二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【シンジャ】鳥籠の番人【C80サンプル】

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

 揉め事や面倒ごとが起きる事が滅多に無いという事は、商売柄無い。揉め事や面倒ごとは珍しく無かったのだが、昨日ほど様々な出来事が起きた日は初めてかもしれない。最初はこの店で一番人気の女性に会って貰えず暴れていた男の事を思い出していたのだが、やがてその後に現れた青年の事を思い出していた。
 人違いであるという事を繰り返し言っているというのに、彼はそんな自分の言葉を全く信じようとしなかった。あれだけ人違いであると言っているというのに自分の言葉を信じようとしなかったという事は、彼の言っている自分と同じ名前をしたジャーファルは自分とよく似ているのだろう。勘違いされてしまうほど自分に似た相手に会ってみたい。否、全く同じ顔をした相手に会うと良く無い事が起きると言われていた筈であるので、彼には会わない方が良いのかもしれない。
 彼が言っているジャーファルは自分なのかもしれないという事を一瞬は思ってしまったのだが、今は自分とは別人であるという事を確信していた。
(人違いに決まってるじゃないですか。私が八人将と知り合いな筈が無いじゃないですか)
 そう思いながら、自分に刃物を向けられた時のシャルルカンの顔を思い出した。傷付いている事が分かる顔へとなっている彼の顔を見た時痛んだ胸が、硝子の破片で傷付けられるように再び痛んだ。相手は昨日初めて会ったばかりの相手である。昨日初めて会ったばかりの相手の傷付いた顔を思い出す事によって、胸を再び痛めた自分が不思議であった。
 自分をここから連れ出し王宮へと連れて行く事を諦めた様子が彼には無かった。再び彼がここに現れる可能性は高いだろう。その時の事を考え憂鬱な気持ちになりながら、女将から与えられている狭い部屋の中へと入る。
 この部屋には小さな窓があるのでこの時間はまだ明かりを付けずとも仕事が出来るのだが、暫くすれば明かりを付けなければ仕事が出来なくなってしまう。その頃になると店が忙しくなり、手が足り無くなれば自分も手伝いに行かなければいけなくなる。それまでに帳簿を付けてしまおうと思いながら椅子へと腰を掛けたのだが、それを邪魔するように窓の外から賑やかな声が聞こえて来た。
 国営商館が賑やかになるのは、店が忙しくなるのと同じ辺りが暗くなってからだ。こんな時間に国営商館の中で賑やかな声がしているのは珍しい事である。何かあったという事なのだろう。その何かというのは、喧嘩などの類では無い事は聞こえて来ている声から分かった。
 何が起きているのかという事を確かめようと椅子から腰を上げ窓から外を見ると、こちらから見て右側を見ながら何か話しをしている者の姿や、その方向へと向かって行っている人の姿を見る事が出来た。皆が見ている方で何か起こっているのだという事は分かったのだが、この小さな窓からそれを見る事は出来無かった。
 好奇心旺盛では無いので、外に出てまで何が起きているのかという事を確かめたいとは思えなかった。何が起きていたのかという事を後で誰かに訊ねれば、何があったのかという事は知る事が出来る筈だ。それに、何が起きているのかという事を確かめに行くと、忙しくなる時間までにここへと来た理由である仕事が終わらなくなってしまう。
 机の端に幾つもある巻物の一つを手に取り机の上に広げると、聞こえて来ている賑やかな声が大きなものへとなって来た。賑やかな声が聞こえて来ている原因が、この店の方へと移動して来たようである。外から聞こえて来ている声を気にしないでいる事は出来無かったが、それを耳障りにまで思う事は無かった。
 窓から聞こえて来ている声を聞きながら帳簿を付けていると、店の中から店の女性の悲鳴が聞こえて来た。
(まさか……)
 昨日と同じ悲鳴を聞き思い付いた事は、昨日この店にやって来た彼が再びこの店に来たのかもしれないという事であった。近いうちにもう一度この店に来るだろうという事を思っていたが、まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。昨日の今日である。
 まだ店に現れたのが彼と決まった訳では無い。別の人物の可能性もある。それでも、シャルルカンが再び店へとやって来た可能性もあるので、外に出ない方が良いだろう。シャルルカンが店にやって来ていた場合、彼から昨日と同じ事を言われる事になる事は間違い無い。
 八人将にあんな態度を取ってしまった事に対して、失礼な行動を取ったという思いは欠片も無い。嫌がる自分を無理やり店から離そうとしたのだから、あんな態度を取られても仕方が無い。店の中から聞こえて来ている音に耳を傾けながら昨日の自分の行動に対してそう思っていると、足音の主が慌てている事が分かる足音が聞こえて来る。
「ジャーファルさん」
 勢いよくそう言って部屋へと姿を現したのは、この店の男性従業員の一人であった。
「どうしたの?」
「今直ぐに来て下さい!」
 そう言った彼の様子は慌てたものであった。
「何があったの?」
 彼に付いて行った方が良さそうだと思い、部屋を離れながら彼にそう訊ねた。
「ジャーファルさんを呼んで来てくれって……」
 先程まで自分がいた部屋から店の入り口までは、一分も掛からずに行ける距離である。前を歩いている彼の言葉を聞き、誰が自分を呼んで来てくれという事を言ったのかという事が気になっていると、店の入り口と従業員しか入る事が出来無い場所を区切っている布の前までやって来た。聞くよりも自分の目で見た方が早いようだと思いながら布を捲ると、紫水晶のような紫の髪と黄玉【トパーズ】のような薄い赤茶色の瞳をした男の姿が飛び込んで来た。
 膝まであるのでは無いだろうかと思うほど長い髪をした彼は、彫りが深いだけで無く一目見れば忘れる事が出来無いほど端正な顔立ちをしていた。そんな彼は自分を見た瞬間、驚いたような様子へとなった。
「ジャーファル」
 何故自分の名前を王である彼が知っているのだろうか。自分の名前を呼ぶ彼の声を聞きそう思ったのは、彼の姿を見るのは初めてであったが、彼がこの国の王であるシンドバッドである事が彼の姿を見る事によって分かったからだ。初めて見た筈であるというのに彼がシンドバッドである事が分かったのは、記憶を失う前に彼の姿を見た事があるからなのだろう。
 八人将を自分は見た事があるのだ。この国の王である彼の姿を見た事があっても何も不思議では無い。
「プルメリアへようこそいらっしゃいました。今日はここで遊んで行かれるのですか?」
 彼が遊ぶ為にこの店へとやって来たのでは無い事は、彼の様子や彼の隣に昨日ここへとやって来たシャルルカンとマスルールがいる事から分かっていた。それが分かっていながらも彼の元へと向かいながら笑顔でそう言うと、渋い顔へとシンドバッドはなった。
「俺のことが分からないのか、ジャーファル?」
「シンドバッド王の事は存じております」
 自分と同じ名前をしているだけで無く自分と似た顔をした人物は、八人将のシャルルカンとマスルールと顔馴染みであるだけで無く、王であるシンドバッドとも顔馴染みであるようだ。しかも、王であるシンドバッドと親しい間柄であるのだという事が、自分へと話し掛ける彼の態度から分かった。
 自分と同じ名前をした彼は一体何者なのだろうか。