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(無題)

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戦の際に負った深手だろう。どの者も身体のどこかに矢傷や刀傷が残り、所々皮膚が裂けている。牢の中では最低限の物しか与えられない。やつれ切った姿だが眼のみぎらぎらと光っていた。戦に負けた無念と今から見世物になり辱めを受けるその身の屈辱。主や見物する者達、刃への憎悪が噴き出そうな表情である。戦場では強き者達であっただろうが戦死を許されず捕虜にされ、その時から現在まで刃に処断される為だけに死なぬ程度に生かされていた者達。戦闘と最後尾を守る兵達に小突かれてはいないが、裸の上半身を縄で固く巻かれていた。あまりに強く、きつく巻いているからだろう。捕虜達の皮膚に縄が喰い込み、縛り上げた周囲が赤くなっているのが遠目でも認識出来た。
連行される様な形で庭へ入った彼等を、男達は敵めと言う目で睨み付ける。どの者も捕虜達と直接戦闘を行う立場などではないが、彼等と争った戦ではいつもの様にこちらにも多くの死傷者が出た。
勝利側であっても憎悪は消えないのだろう。そういう物である。
女達はほぼ裸に近い彼等の半身と、刻まれた矢傷刀傷に目を背けている。中には袖で顔を覆い嫌がる者もいた。
その時が近付き、庭は重苦しい雰囲気に包まれる。淀んだ空気の中に刃以外の男達の憎しみがぶつかり合い火を噴きそうな程であった。
針のような鋭い視線を背に受けながら、捕虜達は兵士に莚へ乗るように促される。彼等が足を乗せ、各々つかず離れずの位置に着いたのを認め、控えていた側近が手早く枷を嵌め錠をかけた。捕虜の足首の周りに合わず、肉を巻き込んだがそれはどうでも良い事だった。 刃は二振りの刃龍を持ち腕へ装備する。
(……)
憎悪は全く湧かない。ただ処断の為に彼ら三名を観察し確認する。
先ず向かい右側から捕虜達の体格を見た。
年嵩の男である。長身の刃より更に柄が大きい。捕えられ今まで牢に入っていたのだが尚しっかりとした体格をしている。生来骨が太いのかもしれない。未だ癒え切っていない矢傷刀傷の他に胴と腕と脚。各所に皮膚の引き攣った跡がある。古傷だ。跡に残る怪我を無数に負い、この星で今日まで生き続けた捕虜。強い者だろう。
強い者……背は。同じ位だろうか。刃は彼以上の長身とその身体で長槍を扱う兄を思い出していた。
中央には同じく長身の青年が立つ。この者も全身に傷があるが、外見の若さに対しその数は少し異様な程だ。傍観する男達から罵声を浴びた時に睨み返し、今は怒りに満ちた目で刃を見ている。
必要はないが目が合ってしまった。この性質が捕虜の身体にある無数の傷の原因となったのだろう。勝気な顔つきは誰かを思い出させた。……未だ覚醒せぬ母星に留まるすぐ下の弟を。
左端の者は随分と小柄な青年だった。筋は農民兵達よりはある位だ。
若い。兵士と言うよりはまだ戦場での経験の多くない、どこかの将の子にも見える。必要であれば子供でも武器を手に取るこの星の現実を目の当たりにした気がした。
……子供か青年か。刃は一人の若者を思い出した。拳を持つ……末の弟。

