二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【シンジャ】鳥籠の番人【C80サンプル】

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

 シャルルカンの言葉に対してそう言ったのは、ジャーファルが男であるか女であるかという事を悩む外見をしている事を知っていたからである。自分には男にしか見え無いのだが、他人の目には性別不詳に映るようで、性別を間違われたり性別を訊かれたりしているジャーファルの姿を何度か見た事があった。
「それは分かってます」
「まさか、そういう店に行っていたのか?」
 そういう店というのは、女性では無く男性が客を取っている店の事である。多くは無かったが、国営商館の中には幾つか男性が春を売っている店がある。シャルルカンの恋愛対象が女性だけである事を知っていたのでその可能性を今まで考えていなかったのだが、先程まで行っていたのはそういう店であったのかもしれない。
「違います。普通の店です。普通の。女の子しかいない店の筈なんですが、店の女の子と同じ格好でジャーファルさんそこにいたんですよ。なあ」
 慌てた様子で自分の言葉を否定したシャルルカンは、最後に言いながら後ろに立っているマスルールへと視線を移した。それを見てマスルールへと自分も視線を移すと、こちらを見遣りながらマスルールは小さく首を縦に振った。
 同じ格好をしているからといって、他の女性と同じように客を取っているとは限らない。ただその格好をしている可能性もある。その可能性が限り無く低いものである事など分かっている。それが分かっていながらもそう思おうとしたのは、体を売るという真似を彼にしていて欲しく無かったからだ。
 早く彼を迎えに行かなければいけない。そう思った次の瞬間には、足が入り口へと向かって動き出していた。
「何処に行くんですか、王サマ!」
 このまま部屋の中から出て行くつもりであったのだが、入り口へと辿り着く前に慌てた声でそうシャルルカンから呼び止められた。足を止める時間すらも惜しいと思ったのだが足を止めたのは、ジャーファルを見かけたという娼館が何処にあるのかという事を彼に教えて貰う為である。
「国営商館に決まってるだろ。何処の娼館なのか教えてくれ」
「今日行っても、話しを聞いてくれもしないと思いますよ」
「何でそんな事が分かる?」
 行ってみなければ分からないという事をシャルルカンの発言を聞き思った。
「王宮に一緒に行こうって言ったんですが、拒まれたうえに刃物を向けられました」
 そう言ったシャルルカンの顔は苦しそうなものであった。
「お前にジャーファルが?」
「……はい」
「本当に記憶が無くなってるようだな」
 記憶喪失にはそう簡単になる事は無い。記憶喪失の振りを彼がしているだけという可能性もあると思っていたのだが、そんな可能性がシャルルカンの台詞を聞く事によって消え去った。
 記憶喪失にでもなっていなければ、一度懐に入れた相手に徹底的に甘い彼が刃物を向ける筈が無い。マスルールの肩を持つ事が多いジャーファルであったが、シャルルカンの事もマスルールと同じように気に入っていた。マスルールの肩をジャーファルが持つ事が多かったのは、体格的にはマスルールの方が良いのだがシャルルカンの方が年上であったからだ。
「それにもうこんな時間ですし。明日にした方が良いと思います」
 彼が自分に対してそう言ったのは、自分が疲れた顔をしている事も原因なのだろう。その事を彼は口に出して言わなかったが、彼の表情や態度からその事が分かった。
 まさかシャルルカンに心配されてしまう日が来るとは思ってもいなかった。自分が疲れた顔へとなっている事は知っていたが、鈍い性格をした彼が気が付くほど疲れた顔をしているとは思っていなかった。
 これ以上仕事を続けても、間違いを犯してしまう可能性がある。今日は仕事をこの辺りで終わらせて、紫獅塔に戻った方が良いのかもしれない。王宮の最も奥に位置する場所にある紫獅塔は、自分と近しい者たちと自分だけの私的空間である。そこで自分だけで無く、家族を持っていない八人将などが生活をしている。
「分かった。お前の言う通り明日にしよう。明日の夕暮れ時、店が始まる頃その店に行こう。それまでに片付けておかなければいけない事を片付けておく」
「分かりました。それじゃあ、明日の夕方頃ここに来ますね」
 そう言ってシャルルカンがマスルールへと視線を移すと、マスルールが首を小さく縦に振った。
 シャルルカンと一緒に娼館へと行っていたマスルールも、明日自分をジャーファルを見かけた娼館まで案内してくれるようだ。堅物というよりも何に対しても無関心なマスルールが、進んで娼館に行くとは思えない。シャルルカンに無理やり連れて行かれたのだろうなと思いながら二人と別れた後、体を休める為に紫獅塔へと戻った。

  ★  ★  

 空が茜色になる頃から朝までがこの店の営業時間である。何時から何時までという事を決めずに営業しているのはこの店だけでは無い。国営商館の中にある店の大半が、いつからいつまで営業するという事を細かく定める事はしていない。それが何故なのかという事を最初不思議に思っていたのだが、今はそれを不思議に思う事は無くなっている。それは、営業時間を定めない方が良いという事を、ここで働いているうちに思うようになったからだ。
 もう直ぐ店を開ける時間になっている事が空を見る事によって分かり始めた開店準備は、店の中の確認だけと後はなっている。南国の雰囲気溢れる店の中を見てまわりながら、先日から考えている今よりも売上を伸ばし集客を良くする方法を考えていく。南国の雰囲気溢れるものに店の中を変える事によって以前よりも売上が上がったので、今以上に南国の雰囲気溢れるものに店の中を変えれば更に店の売上げが伸びる筈である。
 自分がここに来るまでこの娼館は、何処にでもありそうな娼館であった。それを今のような店に変えたのは、この娼館だけで無く国営商館へとやって来るのは主に観光客である。観光客は南国の島国であるシンドリアの雰囲気を味わいたい筈であると思ったからである。
 店の名前でもあるプルメリアの花が至るところにある店の中を歩きながら売上を更に上げる方法を考えていく事によって最終的に行きついたのは、昨日と同じどうやって女将に資金を出して貰うかという事であった。
 今までこうであったからこうすれば利益が出る筈であるという事を説明しても、多額の資金が掛かる事を知れば資金を出す事を渋るだろう。彼女を説得する方法を考えながら店の中を見ていくうちに店の確認が終わり、入り口にある布の隙間から見える外の景色を見遣る。開店準備を始めた時は緑柱石【アクアマリン】のように青々とした色をしていた空であったが、今は茜色に染まっている。
(丁度良い時間に終わったみたいですね)
 準備を丁度良い時間に終わらせる事が出来た事に満足しながら、目隠しの為にある布を捲り女将から与えられた部屋へと向かう。
 昨日帳簿を付ける時間が無かった為、昨日の分と一緒に帳簿を客足が少ない今のうちに付けておいた方が良いだろう。