二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

∽夏の陽

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

一様に、彼女たちは覚えが無いという。
たまには悪びれもせず自分がやったと言う子がいてもいいのに、と竹中は嘆息する。
一応は不祥事の類だ。
家主に報告を、と秀吉のところへ赴けば、警護のためだろう控えている若衆と擦れ違う。
「あの部屋に、また女の子が入ったから悪さしないでね。」
朝食はどうしましょう?というパターン化した問いに、心細いだろうから暖かいものを届けてあげて、と答える。
お互いに目は見交わさない。表情も変えない。
ただ儀式のように六度目の遣り取りを繰り返す。
あの少女は今頃、考えても出ない答えに頭を悩ませているだろうか。
「秀吉、入ってもいいかい?」
「うむ。」
応えに小さく微笑んで、障子戸を開ける。
入室する際、目の端に、先程の若衆が唇を吊り上げているのが見えた。
ああ、今日の立ち番は彼だったのか。嗜虐心の強い男だ。
後ろ手で障子戸を閉めながら、吉継がそこまで見越して今日の彼女を嵌めた可能性を考える。
十分にありえそうだった。

吉継が捕まえた少女のことを皮切りに、この先のスケジュールと戦略について話し合う。
部屋に広げた日本地図に竹中は何も記さない。
ただ子供たちが面白がって書き込んだ線がある。
旅行に連れて行った先に丸がついていて微笑ましいが、それは豊臣が支配下に置いた土地の政略経過をも表している。
書き込まれた日付は、盃を交わした日と重なる。
発表会だよ、と子供たちに舞を謡を披露させた日だ。
友好の宴に子供たちを連れ込むことは違和感を放ったが、それさえも豊臣の信頼の表れと嘯けば否定の声は無くなる。
それを利用して吉継は子供の邪気の無い笑顔を振り撒いては、黙然と頭を下げるだけの三成と様々な話を拾ってくる。
三成はどうも無自覚だが、吉継は自覚して話を拾っている。
あの子の性質はどうしたものか。
楽しんでいるのが半分、役に立たねば豊臣に、三成の傍に居られないという懼れ半分。
少し仕事でも与えて、肩の力を抜かせた方がいいかもしれない。
今だって吉継は自分で率先して仕事を作り出している。
三成は詩吟や謡の、与えられた仕事に熱心だが、吉継は舞を舞うだけでは不十分と今日のような仕事を作るべく虎視眈々周囲を見回しているのだ。
それはそれで悪くは無いが、どうも視野が狭すぎる。
「吉継くんと三成くんには、外国語を覚えてもらおうと思うんだけど、いいかな?」
話の最後にした提案は、少しの間を持ってから秀吉に頷かれた。
間の意味は解る。いつもなら三成のために働きかけることが多いのに、今、竹中は意図的に吉継に言葉を強めた。
「どうも彼は暇らしくて、最近悪戯が過ぎるからね。」
他人の鞄を触るなんて、と呆れたように言えば、秀吉は口元だけで笑った。
「将来のためにも、その方がいいだろう。」
裁可に竹中は、華やかに笑った。


夜が明け、説教部屋に少女の様子を見に行けば、彼女は揺れる瞳で竹中を見つめた。
決意と、戸惑いと、不安が綯い交ぜになった見慣れた瞳だった。
朝食を持ってきてくれた男が、慰謝料代わりにと数万貸してくれ、その金額を返すために男のところで働くのだという。
どんな店かと聞いたところ、飲食店だとだけ彼女は言った。
どんな類の飲食店かまで、教えられなかったのか言いたくないのかは解らなかった。
だが、恐らくその店でも事故か何かで新たに借金ができて店を変わるのだろうと、確定された未来を竹中はつまらなく眺めた。
嗜虐心の強い男とは、執心でもある。
搾り取れるだけ搾り取って、その搾り粕さえ喰らい尽くす。
それらが全て、豊臣の土壌になる。
頑張って、と竹中は微笑んだ。