……投げ遣りに似た思いだ。気が軽くなっていくのを感じた。
心の中は雪の様である。浮かぶ程軽く、そして冷たくなっていく。この星に降り百余年、始めから今までずっと命ある者達の生を断ち続けてきた。今からも、明日も、数年後も……
自分の未来は仮に足掻いたとしても変わらない。人造人間のこの身も、造られた時から定められていた心なき忍びのプログラムも。
戦いに明け暮れるこの身よ、何を嘆こうか。迷う事はない。思う意味もない。処断する者達の血で今まで流した血の穢れを流し去ってしまおう。
上半身を縄、下は足枷で楽に動けぬ三人の捕虜を一瞥する。
……今から断つのは彼等ではない。断つ物は。
刃の瞼の裏に彼と同じ黒髪黒瞳の兄弟達の姿がよぎる。慈愛や優しさに溢れた暖かい思い出が。
その過去を断つのだ。
ふうと息を吐き口上を謳い上げる。主からの指示だ。
「偉大なる我が主の命によりこの黒き星の防人がお前達に死を与える。身に余る誉れと思え。」
あるべき暖かさと重さを失った心はただ冷えていく。雪の様に羽の様に。
せめて心だけでも浮遊出来るのであれば。どれだけ思いを消し抑えようとしても心は瞬く間に向かい、飛翔してゆくのだろう。彼の元へ。
(遠い)
彼が。……血潮より熱い情熱を俺に向け、鬼火の様に切なき思いを俺に抱かせ続ける彼が。
とても真意とは言い難い口上を述べた後、すぐに刃は目を細めた。
走れぬこの距離、対象を拘束する縄と足枷。各々の体型。
指示の下る僅かの間、命を断つ手段が刃の脳中で高速で組み立てられていく。
離れた傍観者達にも刃のその気配が伝わるのだろう。呼吸も憚られる張り詰めた痛い緊張が空間に満ちる。
「刻限だ」
枷を持っていた側近が唾を飲み込み、掠れた声で告げる。
合図である左手を主が挙げた。

捕虜達との僅かの距離を二、三歩。音無く寄り、向かい右の男と刃は対峙した。
この処断は全て成功させなければいけない。だから始めはこの男、と刃は定めていた。
処断の成功、まずは捕虜の確実な殺害を行う事が重要だった。先に他の二名を処断し、残った余力で眼前に立つ最も頑強な男を主の指示通り鮮やかに斬る自信はあまりなかった。
主や傍観する客の男達が恐らく心地良い娯楽として内心望んでいるだろう切断はこの男に対しては不安であった。
切断。彼等が身に引っ掛けているぼろの様な粗末な服を断ち刃龍を皮膚に当て肉と脂肪を引き切り、更に一層の力で骨幹を断ち臓器を切る……全て結合力の異なる人体組織に対し、限られ且つ極めて短時間で行わなければならない動作だ。その大がかりな事を一人目から行うと、二人三人目の処断に頃には刃龍に血と脂がこびり付く事は必至である。それらでまず断ち難くなり、加え刃当人の疲弊も重なり威力は大幅に落ちる。
必要以上に付着した血と脂の処理に追われ刃龍を使えぬ日が出てしまう事も、今からの処断が途中で続行不能になる事もどちらも避けなければならなかった。明日も先も……延々戦い続けるこの身だ。後顧の憂いの因を作りたくはない。

男の頑強な身体を力で断つ事は得策ではない。
歩みを止めるその際で左の足を一歩、大きく外に突き出す。半身を同じ向きに捻り右腕の刃龍の刃先と男がほぼ垂直となる様に構えた。相手と武器の接触面を減らし、血、脂の付着を少しでも抑える為であった。
頸の動脈を定め、首の右側へ刃龍を高速で入れ下ろす。切るのではなく、狙い細く深く捕虜の首二尺程に刺し入れた刃先を下ろし脈を断つ。刃龍の重みと刃の右半身の力で、右胸から逆側の腰までをするすると滑らせる様に切り下ろした。首以外は断つ必要はなかったが、これは処断で見世物である。刃の本来望む様な手段を最小限に止め終了とする訳にはいかなかった。執行者は裁く様を主と来訪者達に見せる義務があった。
頸への一撃の数秒後、大柄の捕虜の身体は数歩ぐらりと後方へ下がった。二寸程を完全に分断された首の右側より、穴の開いた皮袋からこぼれる水の様に、男の脈に合わせ朱が細く勢い良く噴き出る。そのまま長身はどうと倒れたが血は尚流れ、莚に大きな血だまりを作った。少しの間、男の胸は浅く速い喘ぎを繰り返し上下していたがやがてそれも止まった。
作品名:(無題) 作家名:シノ