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冬の旅

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 騎士団の安全は最大限の注意が払われるがほとんど全員の素性はヴォルデモート陣営には把握されている。もっともその反対も同じだ。団員には最前線に立っている自覚があるから、それは覚悟のうちだ。
 しかし、協力者は騎士団員に比べて圧倒的に負荷が軽いため自覚はない。少し探偵のまねごとをして団員に話した、というその程度の認識しかない者が多く、自分は無関係だ、だから名前を言ってはいけないあの人の標的にはならないと考えている。ヴォルデモートから見れば騎士団も協力者も同じだという考えには及ばない。だからこそ、騎士団は協力者の名前、住所を必要最低限で共有し、外には漏らさない。
「たぶん私たちも知らない協力者がいると思うの。でもそれって悪いことじゃないわよね。それで安全が守られるのならそうするべきだわ」
 ほとんどの者たちは騎士団員より魔法力が落ちるのが現状だ。自分の身を守れずして、他人を守れるわけがない。身を隠してでも協力してもらえるのならありがたい。
「なんにしても内通者がいるのはわかっているけど誰かわからないってこと。もう帰りましょう。ここは寒いし、あなたの傷もひどいわ。早く手当をしなくちゃ」
 そう言ってリリーはジェームズの腰に手を回して呪文を唱えようとした。リリーの涙はようやく止まりつつあった。濡れた頬が風にさらされて冷えていた。
「リリー」
 諦めたようなジェームズの声がリリーの動きを止めさせた。左腕をだらりとたらしたままのジェームズは自分の腰を抱きしめたリリーを疲れを滲ませた瞳で見下ろしていた。
「僕はもうどうしていいかわからない」
 小さくため息をついて、それから視線を遠くに向けた。
「ぼくは本当に浅はかだった。例えセブルスがあちら側に行ったとしても、ヴォルデモートとは接点のないところにいるんだと思い込んでいたんだ。でも全然違ったな。これからもたぶんひどいことをされるんだろう」
 リリーはジェームズを深く抱き、背中を何度も撫でてセブを大事にする同士を慰める。改めてスネイプが連れ去られたことを強く意識すると胸が壊れるほどの痛みが走り顔をしかめた。
 セブ、あなたが本当に大切なのに何もできなかった。さっきのチャンスを逃してしまった今、これからも何もできそうにない。私は弱い。ジェームズに八つ当たりしたけど私一人でも向かっていけば良かったのよね。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
 止まったはずの涙が懲りもせず、また流れ出して視界がぼやけた。
 苦しむのはいつもスネイプなのだということにリリーは傷つく。セブの痛みに比べたら傷つく資格もないのに。どうしてこれほど悲しみを背負ってしまうんだろう。リリーやジェームズができるだけ守っていてもスルリとスネイプはすり抜けて暗闇へと堕ちていく。
「セブルスの苦しみが全部僕に降ってきたらいいのに。僕は後悔の海で溺れそうだ。みんなが言う通り僕は大馬鹿だよ。好きな人一人助けることができない。苦しいよ」
 リリーが顔を上げるとジェームズは静かに涙を流していた。リリーは何も言えず、ジェームズの胸に顔をうずめ、その背中を撫で続けた。
「セブルスは・・・・・・サヨナラの挨拶を・・・・・・したと思うか?」
 しばらく経ってからジェームズの声が聞こえた。リリーは背中を撫でる手を一瞬止め、またゆっくりと動かした。耳に残る小さな声。
『ジェー・・・ムズ、リリーと・・・仲良く・・・ね』
 すぐに閉じられた瞳。白い顔。乱れて汚れた黒髪。
 リリーは小さく頷いた。あの言葉はサヨナラの意味なのだろうと思う。それはジェームズもわかっていて聞くのだ。気持ちの整理をつけるために。もしかしたらセブルスと永遠にお別れをするために。
「僕はセブルスが生きていてくれれば僕を好きじゃなくてもいいんだ。できることなら幸せでいて欲しいけれど」
「ええ、幸せでいて欲しいわ」
 鼻をすすりながらのリリーの言葉は二人の間で虚しく響いたが、今は言葉にすることが大切だった。スネイプを大切にする者同士が一つずつ同じ価値観を言葉にして積み上げ、『失ったのだ」と確実に認識する作業が必要だった。
「死んでも良かった」
「そうよ、死んで良かったわ」
 ジェームズの途方にくれた声にリリーは心から答えた。嘘をつく必要もないことだった。
「僕は孤独だ」
「私も孤独よ」
 友人も親友も師と仰ぐ人にも出会い、両親にもかわいがられた。恵まれた人生を歩んでいるはずだったが、ふとしたときの孤独感は冬の海風のようにリリーを苛んだ。
「心が凍えているんだ」
「もうずっと前から」
 あの日から、あの罪を犯したあの日から心の中に永久凍土がある。
「ジェームズ、帰りましょう。帰って手当をして、それからうんと考えて、どうするか決めましょう」
 ジェームズの心はギリギリのところで踏ん張っている。あと少しでポキリと折れてしまう。セブを取り戻せず、粗末な扱いをされるのを目の前にしても何もできなかった。ジェームズの心が崩壊するのも時間の問題かも知れない。愛する人のあんなところを目の当たりにしたら誰でもおかしくなってしまう。私でさえ、気が狂いそうなんだもの。
「そうだな、帰ってから考えようか。でもどこに帰る? もう僕は誰にも会いたくない」
 また皆が心配するだろう。シリウスは何があったのか聞いてくる。リーマスは口にはしないが視線で問いかけてくるだろう。フランク、アリス、フェービアン、ギデオン、エメリーン。みんな、みんな、無言で問いかけてくる。それに答える気力はもうない。ここに立っているだけでもやっとなのに。
「あなたの家に。あなたがいなくなったらご両親が心配するでしょ。あとは・・・・・・私がなんとかするわ」
 ジェームズはジッとリリーを無表情に見つめた。リリーも黙って見つめ返した。泥や雪や涙や塵で汚れた互いの顔を合せて、そうしてどれくらい時間がたっただろう。長く感じたがおそらく1分も経っていないに違いない。
「リリー、僕は両親をゴドリックの谷に移すよ」
「それがいいわ。そうすればあなたの嘘は本当になるし。私も手伝っていい? 何かしていたいの」
 リリーも騎士団の誰にも会いたくなかった。ともすれば過呼吸になるほどリリーも傷ついていた。それから目を、意識を逸らすために忙しくしていたかった。身体が疲れて何も考えられないくらいに。
 ドレアは陽気で、活発で、笑い上戸で、それでいて母親という立場の者が持っている独特の包容力でリリーの気持ちを浮上させてくれるだろう。『リリー、私の可愛い子。緑の目がとっても綺麗。見つめられたらどんな男の子も骨抜きよ』。ドレアには娘がいないからか、リリーやアリスをことのほか可愛がった。
 そうだな、とジェームズは頷いた。
「手伝ってくれるとありがたい。母にはおそらく男手より女手のほうが必要だから」
 ドレアらしいわ、とリリーは頷いて、今度こそジェームズの腰にしっかりと手を回すとすばやく呪文を唱えた。
 途中、術の風圧に耐え切れなくなったジェームズはリリーに身体を預けて気を失った。その重さを受け止めながらリリーは泣いた。
作品名:冬の旅 作家名:かける