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冬の旅

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 ルシウスはスッと立ちあがり「客人のお帰りだ」と声を上げた。
 すぐに現れた陰気な顔をした屋敷しもべ妖精が扉を開け、恭しさを通り越した慇懃無礼さで退室を促す。
 知りたいことは知れたが腹の底からムカムカする。立ち上がったシリウスに「今日はブラック家の顔を立てて屋敷に招き入れたが次はない」とルシウスは切りつけるように言った。
「言われなくてもそのつもりだ」
「結構」
 シリウスは背を向け、部屋を出た。当然、ルシウスは見送りに出てこなかった。見送られても気味が悪いだけだからそれはいい。
 シリウスが姿を消すとルシウスはソファに腰を下ろして目をつぶり、眉間を軽く揉んだ。
 シリウスに言ったことは嘘ではなかった。ルシウスは本当にスネイプがどこにいるのか知らなかった。レノンの始末に下手をうちヴォルデモートに制裁を受けた後、ルシウスはスネイプに会っていない。
「セブルス・・・・・・」
 ルシウスは身体の傷が完全に癒える前にスネイプの様子を見に行ったがすでに家は空だった。
 長期間家を空ける予定はなかったのだろう、ベッドは整えられておらず、食器類は出しっぱなしだった。
 自分から姿を消すはずがないセブルスがいなくなったということは、考えるまでもなくマスターが連れ去ったに違いない。
 レノンの不始末に受けた制裁は決して自分一人のものではないことをルシウスは承知していた。セブルスはどれほどの制裁を受けたのだろうか。あの子に人を殺すことは無理だ。
 ルシウスは自分を責めていた。自分さえ上手く立ち回ればセブルスを危険にさらすことはなかった。マスターのそばにいるだろうあの子はひどく痛めつけられているに違いない。学生時代からの性質は変わっていなかった。あの子は人の嗜虐性を刺激する。
「セブルス・・・・・・」
 私が悪かったのか。なんとしてもお前をポッターの元にやるべきだったのか。
 ルシウスはずっと考えていた。それこそ迎えに行ったあの夏の日から絶えることなく考えていたことだ。
 セブルスがマスターにコンタクトを取ったと知ったとき、激しく動揺したのはまったくの予想外の出来事だったからだ。ありとあらゆることを予測したが、セブルスがこちら側に来ることだけは考えもしなかった。
 セブルスの哀れなほどの一途さを思い、結局それに負けたルシウスはポッターを激しく恨みながらも巣立った雛が戻ってきた喜びにひたっていた。立場がおそらく危うくなることを計算しながら、悲壮な決心をして頼って来たセブルスを拒否することなどできなかった。
 いても立ってもいられないのはルシウスのほうだった。ポッターに守られているはずだったセブルスが自分のもとにやってきて以来、ルシウスはひたすらにセブルスを守ってきた。なるべくマスターの目に触れさせないようにし、目立たないよう指導し、残虐性のある事項は振り分けられないよう上手く手をまわしてきた。
 それほど慎重に気をつけていても一つの失敗でセブルスは姿を消した。あの子がひどい扱いをされていないといいのだがと頭ではすでに諦めていることを虚しく思っている。
 ルシウスはスネイプの行方をマスターに聞けずにいた。お前がやっていることはすべてわかっていると雄弁に語る冷たい視線に言葉は喉元で消えた。
 ルシウスがマスターを怒らせたことは仲間たちの間でも話題だった。家柄も実力もあるルシウスはマスターに次ぐナンバー2の地位を確立していた。ほとんど動けないほどのダメージを与えられたことはもしかしたらルシウスが今の地位から失脚するのではないかと考えられ、息をひそめて見守られていたがヴォルデモートは傍目には相も変わらずルシウスを重用していた。
 二人の絶対的な関係にわずかなヒビが入ったことに気づいているのは当の二人だけだった。ルシウスは以前ほど自分が信頼されていないことを感じていた。
 ヴォルデモートは異常な早さで巨大化した「ナギニ」という蛇を片時も離さなくなっていた。あの蛇は人の言葉を理解している。スリザリン寮を卒したルシウスさえ気味の悪い蛇だった。
「セブルス」
 ルシウスは何度も後輩の名前をつぶやく。そのたびに自分の無力さを感じ口惜しかった。すでにあの子は事態に巻き込まれている。もう抜けられない。
 もしも・・・・・・。
 もしも私がポッターならば、どんなことをしてもセブルスを奪い返すものを。
 それが一番腹立たしく、悔しくて、ルシウスは力任せに何度もこぶしでソファの腕を叩いた。


 お休みのキスがセクシャルなものに変わる頃、部屋の照明が落とされる。身体の線をなぞられながら、暗闇の中でため息のような熱い囁きが許可を求める。
「ねぇ、セブルス、いい?」
 その瞬間、スネイプの胸はさらに期待に打ち震え、瞳がじわりと潤みだすのだった。あの歓喜の瞬間をまた味わえる。ジェームズが全部自分のものになる瞬間。どこもかしこも溶け合ってひとつになる瞬間。幸福という名の黄金の泉に飛び込む瞬間。あぁ、目がくらむ。好きだという感情の爆発にめまいがする。気持ちが火照る身体を追い越して走り出す。重なる身体をやみくもに抱きしめて何度も頷いた。
 心の中でいつも思っている。好き。好き。好き。これ以上の言葉があったらいいのに。たった二文字。これじゃ足りない。もっともっとたくさん、気が遠くなるほど想ってる。
 ジェームズはベッドの中さえ主導権を明け渡すことが少なくなく、激し過ぎる求めを拒否しても苦笑しつつそれを許して、汗に濡れるこめかみの髪を優しくすいてくれた。窒息しそうな呼吸が収まるのを待ってくれる。額をくっつけ、鼻先をくっつけ、キスをした。何度も、何度も。
 いつでもジェームズはスネイプの思いを先取りした。だから身体が蜂蜜のようにとろけていく息苦しいまでの甘い快感に酔ってわけがわからなくなる。怖いほどの愛しさに頭の芯がしびれる。
 ジェームズを受け入れながら涙ながらに喘ぐ姿はみっともなかったに違いなかったが、それでも溺れるような愛の言葉は絶え間なく降り注ぎスネイプの身体を包み込んだ。
「好きだよ」
 喉元を軽く齧られながら囁かれる。互いの湿った身体が、せわしない吐息が、熱い手の平が快感を高めた。身体にのしかかるジェームズの重みはスネイプを安心させると同時に愛しさで苦しめた。
「あぁ、ジェームズ、もう」
「うん」
 汗で首筋に張り付く髪をはらう指先が身体に電流を走らせる。何度も頬を撫でられ、目尻にキスを受け、互いの吐息を交換し合った。これ以上ないほど身体が密着して心臓の音が耳元で鳴り響く。早く溶けてしまいたい。
「あぁ、・・・・・・あぁ」
 言葉にならない声がひっきりなしに口から洩れた。幸せは少し苦しい。だけど、それが嬉しいと思った。そう感じたとき、身体の中を稲妻が走り抜けるようにして絶頂がやってきた。スネイプは愛しい身体に抱きついて悲鳴のような声をあげた。
 
 ビクリと身体を震わせてスネイプは目を開けた。
「・・・・・・夢」
 虚脱感におおわれた身体を横たえたまま額に腕をやる。眠ってから数時間しかたっていないのか、屋敷内は静まり返り、部屋は真っ暗だった。まだ朝は遠い。
 幸せな夢を見ていた。
作品名:冬の旅 作家名:かける