龍と鬼と邪と祭り
何を伝えたいのかは知らないが、間違ってはいないだろう。
考え込む天龍を眺めながら、鬼道も考える。
「……ボクも伝えとこかなー」
「ぬあ!?ちょっと待て!!何を伝えるつもりじゃ!?」
途端に慌てて迫ってくる天龍に、鬼道は朗らかに笑いつつ。
「さー、何やろなー」
「だっ、駄目じゃぞ!!横島は余のものじゃっ!!」
「いや、それは横島が了承してから言わんと」
「やはりそっち方面で横島狙っとったか貴様ぁ!!」
「さぁ、どやろなー?」
そんなじゃれあいに似たやり取りかます二人の元にラムネを手に戻ってきた横島が、随分と砕けた雰囲気になっていた二人に首を傾げたのは、当然の事だった。
喉を潤し、祭りの締めの花火の上がる時間まで、まったり待ちつつ。
「あ、そーだ、天龍。これやるよ」
「?何じゃ?」
ぽん、と軽く渡されたのは、戦隊もので出てくる様なロボットだ。
サイズは小さめだが、細部までしっかり作られたなかなかの逸品。
「これは……」
「輪投げ、やり足りなかったからな。ちょっとやって、取ってきた。どーだ、嬉しいか?……ちゃんと小竜姫様に俺のナイスガイっぷりを伝えんだぞ!?」
「むぅ、下心付きか。相変わらず邪な奴じゃのう」
「うっせ」
軽く言い合う二人の顔は、笑みだ。
その様子を見守りながら、鬼道はゆったりと笑う。
祭りの終わりは近くとも。
この幸福は、紛れもなく本物だ。
「はは、そーいうトコ横島らしいなぁ。……そんなトコ好きやろ、天龍」
「はっ!?」
「……おのれ、余計な事を……。まぁ、否定はせんが」
「なっ!?」
「うん、ボクも好きやし」
「にゃっ!?」
「だから手元に置いておきたいのじゃ」
さらりとそう口にした天龍が、改まった様に横島に向き直る。
「横島、人としての生を全うしてからでいい、竜神族になる気は無いか?お主なら功績は充分にあるし、資格もある。誰が何と言おうが、余が認める。そして、認めさせる。……余の元に来い」
「ちょっ、まっ、えええっ!?」
一気に大人びた口調と表情と告げられた言葉に、横島は当然の如く大混乱に陥る。
そんな横島を置いて、会話するのは他二人。
「人である内は手出しせんのか?」
「他の者達の妨害がきつそうじゃからな。……それに、その方が何かと都合が良いじゃろう」
元々考えていた事ではあった。
時間が足りないのなら、先が無いのなら、種族差があるのなら。
それらをクリア出来る様にすればいい。
本当は直ぐにでも竜神族に来る様に言いたかったのだが、そこは考えを改めた。
それでは自分の力も足りないだろうから。
美神達にさえ気後れするこの未熟な身では、横島を手元に置く等不可能だ。
……実際の所、鬼道と話すまでは、単に己の一族に迎える事しか考えていなかった。
だが、横島を想う者は数多く居るのだという事を、思い出したので。
待つ事を選択しようと思ったのだ。……策略付きで。
「因みに、竜神族は一夫多妻制じゃからな。……小竜姫も喜ぶぞ?」
「何っ!!」
思わず反応する横島に、鬼道は苦笑。
「解り易い子やねぇ」
「それもまた横島らしさじゃ」
天龍は満足そうに頷いていたが。
と、意味ありげに天龍が鬼道に視線を送る。
「……で、貴様も言う事があるのではないのか?」
「……言うてええのか?」
「どうせ人の内に手は出せん。神化するにしても、今の状態では直ぐにという訳にはいかんからな。第一、貴様に向かうと思うのか?この煩悩の権化が」
「はは、説得力ありすぎやなー」
二人の言葉に、ぴきり、と身体が固まる。
(え?えぇ!?何?この急展開っ!?)
ただでさえこの事態にわたわたしているというのに、会話の流れからいって、この後に何か大変な事を言われてしまう気がする。
しかしどうしたらいいのか考え付かず思い付かず、思考回路がショートしそうである為、あうあう言いつつオロオロするしかない横島。
そうこうしている内に、鬼道が口を開く。
空に華咲くその瞬間。
「ボクと、暮らさん?」
色々とすっ飛ばした様な、解釈が難しい様な、そんな誘いの言葉が横島の耳に届いた。
祭りの終わりは物悲しくて。
寂しさや切なさも共にあるけれど。
「なっ、何で!?何で俺っ!?てゆーか天龍はともかくとして大人で教師で保護者とかゆってる鬼道まで何故こんなアホな事にっ!?」
「まぁ、人としての生を終えた時には霊格もそこそこじゃろうし、何せ余の家臣として上に記録されとるからな。どうせ逃げられん。その時は問答無用でかっ攫わさせてもらうぞ、横島」
「いやー、ほんまは言う気無かったんやけどなー。天龍にあてられて、つい、な。他に誰か居れば違ったと思うんやけど。……まぁ、横島にその気無いなら別に忘れてくれてええから」
「む。……消極的ではないか、鬼道政樹。余が認めてやるから、横島が生を終えるまで護り、愛してやればよかろう。そして生を終えたその時には素直に余に引き渡すがよい」
「はは、なかなか計算高いなぁ。……女性陣よりは抵抗が少ない思とるんやろ?けど、ボクも結構しつこいで?」
「ほう。……まぁ、心配いらん。その時は強制的に天へ送ってくれるわ」
「それは怖いなー」
「待てぇぇぇ!!俺の意思とか意見とか無視して話を進めんなぁぁぁっっ!!」
「決定じゃ。もう変わらんし、変えさせん」
「ほな、答え聞かせてくれるか?」
「えっ、いや、そのっ、俺男だし煩悩少年だしあうあうっ!?」
「……横島は変な所が純情じゃのう」
「かわええなぁ」
「同意じゃ」
「うわぁぁぁ何だこの事態はぁぁぁっっ!!!」
顔を真っ赤に染め上げてシャウトしても、何が好転する訳も無く。
時は進んで祭りは終わり。
「花火も終わったし、帰ろか」
「……次の祭りが楽しみじゃのう」
「次?」
「……横島が来たら、毎日祭りじゃろ?」
「……確かに」
「ま、それまでにもちょくちょく来てやるがな。しっかり横島をモノにするがいい」
「そう出来ればええんやけどねー」
「……まぁ、大丈夫じゃろう。何せ……」
ちらり、と視線を向けるその先に。
「ど、どーしてこんな事にっ……!!だ、大体何で俺がっ……!!いや、てゆーかとっとと断ればいいのに何で……。い、いや待て、これはただっ……え?あれ?……理由とか言い訳とか出てこないっ!?」
「……アレはもう断れん」
「……かわええなぁ、ほんまに」
祭りの終わりは物悲しくて。
寂しさや切なさも共にあるけれど。
次の祭りに期待して。
胸は確かに踊っている。