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冬の旅

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 リリーは震える指をぎゅっと握り締めた。誰にも話したことはないことを、ここでシリウス相手に話していることは不思議だった。学生時代も今も親しいとは言いがたく、さらには苦手な部類の男性にどうして話してしまったのかと考えると、どんな理由であれ、スネイプを必要としているからだと思われた。
 人に話したからと言って気持ちが楽になるわけでもなく、いつも通り絶望に満ちたスネイプの目が脳裏を横切り後悔の念が押し寄せるだけだった。
 話を聞いていたはずのシリウスは何も言わず、どう思っているのかわからないまま時間が過ぎ、リリーがようやっと後悔の念を気力でもって押しやった頃、無言で立ち上がり背を向けた。部屋のドアに手をかけてシリウスは振り向いた。
「リリー、ジェームズは全部知っている。スネイプがどんなふうに生きてきたか、お前が何をしてどう思っているのか。あいつもそれなりに悩んだときもあっただろうよ。でもあいつらは二人で乗り越えてきた。それが相手を想うってことなんだろう。
 お前が後悔するのはお前の事情だがジェームズは過去のことだと割り切ってる。現に何も言ってないだろ? 何があったのかすべてを受け入れてスネイプが好きだって言ってるんだ。ジェームズは前を向いている。あいつはあいつの未来のために必死だよ。もう俺らがどうこう言える次元を超えてる。
 だからスネイプを見つけるしかない、リリー。それでリセットされるんだ。あっちにいるのかいないのかでジェームズの姿勢は変わる。そうしたら、俺らも変わる、若い奴らも変わる。騎士団がひとつになるにはダンブルドアたちだって変わるしかない。俺らを左右するジェームズに影響を与えるスネイプが一番の原因なんだ。奴がキーマンなんだよ。
 もう動くしかない。俺が見つける。見つけてはっきりさせてやる。じゃないと俺たちはこのままぐだぐだとどこに向かっているのかわからなくなって、最後には殺られるだけだ」
 シリウスはそう言い放ち数秒リリーを見つめた後、勢い良くドアを開けた。
「待って!」
 小走りに部屋を横切ったリリーは思わずシリウスの腕を掴んだ。悪い予感がして胸が苦しく必要以上に手に力が入っていた。
「まさかヴォルデモートと会う気じゃないでしょうね」
「まさか! どこにいるかもわかんねぇ奴にどうやって会うんだ。それにな、会ったからと言ってお話しするだけで終わると思うか? 会うイコール殺るだ、お互いにな」
「それじゃあ、どうするのよ」
 顔も口調も必死なリリーを見返して、シリウスはいつものようにシニカルにふっと笑った。
「ルシウス・マルフォイに会う。奴なら屋敷にいるだろ。ブラック家の名前を出せば殺されることだけはないだろうよ」
 リリーは掴んでいたシリウスの腕を力なく離してうつむいた。
「ダンブルドアには言わない気?」
「言ってどうする? どうせ止められるのがオチだぜ」
「誰かに言っておいたほうがいいわ。何かあったらどうするの?」
「お前に言っただろ」
「私じゃ責任が持てないわ。せめてフランクかリーマスに言わないと」
「責任なんか持たなくていい。これは俺の責任だからな。ジェームズには言うな」
「言えるわけないでしょう? セブのことじゃなかったら、今ここで叫んでるわよ。でもリーマスには言うわよ。それともあなたから言う?」
「好きにしろよ。どうせ言わなくてもわかってるだろ。昨日、ごちゃごちゃ言ってたからな」
「もうあなたたちはどうしてそうなの。言わなきゃ伝わらないことなんて山ほどあるって言うのに。もっと話し」
 リリー、とシリウスは強い口調で話を遮り、顔を近づけると低い声で言った。
「それ以上は言うな」
 リリーが目を瞠っている間にシリウスは身を翻し、大股で去って行った。軽やかに階段を駆け下りる後姿を眺め、騎士団にも限界がきてると思った。
 普段は何を考えているのかわからないシリウスさえ行動を起こした今、年長者への尊敬と信頼ははっきりと不審と苛立ちにとってかわった。軽い冗談が冗談で済まされなくなっていく状況は確実に騎士団の雰囲気が悪いことを意味している。
 ジェームズもシリウスもリーマスも、そしてリリーも、何かしら問題を抱えていて、子供の頃のように無邪気に笑ってばかりはいられない。大人になるということはつらい出来事が増えることなのだとリリーは思い目を閉じた。
 スネイプの笑顔が脳裏に浮かんだ時、リリーはふいにアリスに子供を作ることを勧めようと思った。
 孤独感に抱きしめられて育った子供の頃のスネイプの笑顔はリリーしか知らない。
 大きな木の下に寝転がって青空を眺めた夏の日、スネイプはおずおずとリリーの手を握った。なるべく接触をしないようにしているスネイプのその仕草に驚くと同時に嬉しくなったリリーは同じように繋がれた手を握り返し満面の笑みとともにスネイプを見た。
 リリーのことが好きでたまらないと控えめながらも雄弁に語る黒い瞳で見つめて、スネイプはわずかに口角を上げていた。それはリリーが見たこともないほどの笑顔だった。今でも昨日のことのように思い出せる。
 アリスは子供を欲しがっていた。望まれて生まれてくる子供が幸せにならないはずがない。皆に祝福され愛されて笑顔の似合う優しい子に育つだろう。そう考えるだけで、リリーの心はふわりと温まり自然と笑みが浮かんだ。
 セブ、子供の頃、あなたのことが大好きだったわ。今はジェームズのことを好きなあなたが好き。私はもう一度、あなたの笑顔を見ることができるかしら。
 リリーはどこにいるとも知れないスネイプに心の内で問いかけた。


 前もって訪問を知らせておいたためか、シリウスはすんなりとマルフォイ家の豪華な応接室に通された。飾りガラスのついたシャンデリアがキラキラと輝き、家具は樫の木で統一されたどれもオーダーメイドとわかる高級品だった。絨毯やカーテン、ソファクッションにいたるまで小物はワインレッドを基調とした精緻な刺繍がほどこされ、よくよく見れば家紋がさりげなく縫いとられていた。豪華ながらも全体の雰囲気が落ち着いているのは家格のせいもあると思われる。
 ブラック家の名はシリウスが騎士団にいるとわかっていても有効だった。シリウス以外のブラック姓の魔法使いたちがこぞってヴォルデモートの味方であれば、それも納得だった。シリウス一人が反抗していようと、それは異分子というだけでなんの力もない。
「それで?」
 ゆったりとソファに腰掛けたルシウス・マルフォイはシリウスの記憶にある通り、くすんだクリーム色の長髪が表情の乏しい神経質な顔を覆っている。学生時代より年を取った分、一族の当主としての貫録はあった。
「聞きたいことが二つ」
 シリウスは端的に言った。長居をするつもりはなく、できるだけ早く辞したかった。昔からルシウスのことが気に入らなかった。
「私に答える義務はない」
 ピシャリと言い放つルシウスだったが、それならばそもそも屋敷に迎え入れなければ良いのであって、今目の前にいると言うことは状況に寄っては出方を決めてもいいということなのだろう。そう理解したシリウスは無視して話を続けた。
作品名:冬の旅 作家名:かける