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お菓子みたいに甘い

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ナカナイデ



アリスが不安そうに鉄の扉を潜ってゆく。
「アリス、首に気をつけるんだよ。きみはやわいから。」
勢いよく閉まった扉を見て、やれやれ、とにんまり笑いでため息をつく。 アリスの後を一応追いかけようとしたのだけれど、重たい扉に触れた瞬間に弾かれた。主である女王が許さなければ、誰も城に入ることは出来ない。だから、首にならなくても、ここはウサギから絶対安全だ。
「まったく、困った女王だ……」
時間くんを盗みまでしてアリスの行く手をさえぎるのだから、彼女は本気なのだろう。確かに昔から女王は首のない時間くんを毛嫌いしていたけれど、君臨者は彼に手を出すほど愚かではない。
「ねえ、体。そろそろお別れかもしれない。」
これでアリスを逃がしたら、女王はかんかんに怒って、思わず猫の首をはねてしまうなんてことも、あるかもしれない。猫は長い舌で、腕を舐めた。
それにしても、だいぶ歪んでしまったようだ。 猫は自己分析し、苦笑する。あの日、アリスが扉を閉じてしまった日からチェシャ猫はずっと笑っている。オカアサンに笑いかけて欲しくて、優しくして欲しくてこの世界の住人を捨てた大事な大事なアリスのために笑っている。歪みきってしまえば、この世界から抜け出して本当に自分のしたいようにアリスを守ってあげられる。

―――さて、自分のしたいようにってなんだ。

チェシャ猫は、また苦笑した。そうなってしまったら、女王は悲しむだろう。女王は幼かったアリスの姉のような存在だった、ずっと歳は変わらず、今はもうあのアリスよりも幼い。幼い王女は泣いてしまうかもしれない。
(まあ、そんなしおらしい女王なんて、出会ってこの方見たことないけどね。)
そう思ったとき、背後でキィ、と扉が開いた。振り返る。 ああ、アリスがでてくる、とチェシャ猫はにんまり笑う。
「おかえり、僕らのアリス。」
女王はしおらしくはないけれど、アリスは背中に時間くんを背負って泣いている。
「キライ?」
「好きなわけないじゃない!」
時間くんも泣いている。かわいくないのは女王だけだ。
時間くんはいつもどおり小一時間泣き続け、アリスの説得に非常に気を良くした。いつも彼はこうなのだ。ペシミストは概してそうなのかもしれない。
「じゃあ、私たちも公園に戻ろう。」
アリスが笑う。その背後で女王は、珍しく泣きそうな顔をしていた。
なんだ女王も泣けるんじゃないか、と、女王を泣かせるくらいやっぱり歪んでいるのだろうか、とが同時に思って、瞬間的にアリスを突き飛ばした。
突き飛ばすときは、やっぱり笑えなかった。
サヨウナラ、カラダ
呟くと、カラダのほうは聞こえていないからいい気なもので、勢いに任せて地面に崩れ落ちる。伸びきった草と、砂利の混ざった地面にぶつかるのは、それなりにイタかった。

「君は僕らのために泣いてはいけない。」

女王は憮然とし、それからアリスにまた微笑を向ける。
その言葉は女王に向けた言葉でもあったのだけれど。 彼女は、気づいているだろうか?

作品名:お菓子みたいに甘い 作家名:まりみ