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愛猫

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伊作はなんとはなしに思いついた疑問を口にする。先のでろでろに甘い顔でもわかるが留三郎はもんじを溺愛していた。想いを寄せる文次郎から名前をとったほどの愛猫を、留三郎が手放す姿は伊作には思い描けなかった。伊作の問いに留三郎はあからさまに残念そうな、名残惜しげな表情をする。
「連れていきたかったけど、無理だ。学生向けの安アパートだからしょうがねえけどペットは不可だとよ」
「そっか…すごく懐いてるから留三郎がいないともんじ淋しがるだろうねえ」
留三郎の判断は意外なものであったが、ありきたりな理由は納得せざるを得ない。感想を漏らせば留三郎の眉がさらに難しげな形に寄る。会えぬ想い人を愛猫に重ねている節があるから、恋しさゆえにやはりどうにか連れて行けないかと思案でも始めたのだろう。無理なものは無理だろうに。踏ん切りがつくように、と伊作は故意におちゃらけた切り返しをする。
「でもまあ、文次郎と再会した後のこと考えたらそのほうが良いんじゃあない?自分の名前をペットに付けられてるって知ったら、文次郎の奴、絶対怒るか気色悪がるかするだろうしさ!」
しかめつらしい表情を作り頭の脇に指で角を立てれば、きょとんとした留三郎が次の瞬間には噴き出した。伊作としてはお冠をポーズで示しただけのつもりだったが、留三郎にとってはそれだけではなかったらしい。散々笑い倒しヒイヒイと咽喉を引き攣らせながらも、愛おしそうに目元を緩ませる。
「なっつかし・・・アイツ、苦無でそんなんしてたなあ」
そんな格好で鍛練してて、下級生を怖がらせたんだっけ。思い出話に花が咲けば自然と場の空気は温まる。しんみりとした淋しさはいつの間にかなくなって、気付けば伊作が食満宅を訪れてから随分と時間が経っていた。
「夕飯食ってくか?」
「いや、いいよ。CD譲ってもらうだけの筈だったのに長居しちゃって悪かったね」
「別に。お前と俺の仲だろうが」
伊作を見送るために玄関までついてきた留三郎は、出迎えのときよりほんの少し晴れやかな顔をしている。靴を履く伊作の背に掛けられた声も幾分軽く響いた。
「なあ伊作、俺がいない間もウチ来てもんじのこと構ってやってくれよ。おふくろ達はお前のこと実の息子同然に思ってるから遠慮いらないしさ」
「ふふ、わかった。ついでに淋しがりな留三郎の為に時々写メも送ってあげるよ」
「ついで…てか淋しがりって」
「そうでしょうが。そっちも文次郎に会えたらちゃんと僕にも連絡してよ。舞い上がって忘れたりしないでよ」
「…おう」
舞い上がる自分が容易に想像できたのだろう、留三郎がバツの悪そうな顔で頷く。いつだって留三郎は文次郎のことを第一に考えているから仕様がないとはいえ、ちゃんと戒めておいてよかったと嘆息した。
「じゃあ、元気でね」
本当は、大切な幼馴染が遠くに行ってしまうことが淋しい。それでも留三郎の幸せを願って、伊作は笑顔で彼の家をあとにした。



作品名:愛猫 作家名:小枝