二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

冬の旅

INDEX|42ページ/75ページ|

次のページ前のページ
 

「ひとつ、セブルス・スネイプはあんたのボスと関係あるか。ふたつ、セブルス・スネイプはどこにいるか」
 睨み付けるシリウスをルシウスは無表情で見返していたが、組んでいた手を離して片手で顎を一撫でした。意外性のない問いだったことはまったく反応を見せないことからも明らかだった。しばらく無言の時間が続いたがルシウスが口を開いた。
「私からも二つ聞くこととしよう。ひとつ、ジェームズ・ポッターは何をしているのか。ふたつ、ジェームズ・ポッターに覚悟はあるのか」
 シリウスの前でルシウスは興味なさげにソファに肘をついてあらぬほうを向いていた。ジェームスの名が出た時点で、スネイプとの関係をルシウスは容認していたことがわかった。
「それに答えたら俺の問いに答えるのか?」
「保証はしない。私は別にポッターのことを知らずともかまわない」
 肩をすくめてシリウスは口を開いた。答えても教えてくれる確率はゼロかもしれないが、答えなければ確率さえ発生しない。
「ジェームズにスネイプ以上のものはない」
「では何をしている?」
 間髪入れずにルシウスが問うた。
「毎日毎日探しまくってる。どこにいるんだ。あんたなら知っているだろう」
「なぜだ? 私がなぜ知っていると?」
「白々しい。ジェームズも覚悟している。ごまかしは必要ない。スネイプはあんたのところにいるんだろう」
 相変わらず、無表情のルシウスからは何を考えいているのか読み取れなかった。昔からそうだった。
 シリウスはルシウスが嫌いというより苦手だった。スリザリンで監督生となったことから考えて、ルシウスが優秀だったことは明白だ。寮生たちから人望もあったと聞く。皆から避けられていたスネイプに目をかけたのもスネイプの身になって考えれば救いだと思う。
 だが、どうしても好きになれなかった。そりが合わないというより、話したこともないのに理解できない異次元の存在だと本能的に思った。
「まさかあんたがスネイプを死なすわけもないだろ?」
 揶揄するような口調に知らずルシウスはシリウスへ刃のような視線をやっていた。軽薄な言い方が気に障る。
「あの子は人より辛いことを多く経験しすぎていて早く死にたがっていた。絶えずおびえている姿がクラスメイトのみならず上級生たちの嗜虐心を煽って、何をするでもないのに気を晴らすだけのために痛めつけられた。ただでさえ良くない家庭で育った。お前はゴミだ、クズだと体に教え込ませるのは簡単だっただろう。あの子は自分が汚いと信じていた。ほうっておくといつまでも手を洗う」
「俺は昔話なんか聞きたくない」
 ジェームズがスネイプを気にしだした頃、シリウスはざっと素性を調べていた。その大雑把な調査でさえ、スネイプの不幸さは否定しようがなかった。
 ジェームズとスネイプは生きている世界が違う。これはどう擁護しようとまぎれもない事実だった。そんな二人が上手くいくはずがないと自信をもって断言したシリウスを嘲笑うがごとく、正反対の二人はどこからみても仲睦まじかった。反対に抜群の相性だと誰もが、シリウスでさえ思っていたリーマスと自分のこの八方塞がりの関係はどうだ。
 シリウスはどこにいるのかも忘れて、思わず頭をふった。
「あの子は人間が嫌いだった。人に生まれたことさえ恨んでいただろう。善人ぶるつもりはないが、あの子を見ていると私は素直に可哀そうだと思った。私はマルフォイ家に生まれ、恵まれて育ったからな。恵まれた者が恵まれない者に手を差し伸べるのは悪いことではない。私はセブルスを誰にでもわかるように目をかけた。それで軋轢が生まれても、あのまま不特定多数に痛めつけられるよりましだ」
 ふん、とシリウスが鼻を鳴らしただけに終わったのは、たいして興味のない話だということもあったが、ルシウスの言うことももっともだと思えたからだった。人が人を貶める行為の醜さには虫唾が走る。やるなら堂々と皆の前でやれと思うが、そういう奴らに限って巧妙に隠れてやる。その点、ルシウスは教師の前では善人ぶったが、それ以外では正々堂々と嫌な奴だった。
「私が後ろ盾になっていじめられなくなってもあの子はたいして喜んでいなかった。いつまでも誰も信用していない冷めた目をしていた。私は自分でも驚くほどあの子に心を砕いたつもりだが、あの子の心を開かせたのはポッターだ」
 ルシウスはジェームズが好きではなかったが、スネイプのことに関する限り感情を二の次にしていた。それはジェームズも同様だった。ルシウスはスネイプとジェームズとの付き合いには目をつぶり、ジェームズはルシウスとの付き合いをやめるようには一度として口にしなかった。
「私はあの子のことに関してはポッターを信用してきたつもりだ。だが、このようなことになったからにはそうも言っていられまい。あの子は私を選んだ。それがあっているか間違っているかはもう関係ない」
 あの子の腕には引き返せない証が刻まれた。
「つまり、スネイプは生きていて、あんたのところにいるんだな」
 シリウスは勢い込んで確認した。思わず前のめりになるシリウスをルシウスは冷めた目で見つめた。
「生きてはいるだろうが、どこにいるかは知らない。私が最後にセブルスを見たのは去年だ」
「どういうことだ?」
 高揚した気分を害されたシリウスは眉を寄せた。
「あの子が去年までいた場所に今はもういないということだ。どこに行ったのか私は知らない」
「そんな馬鹿なことがあるか。あんたが知らないなんてことはないはずだ」
「知らないものは知らない。ポッターに伝えろ。こうなったすべてはお前のせいだとな」
「意味がわからない。そんなことをジェームズに伝える気はない」
「ふん、お前がわからないでも別にかまわない。あの子はポッターのせいで死ぬ」
「あんたがついているんだろう! かわいがっているんだろうが!」
 生きてるとわかった途端に死ぬなどと言われてジェームズに伝えられるはずがない。どこにいるかもわからないのに。
 またあいつがおかしくなっちまう。
 シリウスは必至に食い下がったが、ルシウスはつれなかった。
「私にもできることとできないことがある。マスターが必要ないと判断すればあの子は捨てられる」
「あんたはそれで満足かっ? 学生時代から目をかけてきたんだろう、むざむざと死なすのか」
「おかしなことを言う。セブルスはポッターではなく私を頼ってきたのだ。すべてまかせるとあの子は言ったよ。決めたのはあの子だ。お前は私を責めるが、それはお門違いではないか? あの子はポッターではなく私を選んだんだ。まず選ばれなかった自分たちを責めるべきだろう」
 それはもっともな言葉だった。シリウスは唇を噛みしめて黙った。
 腹が立つ。スネイプが生きていようと死んでいようとどうでもいい自分が喜んだのはジェームズのためだ。あいつがジェームズを殺しも蘇らしもする。覚悟をしているとは言え、恋人ではなくルシウスを選んだ挙句、どこにいるかもわからないと伝えるのは気が重い。
 いっそ今すぐ死んでくれ。お前が死ねば「弔い合戦」という名目ができる。ジェームズが解放される。
「そろそろお引き取り願おう。私は十分に話をした。これ以上言うことはない」
作品名:冬の旅 作家名:かける