愛と友、その関係式 第25話第26話
「ねぇ。それでな、ありがちな話だ。――勉強ばっかやってた坊ちゃんは友達いなくて、ようやくできた友達に浮かれたのはいいけど一緒にぐれちゃった……そんな感じ? まあ、そんで親とか教師とかに見放されて現在に至る、て所か。おもしろくもなんともない」
天童は自嘲気味に微笑んだ。
「まあ、勉強してんのは――もう一度初めからやり直せるかもしれない……いや、やり直してみようと思ったから、だな」
「やり直し……中学の頃?」
天童は頷いた。
「そう。アイツと初めて出会ったときから」
「アイツ?」
「初めてできた友達。今も喧嘩友達だけどよ」
天童の言葉に、美奈子は両手を机について立ち上がった。
「喧嘩は駄目だよ」
美奈子はいつになく険しい表情を浮かべている。美奈子が元から喧嘩自体に良いイメージを持ってないのは知っていたが、こんなに過剰反応したのは初めてだ。
天童は面食らってしばし言葉を失ったが、首を横へ振って取り繕った。
「今はしてねぇよ。それに、それも含めて――……。俺さ、勉強頑張ったらアイツに言えると思うんだ」
何を? 美奈子が問う前に天童は矢継ぎ早に言葉を足す。
「感謝してる。お前に会えたから、踏んぎりがついたんだ」
浮かべていた険しい表情は萎んで”ごめん”と謝り、美奈子は椅子に座りなおした。
「その……会えたからとか、まだよく解らないけど。……天童くんは友達のことを大事に思ってるんだね」
「さあな。俺はアイツしか友達いねぇから、よく解らねぇ。これが大事にすることなのかって。でも、やらなきゃ何もかわらない」
美奈子は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。ややあって、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「私は友達じゃないの?」
「あ」
失念していた。天童はひどく間の抜けた顔をして美奈子をポカンと見つめた。
それから火がついたように笑い出す。
「くくっ、そっか。うん、そうだな――。俺とお前はもう友達だ」
くくっと天童は喉を鳴らす。
「さ。昔話はもうお終いだ。お互いの目的のために、勉強の再開でもしようか」
天童は再びペンを取る。開かれたノートには数式がところせましと書き連ねてあった。空いたスペースを見つけて、覚えたての方程式を書き込む。
そのとき、若王子の言っていた言葉は運命論ではないのかと不意に気づいた。
この世の全ては、物の落ちる速度から物質の重さ時間の早ささえ法則があり、関係性がある。例えば円周率のように決まっているのだ、全て、全て。
起点が同じであれば終点も同じであるように。――それが運命論。
そう、小波美奈子との出会いがあったから変わるのではなく、小波美奈子と友達になるために今までの時間の過程を歩んできたのだ。
そして、小波美奈子を経て、また未来へ歩きだす。今度は天童自身が誰かの小波美奈子のような存在になるために。
――たとえば、そんな可能性もあるのかもしれない。
「勉強、頑張ろうな?」
天童の言葉に、美奈子は嬉しそうに頷く。たったそれだけで救われた気がした。
第26話へ続く
作品名:愛と友、その関係式 第25話第26話 作家名:花子



