスが黙ると、階下からさわさわと人の喋る声がして時々笑い声が聞こえた。
 ずっと前から、それこそシリウスたちが騎士団に入る前からヴォルデモートの勢力は少しづつ大きくなっていたのだろう。騎士団はそれに対応してきたはずだったが、今となってみては増えた仲間が次々と消えていることに加え、どう考えても悪化している事態といつ終わるのかわからない状況に疲れ始めているのも事実だった。
「ジェームズはいまだに家賃を払い続けてる」
 ポツリとシリウスは口にした。
「家賃?」
「スネイプのアパートの家賃だよ。部屋はそのままだ。ジェームズはほとんど毎日そこに通っている」
 何も知らなかったリリーがジェームズの悲しみに衝撃を受けている間、シリウスは何を考えているのか黙っていた。そして、階下からはじけるような笑い声がしたのを期に、リリーに身を寄せて囁いた。
「ヴォルデモートはどこにいる」
「なに? 何を言っているの?」
 リリーはまじまじとシリウスの顔を見た。黒の長髪にグレーの瞳、ハンサムと騒がれる顔は特に変わったところはないのに、なぜだか知らない顔を目にしている気がして、リリーは眉を寄せた。
「勘違いするな。お前を疑ってるんじゃない。もう俺はうんざりなんだ。くだらないことでこぜりあいが起きるのも、ダンブルドアたちの訳知り顔も、ジェームズにおんぶに抱っこなのも。はっきりさせたい。させるべきなんだ、スネイプは生きているのか死んでいるのか」
 リリーは何も答えなかった。
「俺はな、さっきも言ったが奴が生きてようが死んでようがどうでもいい。だけどジェームズのためには生きていて欲しい。あいつも馬鹿だよな、自分の命を狙ってる奴をまだ好きでいるなんてな。だけど仕方ないって言われちゃどうしようもないだろ。宙ぶらりんでいるより、すっぱりと白黒つけて現実を見つめようぜ。スネイプがあっち側にいるならいるで連れ戻すか、無理なら・・・・・・あー、どうするかな。無理ならそれ相応のやり方をしなきゃな」
 黙っている間に何を考えたのか、シリウスは突然白黒つけようと言い出した。のらりくらりと好き勝手やっているように見えて、騎士団に入って2年、ジェームズのことをきっかけにシリウスはシリウスで考えるところがあったのかもしれない。
「なぁ、リリー」
「なに?」
「お前、何か心配事があるのか?」
 あいかわらず、シリウスは普段とは違った真面目な顔を見せていた。しっかりとリリーの目を見ないのはどこか気まずいと思っているからかも知れず、それはそれで人間臭い感じがした。
「なんのこと?」
「それとも何か悩んでるのか?」
 シリウスを別室に呼んでいざこざの理由を聞いたのはリリーのほうだったのに、いつの間にか立場が逆になっている。良くわからないことを言ったり、聞いたりしてくるシリウスにリリーはイライラした。結局、何が言いたいのか。ジェームズのことなのか、スネイプのことなのか、自分のことなのか。
「言ってる意味がわからないわ」
「そのままだ、俺が気付くわけないだろ? リーマスだよ。あいつが心配していた。お前が何か悩んでるんじゃないかって」
 リーマスの名を聞いて、リリーは肩の力を抜いた。リーマスか、リーマスなら気付くのかもしれない。あの人もいろいろ複雑なものを抱え込んでそうだし。その原因をチラリと流し見て、リリーは少し納得した。
 ジェームズとスネイプより、複雑怪奇なのはシリウスとリーマスの関係だった。誰の目にも二人が特別な関係だというのはわかるのに、二人だけがそれを認めていない。低い熱でつながっているからそのうち冷えるだろうと思うのにそうでもなく、だからと言って熱に浮かされることもない。ただひたすら淡々としているように見えるのだが、不思議なことに二人が内面に複雑なものを秘めていることもなんとなくわかるのだった。学生時代からこの調子で、リリーは早々に詮索をやめていた。少なくとも一つや二つ、他人はおろか自分さえ対処できないことや解決できないことはあるものなのだと理解していた。
「シリウス、私は後悔しているの。これからもずっと後悔し続けるわ。私は昔、セブをひどいやり方で傷つけた。あなたも知ってるでしょ、私たちが一言も喋らないこと。幼馴染なんてこじれてしまえば残酷なものだわ。
 子供の頃、私はセブが好きだった。毎日一緒にいて、将来は結婚しようねなんて無邪気に口にするくらいにね。ホグワーツでは寮が別れてしまって一緒にいる時間も減ったけど、セブが私のことを好きだってことを疑ったことはなかったわ。
 こんなことになったきっかけはささいなことよ、本当にくだらないこと。内容は聞かないで、口にできないの。恥ずかしくて死ぬまで言えないわ。私が悪い、言い訳もできないくらい最低なの。本当にどうしてあんな馬鹿なことをしたのかわからない。考えるといつも死にたくなる。だから、ジェームズと付き合いだしたと聞いたときホッとしたわ。セブがやっと幸せになるんだと思って。勝手に救われた気になった。セブの不幸を見ない振りしてきた私の罪が消えるわけでもないのに」
 まっすぐ前を見たまま話していたリリーは声を震わせた。気持ちを落ち着かせるかのように肩で大きく息をしてからまた話し出した。
「ジェームズがセブを好きになってくれて良かった。のろけ話を聞くたびに心の中でジェームズに感謝したわ。セブはあなたが想像もしないほど不幸な過去を背負ってる。それを知っていながら私はセブを切り捨てた。きっと優しいあの子のことだから、私が謝れば許してくれるんでしょうけど、そんな恥知らずなこと、できるわけないわ。だから、これからも私はずっと後悔し続けるの。それが私が犯した罪の代償よ」
作品名:冬の旅 作家名:かける