追う阿呆追われる阿呆
とりあえず今にも泣きだしそうな彼に、今私は身動きが取れないのでヒーロースーツに忍ばせているハンカチをとるようすすめてみようかと複雑な表情を浮かべていると、彼は一つ大きな息を吐いて急に真面目な表情を取り繕った。
「・・・その心意気はいいがよスカイハイ・・・ここまでいっといて思い出さないとかどういうことだオイ」
「思い出・・? どういうことだ?」
「どういうことって・・・おじさんそろそろ泣いちゃうぞっと。
まぁここまでいろいろやってんのに思い出さないっつーことは、」
ハンチング帽を外し、タイをほんの少し緩め、片手で抱えていた私のヘルメットを抱え直し、彼はにやりと、実に悪そうに口角を釣り上げた。
「身体で思い出させるしかねーよなぁ?」
・・・・・・・・・・。
「・・・えっ?」
ふいに私は今の状況をどうしてか再確認してしまった。私の顔の横には彼の手、彼の身体は私の身体にまたがっており、私の片腕は逃げないようにと彼の腰に回っている。
こ、この状況は・・・。
この状況は、ダメだ!
体が熱を持ち、顔が紅潮し、目が回る。身体が一瞬震え、意識を向けないようにしようと思ったのに逆に彼の腰に回している腕が力を持つ。あぁ、頭の中が沸騰しそうだ、いやもうしているのかもしれない。
私の横においた手に体重をかけ、ゆっくりと表情のない彼の顔が迫る。
私は目の前から逃げるようにぎぅと目をつぶり彼を説得しなければと声を上げた。
「か、かぶらぐ、かぶるぁ、わ、わいるど君、君にも私にも心に決めた人がくぁwせdrftgyふじこlp」
「 い い 加 減 思い出せやこのド天然ぶぁっか!!!!」
「うっ!!」
額に強い衝撃を感じ、沸騰していた頭から湯気がふしゅぅと出て意識が遠のいていく。
その遠のいていく過程で、「あれ、今こいつワイルド君っていったか?」と首をかしげた彼の姿を見たのを最後に視界が黒に染まった。
作品名:追う阿呆追われる阿呆 作家名:草葉恭狸