ミニ☆ドラ
「……僕は確かに一度だって相手の望みを叶えたことがない、出来損ないの魔法使いだよ。だけど今度こそは、――ハリーの望みだけはなにがあっても叶えてやるからな。……だから君だけは、そんな情けない顔をしないでくれ。お願いだ!」
必死な顔でハリーを見つめた。
「がんばるから!絶対にがんばるから!」
何度も何度もハリーに必死で訴えかける。
ハリーは笑いながら、 ドラコの頭を撫でた。
「別にいいよ。君が魔法使いでも、下手くそでも、なんでもいい。そばにいてくれるだけで、僕は大満足なんだから……」
そう言って ドラコを抱きしめた。
その言葉を聞いた途端、 ドラコは涙が溢れ出てきそうになる。
(このままでもいいか?本当に、ハリー?何も出来ない僕を、君は責めたり見下したりしないのか?)
――目をつぶると過去の辛い記憶がよみがえってくる。
由緒ある家系に生まれ、代々当主となる直系の血筋には、強大な魔力を持つ者しか生まれなかった。
――そう自分が生まれるまでは。
いつかはこの子も秘められた力が出るはずだと、両親は彼に呪文を教え込んだ。
ドラコもそれに答えようと、必死で努力した。
それなのに魔法を習い始めの子どもでも出来る初歩的な魔法ですら、ドラコは出来なかった。
あのときの両親の落胆といったら……
せめて身分のない普通の魔法使いならば、ここまで苦しまなかっただろう。
スクイブでも肉体労働や商店を経営して生計を立てている者もいたからだ。
しかしドラコは選ばれた直系の子どもで、ゆくゆくは人の上に立つ当主にならなければならない。
だがしかし、初歩の魔法もうまく使いこなせない当主に、いったい誰が従うというのだろう?
だから両親は ドラコをマグルの世界へ送り込んだのだ。
昔の輝かしい伝説の魔女のように、 ドラコにも手柄を立てさせようとした。
うまくやり遂げて帰還するとマルフォイ家の跡取りとして彼は迎えられて、領民から尊敬されることになるだろう。
もちろん中世の頃よりマグルの世界は治安が悪化している。
トラブルに巻き込まれて運が悪ければ命を落とすことも大いにありえることだ。
――もしかして彼の両親はそれを見越しての、 ドラコをマグル界へ投入だったのかもしれない。
……ドラコには分からなかった。
どっちにしろ、あちらの世界では「魔法」の力が全てだった。
そして絶望的なほど自分には、その能力がなかった。
「何も持たないほうが幸せだ」と、 ドラコは何度も魔法界の厳しい視線に晒されても思う。
身分も生まれも何も持たなかったら、誰も自分を特別な存在として見ないし、期待もしないだろう。
ドラコはそんな、まるで空気のような存在になることを、心から願っていた。
――そんなマグル界で出合ったハリーは誰からも相手にされず、期待も受けず、そして何も持ってはいなかった。
ハリーは悲しいほど一人ぽっちで、壊れかけの屋根裏部屋でずっと暮らしている。
それだからこそ、彼を救いたかったのかもしれない。
ハリーが幸せになれば、このちっぽけな自分も幸せになれるかもしれないという希望が持てた。
しかもハリーは「魔法使いの自分」ではなく、「ただの自分」でいいとまで言ってくれた。
ハリーは最初っから魔法なんかできない思っていて、少しも当てにしていないのかもしれない。
それでもいいと思った。
それでもいいから、ハリーを救いたかった。
日々の生活に疲れているハリーは ドラコを抱いたまま、すぐに眠りに落ちてしまった。
規則正しい寝息が聞こえてくる。
ドラコは腕からそっと抜け出すと、彼の寝顔を見つめた。
(……ハリー。何があっても僕は君を守るよ……)
ドラコは笑みを浮かべる。
暖かな気持ちで胸がいっぱいになる。
乱れた髪を鋤いてやり、眠っている彼に顔を近づけると、そのほほにそっとキスをしたのだった。