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冬の旅

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 それだけが理由ではなかったがリーマスが今日の会議にいなかった原因の半分くらいはシリウスだ。ダンブルドアの弟であるアバーフォースに会いに行くというれっきとした用事はあったとしても無理をすれば会議にも出席することはできた。けれどもリーマスは無理をしなかった。二人ともそこをわかっている。
 もともと何でケンカになったのか思い出せない。どうせくだらないことに決まっていた。だいたい二人がうまくいっているときなどほとんどない。
「シリウス、一人で行動するのはやめて」
「何だ、唐突に」
 シリウスは眉を跳ね上げて掴まれていた手をどけさせた。なぜ今頃このようなことをリーマスが言いだすのかわからなかった。まさか心配されているのか。それは心外だった。魔法力には自信があるし、冷静に考えても相当に油断をしていない限りやられることはないと断言できる。それに最近は以前より用心して行動している。
「昨日、リリーが言ってた。ドーカスはたぶん殺されただろうって」
 リーマスはシリウスに背を向けて、小さな丸いテーブルの椅子に腰かけた。ぺったりと右頬をテーブルにくっつけた後ろ姿はどこか小さな子供を思わせた。
「座ったら?」
 その疲れたような声にシリウスは思わずリーマスに歩み寄り頭を撫でた。頬に散らばり乱れた横髪を耳にかけてやると腰に左腕を回してきた。シリウスはリーマスのいつにない甘えた仕草に困惑した。
「本当にどうしたんだ? ドーカスのことで落ち込んでんのか?」
 手の平の下で微かに頭が動く。小さな声が聞こえた。
「みんな、いなくなる」
「ドーカスのことはまだわからないだろ?」
 わざとらしいと思いつつ言った。ジェームズはすっぱりと諦めていたし、リーマスもわかっているだろう。なによりシリウス自身が信じていない。
「ベンジーがいないって」
 腰の腕に力が入る。
「なんだと?」
「リリーが言ってた。数日前からいないって。今日の会議にも出てなかったでしょ」
 シリウスはリーマスの肩を掴んで上体を起こさせると両手でリーマスの頬を挟み、両目を覗き込んだ。金色の瞳が揺れていた。
「リーマス、それ本当か?」
 シリウスの視線を避けるように力なく伏せられたまつ毛が小さく震えている。
「わからない。今日アバーフォースのところから帰る途中、キャリーロードのアパートに寄ってきたんだ」
 そこは騎士団のアジトの一つとしてベンジーが住んでいた。カトマンズから東に62、3マイル離れ、地図を見ると同じ緯度上に存在するオックスファンドルという町にある。
「それで」
「誰もいなかった。2時間待ってみたけど誰も来なかった。ベンジーも帰ってこなかった」
 リーマスはシリウスの首に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。
「怖いよ、シリウス」
「2時間程度じゃわからないだろ」
 膝をついてシリウスはリーマスを抱きしめ返し、その背中をさすった。
 リーマスでさえこの調子なのだから、騎士団の会議も紛糾するはずだ。誰もがじわじわと押し寄せる恐怖に耐え切れなくなってきている。それだけヴォルデモートの勢力が拡大しているのだ。
 ベンジーは小心者ではないが強くもない。しかしアジトの一つを守っているという自負を持っているから、滅多なことでは居所がわからなくなることはない。現に今までそのようなことはなかった。まずいことになったな、と思う。ドーカスに続いてベンジーまでいなくなるとは。
 しばらくそのままの格好でリーマスの背中をさすっていると「スネイプを見たって?」と尋ねる小さな声がした。
「ああ、生きていたな、やっぱり」
「良かった、ジェームズのためにも」
 安堵の吐息を首筋に感じなからシリウスは「どうだろうな」と答えた。
「リーマス、スネイプはもう戻って来ない。マルフォイと一緒のところを見たが・・・・・・こんなことを口にするのも妙な気分だが、あいつらはあいつらでうまくやってる。もう無理だな、俺らの敵だ、スネイプは」
「・・・・・・ジェームズが悲しむ」
 シリウスはリーマスの髪を何度も梳いた。柔らかな金髪は優しく指を通り抜ける。滅多にこのようなことはしないがシリウスはリーマスの髪を触るのが好きだった。たぶんリーマスもそうされるのが好きだと根拠もなく思う。
「言う必要ないだろ。このことは俺とお前が知ってりゃいいさ」
「ジェームズは毎日スネイプを探しているのに」
「どうしようもない。あいつが乗り越えなきゃならないことなんだ。気のすむようにさせてやるしかない」
 シリウスはリーマスを抱き上げて、部屋にひとつだけあるソファに腰掛けた。いつもなら出来ないこともリーマスが率直に「怖い」と口にしたことと互いの顔が見えないことで抵抗が少なかった。膝の上にリーマスを抱いていると昔を思い出す。ただ純粋に好きだった頃のことを。
 リーマスのことばかり気にして、でもその気持ちが何なのかわからなくて、ジェームズにからかわれて。よくわからない状況になった今でも「好き」なんだなと素直に思った。この温かみを失いたくない。
「シリウス、一人で行動するのはやめて」
 腕の中で大人しく抱かれていたリーマスがまた同じことを言った。
「なんだよ、俺だって気をつけてるぜ。そうそうやられないさ」
「そうじゃなくて!」
 膝の上でリーマスは身を起こし、シリウスの瞳をきつく睨んだ。シリウスは何か言い返そうとして黙った。リーマスの瞳が涙に濡れていたからだ。
「シリウス、そうじゃなくて! 心配なんだよ! 僕らはどんどん追い詰められているよね、わかるんだ。ドーカスやベンジーがいなくなるなんて異常だよ。覚えてる? 騎士団を創ったときに写真を撮ったこと。あのときのメンバーが欠けていくなんて」
 旗揚げを記念して皆で写真を撮ったのだった。あの頃はまだ誰もが笑っていて、明るい未来しか見えていなかった。
 わかっていたことだろう、とシリウスは何度も口にした言葉をまた口にした。どこか気弱に聞こえるのはリーマスの涙が気になって仕方がないからだ。シリウスはリーマスの滅多に見せることのない涙に弱かった。
「わかってる! わかってるよ、シリウス! でも心配なんだ。心配するのは勝手だろ!」
 そう叫ぶとリーマスはシリウスに激しく口づけた。突然の行動にシリウスは驚き思わず腕を掴んだがすぐに力を抜いた。シリウスの顔を両手で包み込み、必死に口づけてくるリーマスの手は震えていた。
「リ、リーマうむっ・・・・・・落ち・・・つけ・・・ってっ」
「シリウス・・・シリウス・・・・・・好きだよ」
 その言葉を聞いた瞬間にシリウスはリーマスを引き剥がしていた。血が逆流するかと思った。
「お前、今・・・」
 驚きに言葉を続けられないシリウスの前で、リーマスの濡れた唇が歪んだ。金色の瞳も切なげに涙を流している。
「シリウス、好きだよ。初めてキスする前からずっと好きだった。僕が醜い獣の姿になっても変わらない態度でいてくれてありがとう。なぜだか僕らはいつも喧嘩してしまうけど、喧嘩していても僕の家に来てくれるのが嬉しかった。今日も来てくれたし」
 リーマスは涙をこぼし、鼻をすすりながら笑って、身動きもできないシリウスに優しく口づけた。
作品名:冬の旅 作家名:かける