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冬の旅

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 ジェームズは軽く頷きながら手早く帰り支度をするとシリウスを促して部屋を出た。廊下のあちこちでひそひそと話す団員たちの姿が見られた。それを敢えて無視し、軽く手を挙げてジェームズたちは帰るポーズを見せた。どうせ大したことを話しているわけではない。
「ドーカスのことは後だ。リリーに連絡をしなくちゃ」
「あいつも散々だな。鼻っ柱の強い女が落ち込むほど気が滅入ることもねぇ。お前とリリーは似てるよ。気持ちが強いくせして落ち込むときはどん底だ」
 その言葉はジェームズの心をえぐった。
『リリーはいい子だよ。可愛いし、ジェームズとちょっと似てる』
 セブルスはそう言ってジェームズに笑いかけ、ジェームズは『やめてくれ』と反論してキスをした。あれは初夏。コーヒー牛乳の味がした。
 唇が寂しい。セブルス、唇が寂しいんだ。抱きしめる相手がいない腕が寂しい。繋ぐ手がない手が寂しい。
 柔らかくて少し自信のない小さな声が耳の奥で響いている。声が聞きたい。いつも僕を好きだと言ってくれていた声が聞きたい。
 愛を囁く言葉はあふれるほどあるのにセブルスがいない。
 寂しくて心が痛い。
「どうした?」
 シリウスが怪訝な顔をしてジェームズを見ていた。
「いや、なんでもない。リリーと僕が似ているなんて僕に失礼だろう」
「おいおい、『リリーに失礼だろう』にしてやれよ。まがりなりにも女なんだから」
「気を遣う相手でもない」
「ははっ、それもそうだな」
 話しているうちに玄関口までやってきた二人は簡単に打ち合わせをして、シリウスがリリーを呼び戻しに行くことに決め、その場でシリウスは姿くらましした。



 シリウスが去った後、ジェームズはスネイプの部屋に姿くらましした。すでに表を歩くことは危険になっていて、できるだけ移動は魔法を使うようにしている。
「はーっ」
 部屋にヒーターを入れ、ソファにダイブしたジェームズは大きく息をついた。懐かしい匂いはもうとっくになくなっていたが、そこかしこにスネイプが存在していた名残があった。色とりどりの羽ペン、サイドボードのコーヒーカップ、壁のふくろう時計。
 部屋が暖かくなるまでジッとしていた。その間も頭は忙しく働いている。
 ドーカスの両親に何て言おうか。ソフィアが殺された今、ドーカスの生存も望み薄だ。ただでさえ、騎士団の活動に反対していたというから冷静な話し合いは難しいだろう。自分が詰られるだけで済めばいいけれど、騎士団に不利になるような噂などが広まるのは困る。
 だいたいなんでこんなに騎士団の情勢が悪いんだ。どうしてヴォルデモートに協力する魔法使いが後を絶たない? なにがそれほど魅力的なのか。
 どうしてセブルスは・・・・・・。
「くそっ」
 口汚く罵り、勢いよく身体を起こしたジェームズは片膝を立てて座りなおした。
 状況は悪くなっていることはわかっているが、良くする手だてが浮かばない。捕まえた反騎士団の連中はどんなことをしても口を割らない。捕えられた時点で自殺する者が大多数で、それはどうやら仮にうまく逃れられたとしても、マスターなるヴォルデモートに制裁されるからだと思われた。
 また、閉じ込めた部屋で奇怪に死んでいる者もおり、これが一番の問題だった。少なくとも騎士団員の中に「良くない誰か」がいる。大事件は起こっていないから、まだ裏切りきってはいないのか、事態を混乱させるのが目的なのか。とはいえ、明らかに「異分子」が騎士団の中にはいる。さっさと見つけ出して放り出すなり、口を割らすなりするのが一番だが、これがまた皆目見当がつかないのだった。
 ダンブルドアやアラスターが「慎重に、慎重に」と口にして、実質何の手も打っていないも同然なのはこのためだった。手を打ちたくとも打てない。情報は漏れているがどこから漏れているのかわからない。わからないが、ある程度中核にいる人物からだということは事実だった。少なくとも捕虜の部屋に近づくことが不自然ではなく、誰も疑わないほどの。
「なんだってこんなことに・・・・・・」
 舌うちとともに思わずジェームズは声を漏らした。
 面倒くさいことだらけで、頭が痛いことだらけで、世界なんて知ったことじゃない。このままセブルスに会えないなら、いっそ死んでもいい。もうどうでもいい。
「くそっ」
 そうは言ってもジェームズの頭が冷静に考える。お前に皆を見捨てることができるのか、と。
 セブルスが目の前にいない今、シリウスを、リーマスを、リリーを、フランクを、アリスを、ダンブルドアを、見捨てられるわけはなかった。言いたいことは山ほどあるだろうに、口をつぐんでいる彼らの信頼がジェームズの身体をしばる。
「会いたいよ・・・・・・」
 僕を助けてくれないか。セブルスさえいればなんだってできるのに。
 ジェームズは小さくため息をつくと洗面所に向かった。ドーカスの件は早めに話すにこしたことはない。出かけるつもりだった。
 鏡に映る顔は冴えない。目の下にようやく薄くなったクマ、目に感情はなく、顎がとがっている。
 ジェームズは無理やり口角を上げてみた。そのまま微笑もうとしたがそんな気にもなれず、不気味な顔になっただけだった。
 水で少し濡らして髪を整え、2,3度顔を叩いた。ついでに歯を磨くことで気分が変わることを期待して歯ブラシを手に取る。歯を磨きながら考えた。
 息子さんは行方不明です。・・・・・・そんなことみんなが知っている。
 難しい状況です。・・・・・・ごまかしているのがバレバレだな。
 鋭意捜索中です。無事を祈っています。何とも言えません。でも信じています。少しの間静観してみましょう。あーだ、こーだと・・・・・・何しに来たんだって話だな。ああ、気が重い。
 ドーカスはどうして騎士団に入ったんだっけ。シリウスがなんか言ってたな。えぇっとなんだったかな。あぁ、エドガーかプルウェットが連れてきたんだ。なんでかそのとき僕はいなくて、初めて会ったのは何回目かのミーティングのときだ。
 最初の挨拶が遅れてなんとなくそのまま過ごしてきた。シリウスみたいに親しくなりもしなかったが会えば話すし気持ちの良い奴だった。ドーカスの髪は明るい栗毛で少し赤毛に近いのを気にしていた風だった。基本的に物静かで思慮深い印象だったが、いつだったかおそらくシリウスらへんにハメられたんだろうがひどく酔っ払い、驚くほど大きな声で笑っていたのが思い出される。
「困ったな」
 ジェームズは歯を磨き終わると鏡に映る自分に向かって相談するように言った。
 騎士団でのドーカスの役割、信頼度、ふるまい。おそらく起こったであろうこと。生存の可能性は高くないこと。騎士団の状況、これからについて。ご両親、ご家族の要望。それから・・・・・・。
 袖の部分が少し汚れていることに気づき、白いセーターに着替えた。ヒーターを消して、コートを羽織る。訪問する旨を伝えていないがかまわないだろう。手土産も・・・・・・まぁいいか。そんな場合でもないし。
 コートの内ポケットから手帳を出して住所を確認する。そういえばソフィアの家も近いと聞いた。帰りにお悔やみを言いに行かなきゃな。
作品名:冬の旅 作家名:かける