横島受けいろいろ
銀横
目の前にある銀色の髪に触れてみる。
さらさらしたそれに心地よさを感じながら、普段見せない笑みを柔らかく浮かべた。殊更に、この上無く優し気に。
見せない分の想いも込めて。
そのまま髪の間に指を差し入れ、戯れの様に梳く。
銀の髪の持ち主は眠りが深いのか、その動きに何の反応もせぬまま、安らかな寝息を立てている。
ここで目を開けられてしまえば、慌てるのは未だ銀の髪を弄んでいる彼の方だろうが。
その姿を瞳に映すのは、多分に銀髪の彼にとっては幸福な事だろう。
しかし残念な事に、彼が目を覚ます気配は無い。
安堵と共に、寝顔に目を移す。
銀の髪の美しさを損なう事の無い、整った顔立ち。
その造形は『美形』の一言で事足りるのだろうが、それを見ている彼にとってはそんな簡単なものでも無く。
そんな一言で済ませたいものでは無く。
複雑な胸の内。
この銀の髪の主は、自分の恋人。
単純に、無邪気に喜んでしまえば良いのだろうが、同じ男としてはそう手放しで喜べる事でも無い。
同性同士という事は今更だし、もうそれは諦めた。
しかし、共に居る事を選んで、共に在る事を選んで、そしたらやっぱり考える。
表面だけ、上辺だけ、それが綺麗でも美しくても醜くても汚くても、関係無い事だとは言ってみても。
横に居れば比べられるのは世の常で。
人の目を必要以上に気にする気は無いのだけれど。
溜息一つ。
(……目、開かないかな)
考えているとキリが無い。
せめて思考を切り替え他を考える。
俳優という人の目に晒されてなんぼな仕事に就くこの男は。
その仕事中。画面を通して見てしまえば、自分だけのものじゃなく。
無論、画面を見ている自分に目を向けている訳じゃない。
だから、画面を通して見る顔よりも、そこに居て、自分だけを見てくれる方が好きだというのは、道理、当然、当たり前。
けれど。
(……でも勿体ねーかなー……)
寝顔が綺麗で、もう少し見ていたいとも思う。
無防備な、あどけなさの残るこの顔は、昔を思い出させて少し懐かしい。
今ではそうそうお目にかかれるものでもないし。
素直に、正直に、自分に愛を囁く姿は常なのだけれど。
でも、自分の事を見てほしいとも思う。
自分は結構、メロメロだ。
彼の瞳は、銀色の髪、整った顔の造形に勿論劣る事は無い。
それに映る顔を赤くした自分を見るのは苦手だけれど、嫌ではないので。
やや躊躇いがちに、耳元に唇を寄せ、呼び掛ける。
その瞳に映る自分は、やはり顔を赤くしているだろうか、などと思いながら。