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冬の旅

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 ヴォルデモートの勢いは騎士団が考えていたより強く、さらに勢力を増して魔法使いたちを次々と仲間に引き入れていた。昨日まで騎士団にいた若者が翌日にはヴォルデモート側についていたりする。何か弱みを握られたのか、単に騎士団が劣勢だと判断したのか。そこには正義も悪もない。ただ生き残りたいという生の執念だ。
 ジェームズたちにそれを批判している時間はない。このような事態になっても騎士団はまだ一枚岩とは言い難かった。しかし、目の前にヴォルデモートが現れ殺されるとわかっていて、仲間になることを拒否できる者がどれだけいるだろう。
「ソフィアって誰だ?」
 エメリーンに目をやりながら、ジェームズは小声で聞いた。
「ドーカスのフィアンセ」
 かろうじて声を抑えたジェームズだったが、不自然に大きな動作でシリウスを見やったのは仕方なかったかもしれない。周りにいた者たちはもちろん、前に座っていたダンブルドアからまでチラリと視線が飛んできた。ジェームズが軽く肩をすくませると何事もなかったように場の雰囲気は戻った。
「何から聞いていいのかわからないな」
「勝手に話すから聞いてろ。ソフィアは騎士団でも協力者でもない。ドーカスと婚約したのは年明けだ。身元を調べたが別におかしなところはなかった。近所の評判も悪くない。本当に普通の一般人だ。親同士が学生時代の友人で、メドウズ家が5年前に引っ越した際にたまたま同じ町内になって再会したって話だ。引越し自体も怪しいところはない」
「どこでそんなこと調べてくるんだよ」
 知らないことを自分で調べもしないで知ることができるのは便利だが、この調子で全員のことを調べていたとしたら、どんな閻魔帳になっていることやら。自分の知らない自分のことまでシリウスは知ってるんじゃないかと笑える。不快に感じず、そう思えるところがジェームズの器の大きいところだ。
「俺よりたぶんリーマスのほうが詳しいと思うぞ」
 さりげなくジェームズの問いをごまかしたシリウスは話を続けた。
「ジェームズ、これはいよいよマズイことになったな」
「ああ」
 どちらにも属していないソフィアが殺されたとなると、これはおそらくドーカスとのつながりを狙われたのだろう。同じ騎士団内のジェームズさえよく知らない婚約話を知ったか。もちろんドーカスは騎士団の話をしていないとは思うが、ちょっとした会話の中でメンバーの名前は出たことだろう。
 例えば先月ベンジーが新しい隠れ家選定のために出掛けたが、そこでは真冬に咲く「クランポア」が咲き乱れていたと持ち帰ってきた。それをメンバーに配っていたから、ドーカスがもらってフィアンセに渡した際にベンジーの名前を口にしたとしてもおかしくない。実際に花をもらったかどうかは定かではないがめったに見かけない珍しい花だ、確率は置いておいてもこの仮説は成り立つ。ささいなことを見逃していると、気づいたときには大事件になっている。今はどんなことでも疑ってかからねばならなかった。
 ジェームズはクリスマス前にドーカスと文具店の前で立ち話をしたことを思い出した。数日降り続いた雪がやみ、久々に外出をしたジェームズが気晴らしも兼ねてインクを買いに出かけた先でドーカスとばったり会ったのだった。
「ドーカスはフレア地区を味方に入れようとしていた。あそこがこちらにつけば大きいってすごく前向きだった」
 ジェームズの言葉にシリウスも頷いた。
「フレアは全体的に魔法力の優れた奴が多い上に連帯意識が強い。だからヴォルデモートもうかつに手を出せなかった。それでもフレアが勝つことはないだろうが、交戦している間に俺らが加勢すれば一気に戦争だ。どっちつかずの奴らが俺らに味方すれば数的劣勢はあっち側だからな」
 うん、それもあるとジェームズは肯定して、手にしていたペンをクルリと一回転させた。
「でも一番大きいのはヴォルデモートの拠点の一つがたぶんフレアの近くにあるってことだろうね。ドーカスもそれは承知してる。見つかればラッキーだけど、もしかしたらちょっと深入りしたかな」
 目の前では議論が紛糾していた。ドーカスの件をうけて劣勢の拠点はすぐにでも撤収するべきという意見と今はまだアクションを起こさず慎重に状況を見極めようという意見が激突している。例によって慎重派は年長組だ。こうなったら奇襲をかけて一気にカタをつけようと過激な意見も飛び出している。
 先ほどからチラチラと視線を送ってきているエメリーンをジェームズはすっぱりと無視していた。シリウスとリーマスに宣言した通り、ジェームズはスネイプの捜索に時間を割いていた。それについて、騎士団の仲間たちから何かを言われたことはないが、ジェームズの心情的には昔より皆の前でイニシアチブをとることは気が進まなかった。わずかとは言え、何もかもが少しずつ面倒になってきたというのもある。
 どこを探してもセブルスはいない。
「シリウス、ドーカスは諦めよう」
 左肘をついて顎を支えた姿勢でジェームズは言った。右手でクルリクルリとペンを回している。
「両親はドーカスが騎士団員ということを知っているのか?」
「ああ。二人とも協力者だ」
「そうか。それならいなくなった時点で覚悟はしているだろう。僕が話をするよ。これまでの経緯とこれからのことを」
 危険にさらされる騎士団に加入することを反対する親は多く、親や兄弟に内緒で加入している者もいるのが現状だった。
 ふぅとシリウスはため息をつき、クイッと顎をしゃくった。
「それをみんなの前で言えよ。まったく俺らは何を話し合ってるんだろうな。慎重に、慎重にってこれ以上何を慎重にするんだ? 何人いなくなっても何もしてないってのに。見ろよ、テリーの不貞腐れた顔。奴はドーカスに心酔してたんだ。ドーカスのことをそっちのけにしたこの間抜けな話し合いにうんざりしてるぜ、あれは」
 ジェームズがチラリと横に目を走らせるとあからさまに不満そうな顔のテリーがペットボトルのふたを開けるところだった。
「うんざりしているのはテリーだけじゃないさ。シリウスもだろう?」
 お前もな、とシリウスは言って鼻を鳴らした。それにジェームズはくすっと笑い、手を挙げながらおもむろに立ち上がった。
「エメリーン」
 良く通るジェームズの声がざわついていた部屋を静まり返らせる。
「発言をしても?」
「どうぞ」
 ほっとしたようにエメリーンが手で促した。実際、まとまる気配を見せない話し合いに困っていたのだろう。
「ドーカスの件は『名前を言ってはいけないあの人』絡みだろうね。みんなもそう思ってるんだろう? 100パーセントだって言い切れないけど。どんな馬鹿みたいなことだってありえるんだしさ。でもいつでも最悪の状況を考えて行動するのは悪くないと思うんだ」
 ジェームズは皆の顔を見渡した。どの顔も多かれ少なかれ不安の色が見える。それを目にしながら、ジェームズは自分の中に不安がないことに納得していた。死ぬつもりはないとシリウスに言った言葉は本当だが死んだところでどうということもないと普段は意識しない頭のどこかで思っている。
 セブルスに関わらない限り心は動かない。シリウスが言うように本当に狂っていると思った。恋しくて恋しくて仕方がない。
作品名:冬の旅 作家名:かける