新 三匹の子豚Ⅲ
「さっさと渡さねえと命はないと思えよ!」
そう言うとトラは「ガオーッ!」と吼えました。その声にトンコ婆さんは身体をぶるっと震わせました。
「人間の世界ではなあ、『ブタに真珠』ってえ言葉もあるらしいぜ。知ってるか? それはなあ、ブタには真珠なんてもったいないってことなんだぜ。つまりお前に真珠なんて似あわねえってことさ。アハハハ……。だからさっさと渡すんだ」
トンコ婆さんは思いがけない言葉を言われ、とてもショックを受けました。
『ブタに真珠』――つまり私には真珠は似合わないってこと?――そう思ったトンコ婆さんは何だか奈落の底に突き落とされたような気分になりました。それまで、誰よりも自分に一番似合ってると思っていたから……。
「分かりました。このネックレスはトラさんにあげましょう。その代わり私の命だけは助けて下さい」
トンコ婆さんは諦めたように言いました。
「そうか、やっと分かったか。最初から素直にそう言えばいいんだよ。アハハハ」
トンコ婆さんが、首から外したネックレスをトラに向かって差し出し、トラがそれを受け取ろうとすると、いきなり頭に何か重いものが振り下ろされたのでした。
「ギャー!」トラが悲鳴を上げました。
トンコ婆さんの手には、少し大振りな石ころが握られていたのです。どうやら話しながらその石を掴んで、トラの頭を殴るタイミングを計っていたようなのです。
「このくそばばあ! 何しやがるんだー。もう許させねえからな!」
――というわけで、俺様は頭に来たんだ。
だからそう言った後、逃げようとするあのばばあの足に噛み付いてやった。
噛み付かれた拍子に倒れたばばあは、さすがにネックレスを外して俺様に差し出し、命乞いを始めたんだ。
だけどもう手遅れさ。俺はもう頭に血が上ってたからな。しかし勘違いしないでくれ。俺様は、何も最初からあのばばあの命を奪うつもりなんてなかったんだ。本当だぜ。
自慢じゃないけど、最近の俺様はもう年のせいもあるかもしれないが、無用な殺しはしないんだ。ま、昔から本当に腹が減って必要に迫られた時にしか猟はしなかったが、最近は特にそうなんだ。だから最初からあのばばあが素直にあの真珠のネックレスを差し出しさえすれば、殺したりなんかしなかったのさ。それなのにあのばばあは……。
考えても見ろよ。いきなり頭を石で殴られたらどうするか。俺様は思わずあのばばあの首に噛み付いてたのさ。
これは俺様の本能だからどうしようもない。
別に悪いことをしたとは思ってないぜ。俺様に取っちゃあ当然の行動だからな。それでも何か文句があるのかっ?――