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無傷の11月26日

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「もう、サッカーやめるんです。左足は…鷹匠さんの言うとおり使えません。ゴールも決められません。だから…」
 何でこんなことになっているのだろう。
 一方的に知ってはいるが、ほとんど初対面の相手に問い詰められて、情けない告白をさせられている。
 本当は明日の朝、兄に一番に言うつもりだった。
 サッカー部ではないと答えたのは半分嘘で半分本当だった。春からマネージャーとしてサッカー部の部員でいたけれど、それも明日で終りにするつもりでいる。退部してサッカーそのものを辞める。
 物心ついた頃から兄を追いかけて、兄がやるからサッカーを始めた。兄のような天才と呼ばれるプレイヤーではないけれど、いつか追いつくつもりで続けてきた。
 それを辞める。

「だから…」
 惰性で出た言葉の続きを見失って口ごもった。
 フッと短い呼吸音。直後に額に頭突きをくらって脳みそが揺れるような鈍い痛みが走った。
「辞めるだ?こんなとこで一人でボール蹴って未練タラタラで。たかが、ゴールが決まらねえから、辞めるだと?」
 乱暴に突き飛ばすようにパーカーを開放される。
 フォワードがゴールを決められないことが「たかが」なわけがない。ずっとやっていたサッカーを辞めるのに未練がないわけがない。
 サッカー部のマネージャーになってからずっと考えた末の答えだ。
 それを簡単に語らないで欲しい。
 悔しくて睨みつけようとしたらまぶたが支えきれなくなった涙が大粒の雫になってこぼれ落ちた。
「フンッ」
 一直線に公園の入口まで歩いた瑛は放置していた荷物を拾う際に漸く少年を振り返った。
「そんなに辞めたいならさっさと帰れよ。」
 少年の足元にパタパタとシミが出来る。
 じきに瑛の気配が消え、少年はその場にうずくまった。
 頼りない灯りの下に置き去りにされたサッカーボールを見ながら泣いた。


 朝日が眩しい。
 重い頭を押さえながら支度を整えて食卓に顔を出すと、兄の姿はなかった。
「傑なら自転車を学校に置いてきちゃったからって先に出たわよ。」
 話をするチャンスを一つ失った、と同時にホッとした。
 退部すると伝えなければならないのに、ホッとした。

 家を出ると幼馴染の奈々が自転車に跨って家の目の前にいた。
「おはよう、セブン」
 約束しているわけではないが、奈々が同じ中学に通うようになってからは何度も一緒に登校していた。彼女もサッカー部のマネージャーをしている。
 彼女には珍しく朝から落ち着かない様子で視線をさ迷わせていた。しかし、今朝はそんな奈々の様子を気にする余裕もなかった。
 通学用の自転車を押して道へ出るのを待って奈々が口を開く。
「あのね…」
「あ、」
 ぼんやり視線を落としたタイヤが潰れているのを見つけて声が出た。
「パンクしてる。」
 ツイてない。そう思いながら自転車を家の脇に戻して戻ると奈々が自転車を降りて待っていた。
「歩いたら学校に着くのギリギリになっちゃうよ?」
「いいの、駆一人置いてけないもの。」
 横並びに歩き始めた時、彼女はもう一度だけ何かを言いかけ、やめた。
 俯くのを誤魔化すように携帯で時間を確認して大きく一歩踏み出す。
「ほら、遅れちゃう。かけ足かけ足!」
 二人で駆け出せばもういつもの彼女だった。

 兄とは同じ中学校に通っている。
 学年も一つしか違わないし部活だって一緒だ。
 校内で何度か見かけて一度すれ違い、部活でまた顔を合わせた。
 それでも、結局退部のことを切り出せなかった。



作品名:無傷の11月26日 作家名:3丁目