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冬の旅

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「ええ、大丈夫です。見たままを話しますし何も困ることはありません。マナリーについては教えてもらわないといけませんが」
 ルシウスは軽く頷いた。そしてカップにコーヒーを継ぎ足し、スネイプにはカフェオレを用意した。
「それでは話をしてから出かけることにしよう。マナリーについて知っていることはあるか」
「残念ながらほとんど知りません。ベリー・セント・クロイトンのベッドルームタウンと考えて良いですか」
 そうだ、とルシウスは言った。
「クロイトンは昔から工業の発展に力を入れていた。もともと特にこれと言った名所や名産品がなく土地だけはあるという町だ。若い者が出ていくばかりで数十年は持ちこたえたとしても過疎化は免れないと判断した役場が企業誘致を始めた。百年ほど前の話だ。おりからの好景気が後押しをし、うまい具合にパーカー商店の縫製工場と汽車の車両製造工場―これはもちろんノールウェイ社だ―の誘致に成功したんだ。すでに一流企業として名の知れたパーカーとノールウェイを口説き落としたのは正解だった。それにともなって次々と関連企業や大手事務所が進出した。働き場所が増えるにつれ、転居してくる者も増えた。よってクロイトンの地価や賃貸は高騰し、もともとの住人や最初に転居してきた者たちを除けば企業や裕福な者にしか手が届かない場所になった。そこで目をつけられたのがマナリーだ。そこそこクロイトンに近く交通の便もよく、それにしては十分な開発がされていなかった。現場で働く者たちには魔法が苦手な者も多い。彼らにとって交通機関は重要だ」
 魔法で呼び寄せた帳面にメモを取りながらスネイプはカップに口をつけ、自分好みの味になっていることに少々驚いた。コーヒーが半分、ミルクが半分。
「また、住むには環境も大きな判断材料だった。その点、マナリーには自然が多く残っており、もとからの住民は質素堅実、治安も良い。子供を育てるには悪くない場所だ。もろもろの条件が重なって、マナリーは役所の音頭のもと開発に力をいれることになった。建築業界、不動産業界はそれで一儲けしたな。その他業界も同じだ。飲食業界だって例外ではない。人が増えれば、あらゆる物量が増える」
 静かな部屋にルシウスの落ち着いた声が滔々と流れていく。
「今思えば異常なほどの好景気は落ち着いたが、今もってクロイトンは有数の工業都市だし、マナリーは当初の予想以上の発展をみせた。住宅街ができ、学校などの公共施設ができ、税収の増加により公共機関はさらに整備された。開発前より便利になったことは確かだろうが、それが良かったかどうかは人によるだろう。最先端の流行や技術に早く接することができ、街自体がトレンドとして雑誌に紹介されて憧れる若者が増えた反面、自然は徐々に減少し空気は汚れ人口の増加によりトラブルは増えた。プライバシーという権利が振りかざされ、入れ替わりの激しいマンションなどでは隣に誰が住んでいるかもわからない。庭でティータイムを過ごしていた家族や友人たちが、たまに通りがかる名も知らない旅行者に声をかけて一緒に楽しむこともなくなった。古き良き田舎のマナリーを懐かしむ者は多い」
 ルシウスはマナリーの特徴を新旧あわせて説明した。まだまだ説明不足だがだらだらと口にしても仕方がないだろう。
「マナリーの歴史は古いがかつてのマナリーではない。新興都市といっても差し支えないのではないかと思う。人種も様々だ。そういう場所に身をひそめるのは容易だろう。フレアに遠いわけでもない。誰もがマナリーに思い当たる。しかし私が騎士団でもそれを承知でアジトを構えるだろう。わかっていても実際探し出すのは難しいからだ」
 ここまでルシウスが口にするのならそういうことなのだとスネイプは理解した。
「そういう土地で僕たちはまた騎士団のアジトを探すことになるんでしょうか」
 いや、とルシウスは否定した。
「マスターがどのようにお考えになるのか私もわからないが今回のことのようにはならないと思う。フレアやカトマンズとマナリーでは規模が違う。捕虜も死んだことだし聞きだす手はない」
「亡くなったんですか・・・・・・」
 ルシウスはひとつため息をついてから言った。
「考えても仕方のないことだ。私たちも騎士団に捕まれば同じような目に合う」
 スネイプは目を伏せカップに口をつけて苦い思いをコーヒーと一緒に飲み込んだ。なぜか腕の印章が痛んだ気がして、服の上からそっとさする。ヴォルデモートを強く意識した。
「先輩、変なことを聞きますけどマスターはご健康なんですよね?」
 つかの間スネイプを凝視したルシウスは「本当に妙なことを聞くな」とどこか探るように首を傾げた。
「何かあったか?」
「いえ、今日、頭が痛いとおっしゃっていたので」と微妙にごまかしたスネイプにルシウスは納得したように頷いた。
「時々そのようにおっしゃることはある。が、私たちとて同じだろう。心配するようなことでもないと思うが?」
 その言葉でスネイプは確信した。やはり誰も知らないのだ、トムのことを。あれほどまでに入れ替わっているというのにどうして露見していないのか。考えてもわかることではなかった。
 スネイプはルシウスに「そうですね」と言って微笑んだ。なぜトムのことを相談しないのか自分でも不思議だったが何かが邪魔をして言いたいけれども言いたくないという複雑な気持ちにさせる。感情が二つも三つもあるみたいに、あるいは二人も三人もが自分の中にいるかのように気持ちがあっちに行ったりこっちに行ったり、まるで落ち着きがない。結局考えることを放棄してため息をつく。
「それでは出かけるとしよう」
 ルシウスは立ち上がり、食器を片づけるよう屋敷しもべ妖精に伝えると、おもむろにスネイプの肩を抱き寄せた。そして、スネイプが目を瞠り何かを口にする間もなく姿くらましをした。
 その僅か数分後にスネイプは手紙を書くことになり、数日後にジェームズと会うことになる。


 シリウスは迷っていた。「迷う」という言葉を知らない男が迷っていた。何を迷っているか。今、この場から出ていくか、である。
 シリウスは騎士団の会合が終わった後、ジェームズと簡単に打ち合わせをしてリリーを迎えに行くことになった。どうやらアジトの1つが敵に見つけられたようだったからだ。夜のうちにはという話だったが早いに越したことはないと結論づけた。
 騎士団の一員であるドーカスが偽名を使って騎士団の拠点として使っていた家には先客がいた。用心のために家から離れた場所に姿をあらわしたシリウスは髪を茶色にして近づいた。姿形を変えようかと考えたが、それなりの魔法使いが見れば変身していることは簡単にわかる。そうして不信感をもたれるより、ファッションとして片づけられる髪の色を変えてイメージを崩すほうを選んだ。
 アジトはフレアと道を隔てたカトマンズにあり、騎士団とヴォルデモートの闘いの最前線のため、安全を考えてもできるだけ目立ちたくない。そうやって用心に用心をかさねた結果、疑惑のアジトでルシウスとスネイプを見つけた。ジェームズが危惧した通り突き止められていたらしい。シリウスは小さく舌打ちした。
作品名:冬の旅 作家名:かける