新 三匹の子豚Ⅲ
「今更何をどうしてもトンコ婆さんは帰ってはこない。だけど……いや、だからこそお願いです。せめてそのネックレスをトンタおじさんに返して上げて下さい。それはおじさんにとっては大切な形見なんです」
ウーの静かな物言いに誰もが黙ったままでした。
すると少しして、仲間の誰かが一人、突然声を上げました。
「お願いだ。返してやってくれ!」と。
瞬く間にその言葉はみんなに広がって、口々に同じことを言い始めました。まるで合唱でもするかのように……。
「分かった、分かった。もうやめろ!……せっかく気持ち良く昼寝してたのに、こんなにうるさくちゃやってられねえ。そんなに大事なら返してやるさ!」
そう言うとトラは首のネックレスを器用に外し、手の爪に引っ掛けて、こちらへポイと投げて寄越しました。すかさずトンタがそれを拾うと、愛しそうに頬擦りし、優しく撫でました。
「ふん! どうせ俺様には少々きついし、もう飽きてきてたんだ。あのばばあだって、あの時、石で俺様の頭を殴ったりさえしなきゃあ、俺様だって殺したりなんかしなかったんだ。まったくう」
そう言ったトラの顔には、少なからず後悔の表情が見て取れました。いえ、ウーの目にそう見えただけだったのかも知れません。
「三日月のトラさん、ありがとう」
気持ちを込めてウーがそう言うと、みんなも一緒になってお礼の言葉を言いました。
「トラさん、ありがとう」
「ふん!」
三日月のトラは、鼻息とも返事ともつかないような声を漏らしただけで、そのまま踵を返すと、森の中へと入って行ってしまいました。