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冬の旅

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 アジトに選ぶだけあってまわりに身を隠すような場所がなく、通り向かいの家の庭先に大量のシクラメンの鉢が飾られていたのをいかにも感心しているかのように眺めている振りをした。しかしながら、このシクラメンは見事に花を咲かせており、リーマスあたりは振りではなく本当に感心しそうだった。
 マルフォイ家で会ったときとルシウスは変わっていない。スネイプは・・・・・・よくわからない。ジェームズがうだうだ言っていたときもまったく興味がなく、じっくり見たことさえない。姿を消してからは腹立たしいだけの存在だし、今や見たくもない。
 リリーはすでにいないようだった。そうでなくてはあの二人が部屋を歩き回ることはないだろう。いないのなら、これ以上ここに留まる理由はない。いつなんどきヴォルデモートが現れるかわからないのだからさっさと戻るべきだった。
 しかし、シリウスは迷っていた。
 2対1では分が悪い。それはわかっている。だが、ここで無理をしてでもスネイプを連れ去ることができればジェームズは、ジェームズの影響力は、騎士団は・・・・・。生死さえ不明だったスネイプが生きているのを目の前にしてシリウスは迷った。
 自分から姿を消したくらいだからスネイプがおとなしく言うことを聞くとも思えないから力技しかない。
 そう考えながら、ルシウスは室内の様子を注意深くうかがった。二人が向かい合って何かを話しているのは見えたがもちろん声は聞こえない。
 あまり長い時間はここにいられないと思いながらなおもうかがっていると、ルシウスがうつむいていたスネイプをまるで壊れ物を扱うかのようにそっと抱き寄せるのが目に入った。
「っ」
 思わずシリウスが小さく声を漏らしてしまうほどそれは優しく愛情に満ちた仕草だった。大人しく抱き寄せられたスネイプの耳元でルシウスの口元が動いている。その姿はまるで血を分けた家族のようで、二人がいかに信頼しあっているのかをシリウスに理解させた。とっさに「これは難しい」と思った。二人を引き離すのは難しい。
 シリウスはショックを受けていた。というのも、ルシウスはいつどんなときでも鼻持ちならない嫌な奴だった。とにかく虫唾が走るほど嫌いだ。個人的にこれっぽっちも接点を持ったことがないし、かかわりたいとも思わないが、今目にした光景はルシウスが血の通った人物だと疑う余地のないものだったからだ。
 ルシウスが学生時代に監督生だったことはシリウスにとって当時から理解しがたいことだったが、もし今スネイプにしたようにスリザリンの寮生たちに接していたならば、わからない話でもないと思った。
 シリウスは怪しまれないようにアジトに背を向けてゆっくりと歩きだした。スネイプを連れ去ることはどう考えてもうまくいきそうにない。ジェームズならともかく、シリウスでは無理矢理にも連れて行くことはできないし全力で拒否されるだろう。
 やっかいなことになった。スネイプは生きていて、目の前にいて、それでも手が届かない。スネイプに会ったことを隠して話はできるだろうが、こんなに動揺していては他人は気づかなくともジェームズなら何かあったと気づいてしまう。気づかれたら隠し通す自信はない。
 ジェームズとは初めて会ったときからウマが合った。不満も山ほどあるが―例えばスネイプと付き合うとか―、でもあいつほどいい奴はいない。いつでも堂々として、汚いまねはしないし、朗らかで、大らかで器がでかい。人の期待を背負える根っからのリーダー気質だ。そのくせ馬鹿みたいないたずらをやって笑い転げる。だから誰だってあいつに魅了される。
 スネイプとのことはすぐに駄目になると思っていた。水と油のような二人が続くとは思えなかった。ジェームズは案外惚れっぽい性格で、あの子が可愛い、この子が可愛いと気軽に口にしていたし、実際何人かと特別な関係になったがシリウスに言わせればそれはあくまでも『つまみ食い』だった。ジェームズを本気にさせる女は現れるのかと考えても答えはいつも「ノー」だった。
 雪だるまに魔法をかけてホグワーツの寮の廊下を競争させたときがあった。あれは初めてスネイプのことが話題にあがったときだから4年生の頃だ。マクゴナガルに着の身着のまま東はずれの湖までふっとばされて、頭から雪をかぶったそこで初めてジェームズはスネイプと会った。
 女の子のことを口にしなくなったなと思ったのが春だったから今思えば2,3か月の間にスネイプのことを好きになったのだ。何がきっかけだったのか知る由もないがたった数か月であれほど人を好きになるというのはどんな気持ちだろう。
 シリウスは歩きながら頭を振った。出会って10年、リーマスとのことはすでに『泥沼』という言葉がぴったりだ。好きなのか嫌いなのか、そういう素直な感情では表せられない。好きと同じくらい腹が立つし、嫌いと同じくらい求めている。
 学生時代はまだ良かった。一緒にいる時間も多かったし、同じ部屋で過ごしていた。嬉しいことも、気に入らないことも、嫌でも共有してぶつかりながらもそれなりになんとかなっていた。
 卒業してからリーマスはあまり自分のことを話さなくなった。もともと諍いを苦手としていて、意見の相違が生じるとだいたいリーマスが引き下がる。シリウスが不機嫌になるのも一因だということはわかっていたが、別にお前のせいじゃないということくらいわかれと勝手なことを思う。そう思うとさらにイラつき、それを敏感に悟るリーマスはますますあたりさわりのない態度になり、その姿がさらにシリウスを不快にさせた。そうやって二人は悪循環にはまっていく。
 最初はこうじゃなかった。男にしては優しげな風貌通りの優しい性格が気に入った。シリウスの周りにいないタイプで、純粋にいい奴だなと思って声をかけた。ジェームズとも気があっていつも3人で行動した。
 落ち着いた物腰のリーマスは一緒にいたずらをするには上品すぎ、誘うには少し気が引けて、それはジェームズも同じらしく実行するのはいつも二人だった。教師に怒られた後、さらにリーマスに文句を言われるのがなんだか楽しくて、こっそりジェームズと目配せしあったのもいい思い出だ。
 いつリーマスへの好意が恋愛感情へと傾いたのかわからない。金にも見える茶色の瞳でじっと見つめられると息苦しくなり、平気で話ができるジェームズが不思議だった。何かがずれてしまった気がして訳がわからないまま元に戻そうと焦った結果、人の機微に聡いリーマスが気にする素振りを見せ、あっと言う間にギクシャクした関係になってしまった。
 その頃にはジェームズがスネイプのことを好きだということをシリウスもリーマスも認識しており、特にシリウスは苦々しく思っていたが人のことを気にしている余裕もなくなっていた。表面上は何事もなかったように振る舞いつつ、シリウスの乱れた気持ちにリーマスも引きずられて今までどうやって気軽に付き合ってきたのか思い出せず、二人そろって混乱していたからだ。
 その状況はジェームズにも知られていて『シリウスにはいい薬だよ、もっと悩むべきだね』と全部わかっているかのような顔をして言われてしまい、自分にわからないことがなぜこいつにわかるんだと理不尽な気持ちを味わった。
作品名:冬の旅 作家名:かける