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冬の旅

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「いくつか拠点を引き払おう。カトマンズ、サンダールート、マナリーは即時、ジェコ、キャリーロードの大通り沿いは近いうちに。みんなも知っている通り、どこもドーカスがよく出入りしていたところだよ。でも僕はもともとカトマンズとサンダールートはそろそろ引き払うほうがいいんじゃないかと思ってた。前線に近いところで地元人でもない僕らが出入りするのは目立つし。また他の場所を探そう」
 ジェームズの言葉に面々が頷く。ダンブルドアたちに目をやるとそちらもまた頷いた。
「ドーカスについては僕がご両親に話をするよ。それでこの件はおしまいだ。ご両親がドーカスを探すというならできる範囲で手伝ってくれ。でもこれは強制じゃない。みんなも家族や大事な人を守ることで大変だろう。何より僕らのほとんどはあちら側に顔が割れてる。自分の身もしっかり守って欲しい」
 次々に人がいなくなり、おそらく殺され、どうやら状況が悪くなりつつなっている中で、まだ戦おうという気持ちは大事な何かを守ること以外からは生まれない。家族を恋人を親友を守るために恐怖を乗り越える。
 ヴォルデモートの実力はどんなに小さく見積もっても誰より強大な魔法力を持っていると認識されていた。デスイーターたちを思うがままに操るなど騎士団の誰にも、おそらくダンブルドアやアラスターさえもできることではない。
「これからもっと状況は厳しくなるだろう。以前より僕らの情報は把握されているみたいだ。たぶん近いうちにどこかがやられる。おそらく北の方だ」
 ジェームズの発言に誰もが口々に喋り出す。「なんだって?!」「どういうことだ」「どうしてそんなことがわかる」「北ってどこだよ」「近いうちって」「何を根拠に」「どうするの」。部屋は一瞬で騒音に包まれた。
「すぐに騒ぐのはやめよう」
 ジェームズの冷静な声は騒音の中でも不思議とよく通る。その冷えた口調にハッとする者も少なくなかった。ジェームズは無表情だった。何の感情も浮かべていない瞳が皆の顔を見ていた。
「北だと言ったのはカトマンズのことだよ。あそこはおそらく感づかれていると思う。危険はすぐそばにあるんだ。何ができるのか考えて、各自ができることをしよう。誰かの命令を待っているだけではいけないよ。一人一人がよく考えるんだ」
 もちろんだと頷くシリウスの顔、戸惑ったエドガーの顔、口を引き締めるエメリーンの顔、指で丸をつくったプルウェット兄弟の顔。いろいろな顔がいろいろな表情を浮かべてジェームズを見ていた。そして、彼らは気づく。ジェームズの無表情は大切な何かを失った者の悲しみそのものなのだと。
「ダンブルドア」
 ジェームズは親しみを込めて名前を呼んだ。シリウスとは違い、ジェームズはダンブルドアにイラだちを見せることはなかった。
「出過ぎたまねをして申し訳ありません。ご意見を伺っても?」
 ダンブルドアが立ち上がるのと同じくしてジェームズは椅子に腰かけた。さっそくシリウスが肘で小突きながら囁いてくる。
「カトマンズにはリリーがいるぞ」
「うん、今夜には呼び戻そう。たぶんリリーはドーカスの書類を整理しに行ったんだ。彼女も見切りは早い」
 いや、早くなったんだとジェームズは思った。今まで何人が消息を絶ったことだろう。あまり話したこともない仲間からレノンのような協力者やドーカス、殺された婚約者。そして、セブルス。
 セブルスの消息はリリーの心にも大きな穴を開けていた。シリウスの言葉に泣き崩れたあの暑い夏の日以来、親しい者たちにしかわからない範囲で次第に元気を装いだしたリリーの姿は痛々しかった。
 リリーは学生時代の後悔の上に今回のセブルスがとった行動の後悔を積み上げていた。学生時代に素直に謝ることができていたなら、こんなことは起こらなかった確信があった。良好な関係を築き、互いに相談し合え、もしかしたら結婚をしていたかもしれない。しかし、これは言い出したら切りがない「たら」「れば」の話だった。さらに重くなった後悔の念はずっしりと肩に響き、彼女の笑顔に影を落としていた。
 そんなリリーをアリスは心配していた。アリスはスネイプとリリーの複雑な事情を知らなかったが薄々とは察していた。しかし、それは何かあったのかなという軽いもので、まさかこじれまくっているとは思いもしていない。ただ、夏の頃とは違い、子供が見たいと言われたことが気になっていた。
 リリーはフランクに相談し、フランクはそれをジェームズとシリウスに話していた。フランクはリリーとスネイプのおおよそのことを把握していたがアリスには伝えなかった。リリーが妻にさえ話していないことを自分の口から話すのはいくら夫婦とはいえ友人をないがしろにする行為だと考えていたからだ。アリスを愛していることと、リリーの友人でいることはまた別の話だった。
 ジェームズはリリーの心境をそれなりに想像できた。気の強い女性だが、いつもセブルスのことで後悔している。彼女のやったことはセブルスの人生に大きな衝撃を与え、ジェームズにとって許せることではなかったが、それは現在起こっていることではなくすでに過去のことだ。今さら彼女を責めてもセブルスの人生が戻ってくるわけではない。彼女の落ち込みは彼女自身の問題だが、そこから抜けきることのできないリリーが少し哀れに思えた。
 ダンブルドアの話はほんの数分で終わった。ジェームズが提案した通り数ヶ所の拠点を引き払うこと、それに加えて2,3の拠点も引き払うこと、拠点を引き払うにあたってはエメリーンの指示に従うこと、ドーカスの件はジェームズに任せること、身の安全に気を付けることなどなどだった。
 会議が終わるとジェームズはテリーのもとに行き、ドーカスの件は任せて欲しいと改めて口にした。テリーは何もかもを諦めたようにただ頷いただけだった。
「今なら君の悲しみが僕にはわかる」とテリーは言った。
「本当に心から同情するよ。彼がいなくなってから半年がたつんだな。何か手伝えることがあったら言ってくれ。できるだけのことをするよ」
 テリーはそう言うとジェームズの肩をポンと叩き、鞄を持って部屋から出て行った。
 その後ろ姿を見送りながらシリウスは言った。
「あいつにソフィアのことは知らせたくないな。ドーカスのことで落ち込んでいるのに追い打ちをかけるようで気が引ける」
「でもいずれは知ることになるさ、残念だけど」
 まぁな、と浮かない顔で頷くシリウスにジェームズは首を傾げた。いつも斜に構えるポーズを崩さないシリウスにしては珍しい。
「どうした? やけに肩入れしてるじゃないか」
「俺も親しいわけじゃないが、あいつの家も結構な家柄なんだ。それでいて奴は少し家族と上手くいっていない。両親も、特に兄貴が騎士団に否定的だから微妙な立場だ。ヴォルデモート側って言うんじゃない、完全な中立だ。とにかく関わりたくないってスタンスだな。そういうもろもろのことをドーカスに相談していたようだから奴も気が気じゃないだろうし、さっきの言い方だとほとんど諦めてるな。気の毒に」
作品名:冬の旅 作家名:かける