Day After Tomorrow
1章 マグル界
けたたましいベルの音で目が覚めた。
時計は7時30分を指している。
ということは、自分は30分もこの大音響を轟かしているベルに負けることなく、眠り続けていたらしい。
……まったく、図太くなったもんだな。
それを止めながら、苦笑する。
以前は、枕ひとつ変わっただけで眠れなかったのに。
「だから、君はお坊ちゃんだというんだよ」
皮肉たっぷりの、聞きなれた声が聞こえてくるようだ。
あのときは、言葉一つ一つに反抗したものだが、今では「そうだな」と思うことが多い。
自分は本当に甘やかされていたらしい。
自活を始めたのは、学園を卒業したあとだった。
必要に駆られて、始めたことだ。
「あれから」、何もかもが劇的に変化して、そして自分はたくさんのものを失った。
今ではこうして一人暮らしをして、なんとか生活をやりくりしている。
食事も洗濯も自分でしている。
──いや、そうしなければ「お金」というものがかなり必要になることに、愕然としたからだ。
家ではいつも屋敷しもべがいたし、学園でもそうだった。
脱いだ服は翌朝には洗濯されアイロンが当てられて、クローゼットの中へ入っているのが当たり前だった。
食事もいつも欲しいときに、欲しいだけ食べることができた。
「魔法」で、すべてが便利に快適に整えられていた。
だから食事というものが、シェフ以外の人が作れるのを見て驚いたし、ましてや自分がそれを作れることになろうとは、夢にも思ってみないことだった。
しかし食べれるというランクまで持っていくには、かなり時間と忍耐が必要だった。
まずはガスに火をつけることからがスタートだったから、その道は険しいものだ。
洗濯にしてもしかり。
夜脱いだ服はそのままで、朝が来ようが、夜になろうが、その場所に留まり続けていた。
毎日着替えるのだから、その脱いだ服の山は大きくなる一方だ。
最後には自分の着る服さえなくなりかけて途方にくれた。
洗濯とアイロンをしてくれる「クリーニング屋」というものを聞きつけ持っていくと、確かにきれいにはなったが、かなり高額な金額になってしまった。
コインランドリーの存在を知ったのは、かなり自分の預金の残高が減ってきたころだ。
今では小物はバスルームで手早く洗って干し、大きいものだけランドリーに持ち込むという、使い分けさえ出来るようになった。
ドラコは顔を洗いジーンズを穿きシャツを羽織ると、そのままドアへ向かった。
朝食は食べない。
時間がなかったからだ。
遅刻は減給だ。
ドアに鍵を掛けようとポケットから杖を出そうとして、苦笑した。
(……杖なんかあるはずないじゃないか)
軽く頭を振って鍵を取り出して、ドアをロックし部屋を出ていったのだった。
作品名:Day After Tomorrow 作家名:sabure