朝食を終えた子供たちが、朝の稽古のために和服を着込んで廊下をぱたぱた駆けて行く。
「竹中様っ!おはようございます。」
「あい、おはようございます。」
可愛らしい笑顔に、自然と竹中の頬も綻ぶ。
「おはよう、ふたりとも。昨日はよく眠れたかい?」
三成はムッと眉を寄せ、吉継はクスクスと含み笑う。
「ないしょないしょのヒソヒソ話が多くて、三成は、のう?」
「吉継っ!!」
真っ赤になって口をふさごうと慌てる三成から、吉継がくるくると逃げ回った。
「元はと言えば吉継くんの所為じゃないか。」
竹中が呆れて言えば、ぴたりと吉継が動きを止めた。
急に止まった動きで、三成が背中に顔をぶつける。
「あのお姉ちゃんは、三成をカワイソウと言ったのです。何にも知らない、あのお姉ちゃんが三成をカワイソウと言うのは、酷いヒドイ。」
独占欲らしい、と竹中は目を瞬いた。三成は意味が分からないのか怪訝そうにしている。
吉継の無表情にも拗ねた様子が可愛らしいと、竹中は思うけれども、メッと屈んで顔を近づける。
「それでも悪いことをしたのは変わりないから、午後は罰掃除だよ。吉継くんはお祭りはお預け。来週のは一緒に行こうね。」
あい、と呟く声が悄然としていて、本当に子供らしい。
土産を買ってきてやるからな、と慰撫する三成に、金魚がいい、と返している。
微笑ましく思って、それからふと思い出す。
「そういえば、二人とも中華とイタリアン、どっちが食べたい?」
キョトリと二人が瞬いた。朝食を終えたばかりだけに意外な質問だったのだろう。
「お夕飯のお話ですか?」
「どっちかしか選べないのですか?」
不思議そうな子供たちに、竹中は華やかに笑う。
「今日の夕飯よりもずっと先の話だけどね。韓国は近いうちに僕と秀吉が食べちゃうから駄目。辛いから君たちの口に合わないと思うし。アメリカは脂っこくて好みじゃないし食べ残しそうだから、君たちが大人になるまで様子見かな、変な法律も出来ちゃったしね。落ち着いたら皆で食べるのもいいね。」
言われた言葉に首を傾げたのは三成で、法律という言葉に肩を揺らしたのは吉継だ。
ニタリ、と笑んだ口が開く。
「なれば、イタリアンを。ヨーロッパをたくさん食べた後で、中華を。ワレはオセロが好きゆえ。」
暗に挟み撃ちを、と献策されて竹中は唇を吊り上げる。
「ロシアはどうするんだい?」
「摘み食いが出来そうなら、したいですなあ。」
クツリと喉を鳴らす表情は最早子供のものではない。
狡猾さが滲む様は記憶も無いくせにまさに大谷吉継で、我が意を得たりと竹中は目を細める。
「そうかい。じゃあまずはイタリア語の勉強からだね。日常会話が出来るようになったら中国語かな。あれは世界で一番難しいそうだから、ちょっとでも早く学んだ方がいい。レストランのメニューくらい、君たちには読めるようになってもらわないとね。」
微笑んで告げた竹中は、ぽかん、と子供が二人とも口を開けているから思わず噴き出した。
「なんて顔をしてるんだい、二人とも。」
「た、竹中様、また私などに!」
寝不足の目で三成が見上げてくるのを竹中は見越して、鼻先を突つき言葉を奪う。
「お金のことを言うのは野暮だよ、三成くん。もっと風情を理解しないと。詩吟の先生もそう言ってたろう?」
「ですが!今だって何の所縁もない私を育てていただいているのに、これ以上など!!」
「うーん、僕と秀吉の道楽にダメだしされちゃったなあ。」
残念だ、と呟くと、すぐさま三成の紅潮した頬が青褪める。
いたいけな反応に竹中は苦笑する。
作品名:∽夏の陽 作家名:八十草子