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冬の旅

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 ジェームズはゆっくりとリリーに近づいた。足が痛くて座ることはできなかったから、手を差し出した。リリーはしばらくその手を見つめてからあたりを見回し、傍に落ちていた杖を取った。それからようやくジェームズの手を取って立ち上がった。
 ジェームズは言いたいことがたくさんあったが、どれもが言い訳じみていた。セブルスを助けられなったこと、もう死んでしまいたいこと、だけれどもセブルスが生きている限り生きなければならないこと、こんな世界に存在していたくないこと!
 結局ジェームズが口にしたことは「内通者がいるって・・・・・・」というリリーの神経を逆撫でする一言だった。リリーは大きく息を吐いて目を瞑り、何度も深呼吸をしてから目を開けて答えた。気持ちを落ち着ける仕草を見せるリリーは上から下まで汚れていて痛々しかった。
「いつもどこからか話が漏れてる。前にフランクと調べてみたけどわからなかった」
「いつ? 僕は知らないぞ」
「誰にも言わずにやったもの。フランクも誰にも言っていないと思う」
 そして、また唐突に泣き出した。ごめんなさい、止まらないのとリリーは泣きがなら言った。ちょっと待って。
 ジェームズは立っていることもつらくなってきていたが、右腕でリリーをそっと抱き寄せた。素直に抱き寄せられる身体にリリーももう限界なのだと悟った。それでなくてはジェームズに身体を預けることなどしない。そして、ジェームズも優しさからではなく、セブルスを想う者同士の傷の舐め合いとして抱き寄せているに過ぎなかった。この苦しみを一人で乗り越えるにはつらすぎる。
「このことはアリスも知らない。慎重にやったけど何もわからなかった。私たちが調べている間にロイとジョーがいなくなって、フランクと二人で途方に暮れたわ」
 リリーはそっとジェームズの胸を押して身体を離すと握りしめていた杖をコートの内ポケットにしまってから「大丈夫?」と小さな声で聞き、大丈夫そうではないのを見てとるとパッパと服を脱いだ。躊躇することなく下着姿になり、脱いだカットソーでジェームズの太ももを縛った。それから脱いだセーターを着込み、一つ頭を振ってから「帰りましょう」と鼻声で言った。
「病院に行かなきゃ。血が止まっていない。掴まって、今度は私が呪文を唱えるから」
 リリーはだいぶ落ち着いて普通の話し方に戻っていたが、相変わらず涙があふれ続けていた。
「その前に話をしよう」
 ジェームズは誘導されてリリーの肩に腕を回しながら言った。
「内通者の話だ。いつ調べた?」
「1年以上前。もしかしたら2年かも。よく覚えていない。ああ、でもホグワーツを卒業していたから、3年より前ってことはないわね」
 どうでもいいということがありありと伝わる口調だった。
「どうして調べようと思った?」
 リリーはまじまじとジェームズの顔を覗き込んだ。そこにある表情は戸惑いだ。
「なぜって。私たちが借りていたアパートや民家が立て続けに攻撃されていたときがあったでしょ。おかしいと思わなかった?」
「僕らだってうまくやってた。奴らの裏をかいたりして。そういうこともあるんじゃないかと思った」
 そう言ったすぐそばからジェームズは否定した。
「いや、違うな。そんなことにかまっていられなかった。いつも忙しかったから。これは言い訳だけど」
 リリーはわからないとゆっくりと頭を振った。
「決定打はフランクも私も知らないアジトが襲撃されたことよ」
「そんなところがあったか?」
「アンテウォーズの農園」
 ああ、とジェームズは頷いた。ヴォルデモートに楯突くレノンというやかましい老人がいたが、返ってそういう場所のほうが目立たないからと、同じアンテウォーズにあるバラ農園の1部屋を借りたのだった。あそこを預かったのはロイの兄・ケイタだった。
 ジェームズより3つ年上のケイタは決して見目は良くなかったが、優しい男で朴訥な人柄がバラ農園の見習い庭師にぴったりだった。思いがけず農園の主人からも重宝され、本人も「このまま本当に庭師になりたいな」とよく笑っていた。その雰囲気から、これは半分本気なんだろうとうっすら思ったものだ。
「知らなかった? あそこに決めたときはかなり揉めただろう?」
 レノンがいる地域にわざわざ騎士団員がいることはないとシリウスは反対した。レノンが隠れ蓑になるとエメリーンは賛成していた。確かにあの農園をどうするかの話し合いは少人数で行った。バラ農園を経営する家族は協力員ではなかったから、広く周知する予定はなかった。でもなぜフランクやリリーが知らないんだろう。
「なぜかはわからない。とにかく襲撃されて初めて知ったの。ほとんど知られていない場所だったのになぜヴォルデモートにはわかったのか。私はケイタがロイの兄だということしか知らなかった。親しいわけでもなかったしね」
 ロイとケイタは外見、性格、好みなど何から何まで正反対で、兄弟と言われてもなお疑うほどだった。ロイは動いていないと落ち着かないアクティブなタイプで、ケイタはのんびり、おっとりといった表現が似合う穏やかなタイプだった。二人に共通していたのはせいぜい眉毛の下に黒子があることくらいで、ロイでさえ「種が違うのさ」とシリウスにからかわれても笑っているほどだった。
「あそこのご両親はロイに騎士団をやめさせたがっていたでしょ? まさかケイタが協力者だったなんて思いもしなかった」
 事あるごとに騎士団についての小言を言われ、家に寄りつかなくなってしまった弟の分までケイタは両親の面倒を見ていた。だからこそ騎士団とは距離をおいているのだと思っていた。実際、騎士団内で見かけたことはなかったし、ケイタのことは話にもあがっていなかった。兄弟仲は悪くはなかったようだがロイからも聞いたことはない。
 そのほとんど知られていなかったバラ農園が襲撃されたのは一昨年の初めのことだった。見たこともない大量のデスイーターたちが空からやってきたという。それは空を覆い隠すほどで、まっすぐに農園へやってきたというからアジトが特定されていたことは間違いない。
 逃げ遅れた人々を巻き添えに、バラ農園の一家とケイタは惨殺された。ダンブルドアたち年長者が駆けつけた時にはすべてが終わった後だった。一足先に救出に向かったはずのアラスターは最後まで現れず、後日彼の証言からデスイーターたちを追っていたことがわかった。
 バラ農園は跡形もなく破壊され、血まみれの死体が転がり、中には原型を留めていないものもあった。気丈なエメリーンでさえ、真っ青な顔をして放心状態だったという。当時、ジェームズたちは数百キロ離れたクロイトンで作戦を遂行中で、この件に関しては聞いただけだ。
「僕もケイタがいつから協力者になっていたのかは知らない。だけどダンブルドアから聞いたんだ。覚えてる。ちゃんとした席じゃなかった。世間話のついで、みたいなさ。もしかしたらダンブルドアは僕にも言いたくなかったのかもしれないな」
 疲れた声でジェームズは言った。ドッと疲れがやってきていた。血が流れ過ぎていたし、それによって体温も下がっている気がする。手がかじかんで寒かった。それでも考えることは次から次へと尽きない。
作品名:冬の旅 作家名:かける