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龍と鬼と邪と祭り

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「天龍!!折角快くオゴってくれるって言うお人好しな心優しいカモ……じゃねぇ、せんせーに何て事を!!」
「うわー、素直すぎるにも程があるわこの子ー」
「ああっしまった!?」
「ふっ、流石横島じゃのう。……その失言っぷりは余にも真似出来ん」
「ほっとけやぁ!!」
 いつもの様にボケつつ、何気に色々と不穏な発言も飛び出しつつ。
 わいのわいの言いながら、一行は歩き出した。



 フランクフルト、チョコバナナ、焼きとうもろこし、あんず飴にりんご飴にわたがしに水風船のヨーヨーを手に。ついでに何とかライダーのお面を頭に。
「……あんまり食うと腹壊すでー?」
「ヘーキヘーキ!!食える時に食っとかねーとな!!」
「横島!!あれは何じゃ?」
「おー、じゃがバタだな。あんなのもあるのかー」
「よく解らんが、行け!!横島!!」
「よっしゃあ!!」
「……やれやれ」
 そんな鬼道の苦笑交じりの言葉にも構わず、二人して買い食いは止まらない。
 先程買った、たこ焼きとかき氷は既に胃の中だ。
 たかられている方はたまったものではない筈だが、そこは保護者気質の鬼道。やはり苦笑するだけで。
 横島に肩車されたまま。買ったばかりのほくほくなじゃがバターを頬張りながら、天龍は御満悦だ。
 水風船のヨーヨーがお気に入りなのか、ぱしぱしと何度か打ちつつ。
「やはり下界は楽しいのう。横島、次はデジャブーランドに連れていけよ!?結局行けずじまいじゃったのじゃからな!!」
「何で俺が……。そん時はせめて小竜姫様も連れてこいよ!?」
「む、余との『でぇと』が気に入らぬと申すか!!」
「フツー男同士でデートなんざしねぇんだよ!!てかガキがませた事言ってんじゃねー!!」
 ぎゃいのぎゃいのと言い合う姿も、それを見る者には微笑ましさが強く感じられる。
 (元気やなー)
 のほほんとした鬼道の雰囲気も相俟って、ほのぼの空間此処に形成。
 (……お?)
 と、鬼道が立ち止まり、何かに目を向けた。
「なぁ、横島。……アレ何やろ?」
「え?どれ?……あー、アレ型抜き。知らねぇ?」
 天龍を肩車していた所為で食べるスピードが落ちていたのか、残っていたあんず飴の欠片を口に放り込みつつ、横島が鬼道の問いにそう返す。
「聞いた事はあるなぁ。……ボクやってええかな?」
「あー、いいんじゃねぇの?年齢制限もねーだろーし。……俺も久々にやっかな。フフフ、型抜きタダちゃんとは俺の事だぜ!!」
「何や、いろんな二つ名あるなぁ」
「余もやるぞー!!」
 すっかり和み家族か兄弟だ。
 横島もこのほのぼの空気はどこかむず痒いものがあるが、悪くはないとそんな空気に乗ってみる。
 天龍を一旦降ろし、型抜きの出店へと。
「で、どーやるんや?コレ」
「板に彫ってある溝通りにうまく抜きゃいいんだよ」
「ふんふん」
 (……いつもの大人然とした雰囲気が薄らいどるなー。幼いっちゅーか。何か可愛いかもしれん……って!?)
 素直に頷く年上男性に、ちょっと可愛いとか思ってしまった自分に硬直する横島の横、その様子に気付きもせず、取り敢えず挑戦する鬼道。
 天龍はそんな横島の様子にきっちり気付いており、面白くなさそうな顔をして睨んでいたが。
 ともあれ、型抜き開始である。
 爪楊枝を使ってやるタイプの様だ。他にもそのまま指でパキパキと折っていくタイプもあるらしいが。
「……っ、と……。出来た!!……けど、これでええんやろか?」
「えっ!?……あ、あー、上等上等!!おっちゃん、これいったよな?えー?そんな細かい事言うなよー。こいつ、親が連れてきてくれなくて、今日が初めての祭り体験なんだぜー?」
「よ、横島……。別にボクは……」
「いーから任せとけって!!つーわけだからよ、おっちゃん!!もう一声!!」
 おっちゃんと交渉中の横島の声を聞きながら、天龍も型抜き続行。
 燃える瞳が暑苦しい。


