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愛と友、その関係式 第25話第26話

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「んで、今は何してんの?」
「これ」
「ん」
 美奈子の差し出した大学ノートと教科書を交互に眺める。天童はテーブルに置いてある美奈子の可愛らしい筆入れからペンを取り出すと、ノートにスラスラと解とそれにいたるまでの数式を書いていく。
「こいつがこうなって……」
「うんうん」
 美奈子ははと時計みたいに何度も頷いた。
 若王子の都合がつかないときは(もともと彼は気まぐれだ)、こうして二人でファミレスで(お金が足りないときは図書館で)勉強する。そういうとき、大体が天童が教師役になっていた。
 美奈子は大概が直感型で勉強を教えたりするのは不得手だし、何より天童のほうが学力的に上なせいもある。
 美奈子はいつも天童をすごいと賞賛した。天童は鼻高々で自慢するときもあれば、ふと思い出したように目を細めてそんなことないと意気消沈することもあった。
 その意気消沈するときは魔がさしたようで、そんな風だから美奈子が天童に何かあるのかもしれないと疑問を抱くのはなんの不思議もなかった。
「ねぇ、どうして天童くんは――」
 天童のペンが止まるのを見計らって、美奈子の声があがった。
 天童が顔をあげると、美奈子は視線を泳がせて言葉を濁す。
「なんだよ」
「えぇっと……、天童くんはどうして勉強なのかなって」
 天童は目を丸くして、手にしていたペンを落とした。ペンはコロコロと転がって美奈子の腕に当たって止まる。
 美奈子はペンを拾うと、カチリとノックを押して芯を引っこめた。天童を覗きこむ。
「……あの?」
「ん、ああ。何だよ、今更」
「ちょっと気になっちゃって。ほら、いつも私の話ばかりじゃない? それに、いつだか若王子先生が言ってたでしょ、私のせいだって」
「つまんないこと覚えてんだな」
 ふんと鼻を鳴らして天童はそっぽを向いた。機嫌を損ねてしまったのだろうかと美奈子が不安になる頃、天童はそっぽを向きつつもようやく言葉を繋いだ。
「お前ってさ、昔を引きずらねえだろ? ……間違えたら間違えたって素直に認めて、正しいと思った方へ直ぐに顔を向けられる。それって案外難しいことなんだ」
 天童が美奈子へ顔を向けた。
 案の定、美奈子はきょとんとしてだらしなく口を開いている。
 天童は”だよな”と言って笑った。
「多分、お前には解らないよ。意識してねぇもん。だから、やれる。だから、凄い。――そう、意識するから難しいんだ。俺には」
 天童は言葉をきって瞼を閉じる。
 ふと脳裏に浮かんだのは友人の顔だった。
 
◆◇◆◇◆

 ――天童壬、中学一年時。
 初めて親友を呼べる人間がこの世に存在できうる事を知った。それまでは”親友”なんてものは一種の都市伝説的な類だと思っていた。
 たとえば、道徳の時間に並べたてる綺麗な言葉だけのようなもの。つまり理想であって、それは現実とは異なるもの。
 クラスメートが天童のことを虫と呼んでいたのは知っていた。本のムシ、勉強のムシ、大人にとりいろうとするムシみたいな奴。
 勉強ができるということは、本人の望む望まず関係なく教師の評価があがるということだ。それもそのはず、教えるという仕事に対して打てば響く優等生は仕事の評価及びやる気に繋がる。それは致し方ないことだろう。だが、その他の生徒が贔屓だと捉えられるのもまた常だ。そして、贔屓するのは天童が教師に媚びへつらっているからだと、クラスメートの間でいつしかそういう認識にすりかわる――つまりそういうことだった。
 こびへつらったわけじゃない。暗いやつでもない。特別、本の虫でもない。天童は勉強が好きで、ほんの少し勉強の才に恵まれていただけなのに。
 ――天童には友達がいなかった。
 だけど、それが特別悲しいことだと思わなかった。何故なら、手にいれたことがないものを”なくて”悲しいなんてあまりにも滑稽だからだ。
 そんなとき、天童は”あいつ”と会った。
 それを親友と呼ぶのだと、初めて理解した。一緒に遊ぶことを覚えた。友達できるうるかぎりの馬鹿をして、笑って、今まで一人じゃ出来なかったこと沢山した。
 それから季節が一巡りすると、アイツの要求が次第に不道徳なものへと変わっていった。そんなとき、不意になくなることの怖さを知った。本当に魔がさしたようだった。まだ、なくしてさえいないのに。
 そして、優等生が教師の傀儡だと勘違いしたその他大勢の生徒のように、優等生はみな教師の味方だと勘違いした教師が見透かしたように天童へこう言った。
 ”あの生徒は君にふさわしくない。前の君ならはばたき学園へいけるほどの学力だった”
 ふざけるな――、今までの自然と思っていた言葉の違和感がいっぺんに溢れた。気づいてしまった、全部全部。今までの自分が急に汚らわしくみえた瞬間だった。決して勉強だけが悪いわけじゃないはずなのに。
 天童は初めて教師へ反抗した。否、教師が初めて天童に不愉快な態度をとっただけなのだ。天童は今まで手のかからない優等生だった、しかし、それはつまり手をかけていないということなのだ。
 誰も自分のことなど気にしてない。アイツ以外、誰も、誰も。
 アイツの要求する遊びが段々と自身の年齢を超えていく。
 深夜に鳴る電話。さしだされたタバコの箱。のみかけのビール。上級生の喧嘩の手伝い。脱色剤の鼻をつく匂いと肌をさす痛み。
 嗜好品を子供みたいにがっついた。
 誰も、天童自身でさえ、不思議とこの流れを止められなかった。

「天童壬、お前は俺を裏切らないよな?」

 そう問いかけられて、何と答えればよかったのだろう。アイツが何を求めているか、天童は知っていた。だけど、それが正しい答なのかと訊かれれば黙るしかない。
 友達はアイツが初めてだった。どうすればいいか解らなかった。ただ、なくしたくないという想いが強すぎてその他の問題を視界から削除した。
 
「……あぁ。お前も俺を裏切らないよな」
 
 泣き笑いみたいに頷いた。
 ――なあ、本当は誰のためだ。
 ――友達って何だ。
 ――何をしたら裏切りになるんだ。
 だったら、お前をもう裏切っている。頷いた、あの日から。本当は……自分が逃げたかっただけなんだ。お前を道ずれにしただけなんだ。こうなってしまったのは、お前のせいだといえるから――何て汚らわしい。
 賢しい天童はいち早く気づいてしまった。感情に振り回された愚かな選択を。だけど、もう後戻りはできない。何故なら、それでもアイツは天童のヒーローで、これ以上、友を傷つけてはいけないからだ。
 それは歪な共依存。
 泥の中から酩酊したような眼差しで空を見上げた気分。ここにいる限り、現状は変わらない。これ以上、何も悪くならないのだと――奇妙な安心感だった。
 ――ああ、これが絶望。なんて心地良い堕落。
 
◆◇◆◇◆

「感謝……してる」
 長い沈黙の後、瞼を開いた天童の第一声に美奈子は首を傾げた。天童は首を横に振って、言い直した。
「昔――中学のとき優等生だって話したよな。あれ、信じてるか?」
「うん、こんなに勉強できてるんだもん。信じないほうがおかしいよ」
「だな。お前はほんっと勉強できない」
 くすっと天童が笑うと、美奈子はぷぅと頬を膨らませた。
「それって今の話に関係あるの?」