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冬の旅

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 気の重いことばかりだと肩を落とし何気なく窓の外を見たとき、鳥が飛んでいるのが目に入った。随分低いところを飛んでいると見ているとだんだん近づいてくる。どうやらフクロウのようだ。黒くて随分大きい。口には何もくわえていないが、あれはフクロウ便だ。きっと足にでも手紙がくくりつけられているんだろう。
 このご時世にのんきなもんだな。
 ジェームズは殺伐とした気分が少し和らぐのを感じた。いまどき、奪われる確率の高いフクロウ便を利用する人はほとんどいない。このアパートの誰かのことを心配した親の手紙だろうか。案外、ペットフードの請求書だったりして。
 どんどん近づいてくる姿を見ながら「まさか」と思っていると、優雅に飛んでいたフクロウはジェームズの目の前でコツンと窓をつついた。
 不審に思いながら窓を開けるとフクロウはバサバサと音を立てて部屋を一回りし、郵便用の止まり木に羽を休めた。普通のフクロウより二回りは大きく、羽はつやつやと黒く光っている。ジェームズを見る瞳は黄金色。これほど立派なフクロウにはちょっとお目にかかれない。おそらく私信用だ。貴族に飼われているフクロウに違いない。
 ジェームズがフクロウの足に目をやると、ワンタッチで開くタイプのロケットがつけられていた。アーサーが随分前に見せてくれたマグルのピストルというものの弾に良く似た形をしている。このタイプはほとんどの場合、各家の印章が刻まれている。やはり私信用か。
 ジェームズは手を伸ばしロケットを取り外した。その間、フクロウはじっとしており、ジェームズの手が離れると毛づくろいを始めた。すぐに飛び立たないのは返信を持って帰るよう言われているということだった。
 私信用のフクロウを見れば、所有者のおおよその人物がわかるとまで言われる。
 ジェームズはこれほどのフクロウに仕上げたてるのは並大抵のことではないと感心した。大きさや毛並艶などはもともとの資質も大切ではあるが、この落ち着きぶりは主人に忠実であり、信頼しているからに違いなかった。それに見合うだけの愛情と器量をこのフクロウの主人が持ち合わしているということでもある。
 手にしたロケットにはどこを見ても通常刻まれている印章はなく、ただの小さな黒い筒だった。
 しかし、蓋を開けた途端、ジェームズは髪が逆立つのを感じた。極限まで瞳が開いていくを意識した。そこから目が離せない。この禍々しい印。蓋裏にあった印章はまぎれもなくヴォルデモートのものだった。
 心臓の鼓動が早い。頭がガンガンする。息をするのさえ苦しかった。手が震え、気ばかりが焦ってロケットから手紙が取り出せない。
「くそっ」
 本日何度目かの悪態をつきながら、やっと取り出した細長い追伸文のような手紙にはこうあった。
『3月3日午後3時高原』
 そして、署名。
『セブルス・スネイプ』
 細くて右肩上がりの神経質な文字。それでなくても見間違うはずもない筆跡。
 ジェームズはその場に崩れ落ちた。コートがバサリと音を立てた。
 膝をついたときにも大きな音がしたが、毛づくろい中のフクロウはちょっと動作を止めただけで、何事もなかったようにまた熱心に毛づくろいに戻った。
 手にある手紙が信じられなかった。内容ではなく、ヴォルデモートのロケットに入って届けられたことがこの上なく衝撃だった。
 シリウスが、リーマスが、騎士団の皆が、有言であれ無言であれ、ジェームズにスネイプがヴォルデモート一派となったことをわからせようとしてきた。そして、それをジェームズは認めていた。その上で、スネイプを信じると口にした。今でも信じている。しかし、何を信じているというのか・・・・・・?
 世界など滅んでしまえばいい。明日、いや、今すぐにでもみんな死んでしまえばいい。巨大な岩が降り、灼熱の太陽に焼かれ、寒波で凍えて死んでしまえばいい。そうすれば、この苦しみから解放される。
 目の前が歪むのを止められなかった。あとからあとから涙が零れ落ちる。張り裂けそうな胸の痛みに飲み込まれながら、ジェームズはロケットを握り締め思い切り床に打ち付けた。
「うぅっ・・・・・・う」
 悲しみも度を超せば大泣きすることもできない。体中の力を振り絞るようにして唸るだけだった。床にぼたぼたと涙が落ちる。
『僕の永遠を君に』と書いたその手で、僕にヴォルデモートの印章のついたロケットを送ってくるのか。
 これ以上ないほどの証拠を前にジェームズは深く傷ついた。涙など普段は簡単に出ないものがこらえようとしてもこらえられず垂れ流しだった。
 しばらくジェームズは泣いていた。止めようもない嗚咽に身体の中から魂が抜けていくようだった。苦しい、つらい、痛い。
「うっ、うっ・・・・・・うぅ」
 静かな部屋にジェームズの嗚咽とフクロウがたてる音だけが流れている。
 どれほどの時間が過ぎたのか、ジェームズはようやくのろのろと身体を起こし、握り締めてしわくちゃになった手紙を丁寧にのばした。それをコートの内ポケットにあった手帳に挟んで仕舞った。涙は止まらない。顎から滴り落ちてコートにちらばった。
 ジェームズは立ち上がるとよろけるようにしてソファに座りこみ背を預けた。ぼやける視界もそのままに天井を眺める。頬はぐちゃぐちゃに濡れていた。身体がちぎれそうな痛みの中でジェームズは必死に自分に言い聞かせていた。
 セブルスが敵側にいることなどわかっていた。何も衝撃を受けることじゃない。僕は大丈夫だ、壊れない。
 かえって良かったじゃないか。セブルスが生きていることがわかった。もしかしてこれは僕へのSOSなのか。・・・・・・そんなわけはない。SOSならばヴォルデモートの印章が刻まれたロケットで手紙を送ってくるはずがない。
 どんな考えもマイナス方向に振れる。今すぐ世界の終わりが来たらいいのに。
 セブルス、元気なの。どうしているの。君がいなくて寂しい。会いたい。元気な姿を見せてくれ。
 僕を殺す? どんなことになってもきっと僕はセブルスのことを嫌いになれない。愛してるんだ。愚かなくらいに。
 涙は止まる気配も見せずに流れ続ける。
 手紙にあった『高原』とは学生時代に行った場所のことだろう。白い花がたくさん咲いていた。黒い髪に白い花が似合って、拗ねたり、笑ったり、じゃれあったり、抱きしめあったり、キスをしたり。ああ、セブルス、僕ら幸せになるって、そう約束したよね?
 ジェームズは乱暴に頬の涙をぬぐうと立ち上がり、鼻をかんでから洗面所に向かった。冷たい水で顔を洗い、濡らしたタオルを持ってソファに座りなおす。タオルを目の上に置いて大きく息をついた。
 脳裏にスネイプの姿ばかりが浮かぶ。初めてミンスパイを作ってくれた日のことを覚えている。ちょっと得意そうに笑っていた。いつの間にか料理が上手になっていて、いつも僕に夕飯を食べさせてくれた。騎士団のミーティングが夜遅くに終わったときに突然訪ねて行っても何かしら作ってくれて、身体の心配までしてくれた。コーヒー豆が切れていることがなかった。
 ねぇ、セブルス、僕と離れて後悔している? 僕に迎えに来て欲しい? 簡単な合図でいい、伝えてくれないか。そうしてくれたら僕はどこへでも飛んでいくよ。
作品名:冬の旅 作家名:かける