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走る

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 見つめ合った。目を見開いた駆と。真剣な目をした日比野は一秒ごとに不安が足元から迫上ってきてまぶたが落ちてくる。それは駆が言葉を発したときついに閉じられた。
「…………それってどういう、……冗談?」
 きつく目を瞑った日比野は冗談を言ったようには見えなかった。
「チクショッ」
 アッと思ったときには日比野は砂を蹴って駆け出していた。
 放り投げておいた荷物や脱ぎ捨てた靴も放って海岸線沿いに逃げ出した。
 逞しい筋肉が慣れない砂に苦戦しながらも走る。走ることには慣れていた。普段走っているのは硬い土のグラウンドや芝の上だ。裸足でもない。逃げるためではなく、敵を追うため、敵からボールを奪うために走る。
 今、日比野の目の前には何もいなかった。どこまで、なんて考えずひたすら全力で走った。どれだけ走っても時間は巻き戻らないし口から一度飛び出した言葉は戻ってこない。言ってしまった現実から逃れられないのに足は止められなかった。
 全力で逃げる日比野に遅れて駆も走りだした。
 日比野に比べて筋肉の少ない二本の足はそれでも砂のピッチに慣れていた。毎日部活で駆け回っている。日比野とは違い、身軽さ、一瞬の速さを求めて鍛えた走る足。
 全力で逃げる日比野を全力で追いかけた。
 告白の答えなんて持っていない。それでも日比野が逃げるなら追いかける。本能的に逃げるものを追いかける犬みたいに。急加速して全速力で走ると心臓がバクバクいって呼吸が苦しくなって、頭はあまり働かなくなった。
 やっと追いついて制服のシャツの脇をつかんだ、と思った。それをさせまいと日比野が身を捩る。それでもしつこく手を伸ばすとボールを競り合っているときのようになって、日比野が振り回した腕が駆を波の中へ振り飛ばした。
「うわっ!」
 海に向かってゆるい傾斜になっている水の中に手をついてもどうにもならず、ダメ押しのように大きな波がきて全身を余す所なくずぶ濡れにしていった。
「ぷはっ」
 手を付いたところから砂が浚われていく不安定な足場を這って波から逃げると目の前に手が差し出された。掴むと暖かくて、握られる力強さにホッとした。
「わりィ」
「ほんとだよ」
 日比野はもう逃げなかった。
作品名:走る 作家名:3丁目