BOKORI TITLE 10
08:泣きわめく
思い出す午後の光は透明だ。夕方に近づけば琥珀色になる光も透明に伸びて。騒音も雑音も一枚膜がかかったように遠い。
そう、ずいぶん遠くまで来たように思えるあの日。沢田は泣きわめく普通の赤ん坊を腕に抱いていた。
彼の群れ。その中の誰の子だったのだろう。赤ん坊は沢田の腕の中でむず痒そうに泣きわめいて止まらなかった。おろおろしながら、それでも幸せそうに笑う彼。視線に気づいたのだろう。僕を見て、こんにちは。赤ん坊の泣く声にかきけされない声音で言った。
間抜け面。そう、端的に感想を言えばさらに笑み崩れる君。赤ちゃん、かわいいですよね。
ほしくは、ないですか?
そういった沢田で記憶はぼやける。
僕は彼になんといったのだっけ。
君の卵子と精子でできているならば。
たぶんそんな風に答えて、さいていって言われて、キスされたはずだ。
作品名:BOKORI TITLE 10 作家名:夕凪