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冬の旅

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 二人の関係は一向に改善する兆しも見せないまま日々は過ぎ、寮生たちがこぞって参加した「かくれ魔女」の最中にそれは起こった。三人はいつものごとく一緒になって行動していたがスネイプに会いに行くというジェームズの勝手な離脱によって微妙な雰囲気の二人が取り残されることになった。内心慌てていたもののそれを微塵も感じさせず「物好きだな」と呟くことができたことにシリウスは少し安堵した。虚勢だとわかっていてもまだそういう態度をとれる余裕があることが重要だった。
 「かくれ魔女」は見つかってしまえば全員が見つかるまでひたすら魔女役になる。とにかくあちこち探しまくらねばならないけれども、隠れる側の魔法使い役としては見つからなければいつまでも楽しむことができるから「楽しみつつのんびりできるなんてステキじゃないか」というジェームズの言葉に全面的にシリウスは賛成している。見つかりそうになりながらコーヒーを飲んだり、かえるチョコをつまんだり、ときにはゴミを投げつけるのはなかなか楽しい。
 もちろん見つかる気はなかったから、あのときだって用具入れに隠れたのだ、リーマスと一緒に。あまりの狭さに向かい合って立った二人の身体は否応なく密着した。思いがけず動揺したが今思えばあれは胸の高鳴りか。
 まっすぐに立っていられなかったのだろうリーマスが肩に顎を乗せ、わずかなりとも体重を預けてきたときシリウスは思わず息を止めた。密やかなリーマスの息遣いがダイレクトに耳に届く。その震えるような吐息を意識しているうちにシリウスはどうやって呼吸していいのかわからなくなってきた。気づいたときにはリーマスの顎を引き寄せキスをしていた。室内で魔女役たちが自分たちを探している声が耳に入っていたがやめることはできなかった。
 一瞬身体を震わせたリーマスは、それでも抵抗する様子もなく大人しく唇を差し出していた。単に騒ぎになりたくなかっただけかもしれなかったが、シリウスは思いがけず舞い上がった。用具入れの隙間から差し込むわずかな光では互いの表情がはっきりしないことが幸いしたのか、二人は無言で何度も唇を合わせ、時折舌を触れ合わせて身体をビクつかせた。
 思い出は美化される。思い出すことは良かったことばかりで、そんな自分をシリウスは鼻で笑った。人のことを偉そうに言える立場ではない。何年も整理されていないぐちゃぐちゃの心で、それでもリーマスを手放せなかった。もはや憐みだけで傍にいてくれているのかもしれないのに。リーマスのことに関してだけシリウスは弱気だった。
 アパートの裏通りでシリウスは足を止め、周りに人気がないことを確認して姿くらましをした。
 シリウスが姿を現したのはホグワーツの森にほど近い小屋の前だ。周りは自然に囲まれて静かだが少し寂しい場所だ。小屋の扉には小さなガラス瓶が備え付けられていて、いつも野で摘んだと思われる季節の花や薬草が数輪飾られていた。窓には白いカーテンが引かれて中に人がいるかわからない。
 シリウスは木の扉を3回ノックして低い声で「リーマス」と小屋の主の名を呼んだ。今まで扉がシリウスを拒絶したことはない。いつでも、たとえ諍いの最中だったとしても、シリウスがこの小屋に入れなかったことはなかった。しかし、いつ扉が開かなくなるのだろうと柄でもないことを考え出したのは昨年のことだ。スネイプを失くしたジェームズの姿を目にして以来特にそう思う。
 こんがらがった糸のような二人の状況が自業自得ということがわかっていても、諦めたつもりになっていても、現実に起こったならば耐え難い苦痛に襲われるに違いなかった。恋愛などという眩しい言葉が遠い存在である今、これは執着というのだろうか。
 悶々とした鬱屈をかかえるシリウスを前に今日もまた扉は開かれた。リーマスの白い優しげな顔を見てホッとする。ほっそりとした指が背中にまわり室内に招き入れられるとシリウスは無言でリーマスを抱きしめた。
「どうしたの」
 落ち着いた声が腕の中からする。シリウスの乱れた気持ちをなだめるように繊細な指がゆっくりと背中を上下した。
「リーマス、何してた?」
「何って」
 緩まない腕の中でリーマスはくすぐったそうに少し笑った。リーマスの優しい雰囲気はシリウスを癒しもするが時にいらだたせもする。苛めたくなるし、泣かせたくなる。でも他人が同じことをするのは許せない。リーマスのことを考えるといつも支離滅裂な感情に襲われる。
 うなじが隠れるほど伸びた金髪は毛先が緩く波うっていて、それに指を絡めるとシリウスは軽く引っ張りリーマスの顔をあげさせた。二人は少し見つめ合い、リーマスが静かに目を閉じたのを合図にキスをした。
「どうしたの」
 何度も軽く唇を合わせているとまた尋ねられたが、それは特に答えを必要としていない類の聞き方で、シリウスは何も答えなかった。いや、答えても良かったのだが答えがなかった。キスをしたくなったから「した」、それだけだ。
「リーマス、カトマンズのアジトは気づかれていた」
 背中を撫でていた手は一瞬止まったがリーマスは「そう」と頷いて、またそっとシリウスの背中を撫でた。鼻をうずめた髪から甘い香りがしていた。
 シリウスはリーマスの絹のような金髪を撫でた。久しぶりに優しい気持ちがわいてきた。
 余計なことを口にせず頷くだけのリーマスがありがたかった。アジトが見つかっていて、スネイプが生きていて、ルシウスがいて、二人の絆を目にして、ジェームズに隠し事をしなくてはならなくて、思うことも考えることも嵐のように降ってきた。何よりスネイプを目にしたことでリーマスのことまで考えてしまい、気持ちが乱れた。そんな雑然とした気持ちを黙って受け止めてくれる。
「スネイプがいた」
「え?」
 顔を上げてまっすぐにシリウスを見たリーマスの瞳が驚きに見開かれていた。見つめ返しながらシリウスは再度口にした。
「ルシウス・マルフォイとスネイプがアジトにいた」
「ちょっと待って。なぜ知っているの。まさか見に行ったんじゃないよね?」
 珍しく尖った声を聞きながら、リーマスの金色の瞳はこんなに綺麗だっただろうかと思った。
「行ってきた。リリーを連れ戻そうと」
「リリーなら昨夜ここに来たよ! マナリーに行くってすぐに帰ったけど誰も知らなかったの?!」
「俺は知らなかった。ジェームズもそんな話はしていなかったな」
 リーマスが激しく腕の中でもがいたので、シリウスはようやく腕を離した。しかし反対にその腕を掴まれて真剣な顔で尋ねられる。
「ジェームズは一緒に行ってないんだね?」
「ああ」
 シリウスが頷くと同時にリーマスは「どうして!」と叫んだ。いつものリーマスらしからぬ興奮ぶりにシリウスは首をひねった。
「ジェームズはドーカスの両親に話をしに行くって言ってたろ?」
 シリウスが話し終わらないうちにリーマスが言葉を遮った。
「そんなこと知らないよ!」
 そこでシリウスは二人の話が噛み合っていない理由に思い当った。リーマスは今日の会議に出席していなかったのだった。
「そういえば、俺ら、またケンカしてたんだっけな」
作品名:冬の旅 作家名:かける