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追う阿呆追われる阿呆

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『・・・しっかりして、ちょっと、スカイハイ!』
「う、うぅ・・・」

 耳元で叫ばれているような感覚がして、私の意識が揺り戻された。この声は、・・・。

『目を覚ましたの?! 私が誰かわかる?』
「あぁ、わかるとも・・・アニエス君だね」

 僅かにふらつく頭をおさえながら私は起き上がり、周囲を素早く確認した。場所は先程彼と会話した場所のまま、相変わらず人気がなく、空を見るとどうやら時間もそう経ってはいないらしい。

『意識は戻ったみたいね。ところでスカイハイ、どういうことなの? 途中で貴方と犯人が接触したまでは回線が繋がってたけれどその後ぷっつりきれちゃったのよ?! そのあと貴方の回線が戻ったあとどれほど声をかけても返事がないし!』

 回線の繋がりが絶たれていたという事実に私は再び衝撃を受けた。おそらく彼が私のヒーローマスクを取り上げた時にメットの中を操作してきったのだろうが、そのようなそぶりを見せず素早くすることができる人間がどれほどいるのか、私には想像がつかないがもしかすると私の本名を知っている人間より少ないのかもしれない。
 そうすると、一番疑われるのが情報漏えいだ。きしり、と胸が痛む。私が私の周囲を信じていると言った時の彼の顔を思い出す。
 私は動揺を隠して彼女にしょんぼりと報告した。

「すまない・・・犯人に頭突きをされてしまって・・・」
『ヒーローマスクをしてるのに昏倒させられたの? どれほど頭が固いのよこの鏑木虎徹って男の頭は!」
「いや、あのときヒーローマスクは・・・あれ?」

 とられてしまって、といおうとしてふと私は視界に既視感を覚えてぺたぺたと顔の周囲をさわってみた。固い感触。
 やはり。ヒーローマスクが、戻っている?あのあと彼が被せてくれたのだろうか?

『みんな、スカイハイは無事よ! 犯人のネクストと関係ないとは思うけれど、スカイハイが昏倒するほどの石頭みたいだから注意して!』
「いや、彼の能力は・・・」

 本気なのか凶悪犯と対する緊張をほぐそうとしているのか、仲間たちに声をかけるアニエス君に私は彼が自称していた能力を言おうとして一度黙り、アニエス君、と彼女に呼びかけた。

「一つ報告しなければいけないことがあるのだが・・・」
『何?』
「彼は・・・鏑木虎徹は、私の本名を知っていたようだ」

 一瞬、マイクの向こうの音が一切消えた。

『ちょっと、それは本当なの?』
「ああ、間違いない」
『・・・ジェイクと同じく心を読むネクストという可能性はある?』
「私もそれは考えたんだが、彼には否定されてしまったよ。本当にそうだと断言することはできないけれど」
 
 節々がきちんと動くか確認しつつ私は答える。そして突如はたと気づいた。もし彼が私の発見を遅らせたければ、わざわざヒーローマスクの回線を復活させなくてもいい。いや、それどころか・・・私が意識を失ってる間私を拘束するなり、殺しても問題はなかったはずだ。
「凶悪殺人犯」の枠が、ぐらつく。

『・・・報告有難う、こちらでも色々調べてみるわ』
「あぁ。頼むよ。念のために彼らにも伝えておいてくれ」
『了解よ。ところでそろそろ動けるかしら、スカイハイ』
「もちろんだとも。今すぐにでも」
『今ヘリがそちらに向かっているから、上にきてくれる?』
「わかった。何分前に私が気絶してしまったかわからないが、そんなにたっていないのならば彼はここらにいるはずだからね」
『元KOHがやる気を出してくれて嬉しいわ』
「私はいつでもやる気だよ!」
『ただね、未確認なんだけれども』

 急に声を潜めたアニエス君に私は耳を集中させた。

『殺された女性というのが、バーナビーの両親が健在だった頃の家政婦だったっていう情報が入っているのよ』
「そんな・・・」

 約一年前のジェイク事件の時のバーナビー君の激昂した姿が目に浮かんだ。
 彼は否定するだろうけれども、どうして、どうして彼ばかり!
 ぐ、と私は拳を握りしめる。

「今バーナビー君はどこに? 先程はいなかったようだが」
『連絡が言った時社長の別荘にいたらしくってね。今こちらにむかっているそうよ。少し時間がかかるみたい』
「そうか。・・・と、いうことは」

 マスクの下で、私はかすかに笑みを浮かべる。

「彼が逮捕したほうが、そちらとしては嬉しいということかな?」
『まぁそうなるわね』

 あっけらかんと彼女はいい、続くそしてこちらの心情を読み取ったような言葉に私は笑みを深くした。

『ただ誰が犯人を逮捕するかっていうのを先に決めていたら八百長になってしまうし、貴方が逮捕してくれてももちろんそれはそれで構わないけれど?』

 その言葉に答えず、私は能力を発動させる。
 ぐんぐん遠くなる先程私と彼がいた路地に目を向けず、ただ上の曇り空だけを目指して、まるでそれを割こうとでもいうかのように真っ直ぐに飛んで行く。
 そして、少し前から音をたててこちらに向かっていたヘリコプターとくるくる回りながら少しの間並走すると、急降下してビルの林の中を一直線に駆け抜けていく。

『これは高視聴率がとれそうね・・・風の魔術師が本気を出したわよ! 貴方見た?! アンドロイドの事件の時は映せなかったからこれはチャンスよ!』
『アニエスさん! これも未確認なんですがこの犯人ロックバイソンと友人だっていうたれこみが!』
『なんですって?! 今すぐロックバイソンに確認してっ!』

 はしゃぐようなアニエス君の通信の声量を少し落とし、私はこちらに手を振ってくれる市民たちに手を振りかえして、しかし目線はくまなく彼の姿を探す。
 ふと、ビルのうちの一つに掲げられている液晶に映されている彼に、私は目を向けた。

「鏑木・T・虎徹・・・」

 今、突然だがどうしてか一つの推論が生まれた。
 私が倒れた時、何故か地面に打ち付けられるであろうと思っていた私の頭が痛くなかったのは、彼が地面と私の頭の間に手を差し込んでくれたのではないだろうか?
 もちろんその理由は私が動けない間に私のヘルメットを素早くとる、ということも一つあるだろうが、もし私のことを心配してくれていたのだとしたら、細やかだ。実に細やかだ。
 そして目の前に移されている凶悪犯の写真と、さきほどあった印象――彼の焦った顔や怒ったような顔、ぐしゃぐしゃの顔を思い出し、湧き上がる違和感に私はまた一人、首を傾けて、慌てて犯人捜索に意識を向けた。
 顔にのぼる熱は、今はパス、そしてスルーだ!

作品名:追う阿呆追われる阿呆 作家名:草葉恭狸