 ややあって。
「横島っ!!余も出来たぞ型抜き!!」
「ん?どれ?……ってボロボロじゃねーか。流石にコレはダメだろー」
 声を上げた天龍の手元を覗き込んで、その出来に眉を寄せる。
 何とかしてやりたいが、流石にここまでボロボロだとなー、と困りながら。
「何ぃ!?」
 その判断が不服らしく、ぷりぷり怒りながら喚く天龍童子。お子様だ。
 暫くそれが続いていたが、いつまでもこうしている訳にもいかない。
 どーしたもんかと頭を掻く横島の横手から、鬼道が歩み出る。
「……ボクのやろか?」
 ひょい、と鬼道が差し出したのは自分が貰った景品だ。
 たわいのない、船のオモチャ。ネジを回せばスクリューが回り、水に浮かべりゃ進むという、幼児向けだがしっかりした作りの、ほのぼのとする景品だった。
 しかし天龍にはそんなほのぼの感は伝わらなかった様で。
「ええいいらぬ!!貴様の施しなど受けぬわっ!!」
「お前なぁ……。つーか鬼道も甘やかすなよ。折角貰えたんだし」
「んー、けどなぁ……」
「くっ……鬼道政樹!!」
 悔しげに呻いた天龍は、びしぃっと鬼道を指差し、言い放つ。
「貴様には負けぬぞ!!もう一回じゃ!!」
「オイオイ、時間なくなんぞー」
「……何や目の敵にされとんなー」
「プライド刺激しちまったんじゃねぇ?」
「そうやなぁ……。やっぱり子供扱いはいかんかったか。成人しとるんやろ?」
「うーん……そうらしいけど……見掛けも中身もまだガキだしなぁ、天龍は」
 一心不乱に型抜きに挑戦している天龍の後ろでひそひそ話。
 因みに天龍、某事件の際にツノが生え変わり大人になった、というのは事実だが、その後に起きた事件や色々なゴタゴタもあり、正式に成人の儀を済ませている訳ではない
ので、天界でもまだ正式に大人扱いはされていなかったりする。まぁ、時間の問題であるが。
 天龍にしてみればそれも有り難いと言えば有り難かった。
 もどかしかったりもするが、正式に成人だと認められてしまえば、地上に遊びに来る、なんて事は許されないだろうから。
 大儀名分として、人間界での修行、としている今回の来訪ではあるものの、こちらの事情を知る者なら本当の目的など見抜いており、見て見ぬ振りをしていてくれているのだろう。
 寿命の長い竜神族だ。成人として扱われれば、充分な力を得るまでは修行漬け。気軽に地上になど来れる筈も無い。
 幾ら規格外と言っても人間である横島の生きている間に地上に来る事は難しいだろう。
 たまに地上で会議や会合はあるが、横島と会う時間が作れるかと言えば微妙な所だ。
 だからこそ、天龍童子は決めるつもりだったのだ。
 この機会を、逃さぬ様に。
「ぬぅ!!また割れおった!!くぬぅっ……親父!!もう一回じゃ!!」
「あーもーやめとけって!!」
「なぁ、輪投げやらんか?」
「ぬ!?……勝負か?」
「ん?んー……そやねぇ。やろか」
「え、ちょ、鬼道?」
「ならばっ!!」
 言質は取ったとばかりにきらーんっと目を光らせ、横島を置いて、
「勝った方は横島を独り占めできるというのはどうじゃっ!?」
「ハァ!?」
「……横島を?」
「そうじゃっ!!……負けた方は潔く横島を諦め、この場から立ち去る!!」
「ハァァ!?」
「……本人の了承は得んといかんでー?」
作品名:龍と鬼と邪と祭り 作家名:柳野 雫