ミニ☆ドラ
ハリーはたまらず相手をつまみあげると、窓へと歩きだした。
「二階の窓から、放り捨ててやる!!」
相手は激しく暴れだした。
「……ちょっ、ちょっと待ってくれ!2階から投げるな!アイテムを忘れた。ほうき持ってこなかったんだ!だから、やめろ!」
「知るか!勝手に寝ている所を起こされて、訳の分からないことばかりを並びたてて、失礼なことばかり言いやがって!こんなものは、いらない!僕の前から失せろ!!」
そのとき、派手なくぐもった音が、ハリーのおなかから響いた。
グゥー……というその音に小さな魔法使いは、望みをかける。
「お前、おなかが空いているんだろ?だったら、ご馳走を食べないか?何でも出してやるぞ!君が食べたいものなら、なんだって思いのままだ。何が食べたいか言ってみろ」
その声にハリーの動きが止まる。
「なんでもいいのか?」
そうそうと、相手はうなずく。
「捨てる前に、僕が本当の魔法使いか、試してみたらどうだ?」
「……そうだなー」
ハリーはまんざらでもない顔をする。確かに死にそうなほど、おなかが減っているのは事実だ。
ハリーは手の中から魔法使いを放して、テーブルの上に置き、しばらく考えた。
「チキン!鶏がいい。大きな皿に盛られた、でっかいのが食べたい!」
その答えはハリーの考える、精一杯のご馳走だった。
魔法使いはゆっくりとうなずいた。
真剣な顔で何かの呪文を呟くと、杖を一振りした。
輝くような閃光が、その先から放たれる。
(わっ!すごい!!)
ハリーは密かな声をあげる。
そして、皿に盛られた、丸々と肥えた一匹のチキンローストが姿を現した。
……。
…………。
ふたりの間に静かな沈黙が流れた。
気まずい数分が流れたあと、腕を組んで、ハリーはゆっくりと尋ねた。
「――これはどういうことだ、魔法使いのチビ!」
その相手の底冷えがする冷たい声にびびりながら、魔法使いは答えた。
「リクエストどおりのチキンだ」
「まぁ、確かに、チキンと言えば、チキンだな。うまそうな。だがな、なんだこの大きさは、小さすぎるだろ!」
二人の前には、5cmくらいの皿に、そのローストは乗っていた。
魔法使いはもじもじと動いた。
「だって、君は大きさは言わなかったじゃないか」
「じゃあ、もっと大きいのを出せ。50cmくらいの皿のだ」
「それは、無理だ!」
あっさりと魔法使いは答えた。
「魔法は一日一回までしか使っちゃダメなんだ。しかも僕が物を出すときは、僕の大きさに見合ったものしか出せない」
その答えにハリーはくらっと眩暈がした。
「……すると、何か。僕がお金を要求したら、小さなお札の山が出てきて、家をリクエストしたらミニチュアのドールハウスが出現すると、そういう訳なんだな!?」
相手は素直にうなずいた。
…………使えない。
全く使い物にならない、魔法使いだ。
やはりこいつは窓からたたき出そうと、ハリーは思った。
「とりあえず、遠慮せずに食え!」
相手が偉そうに命令する。
彼にとっては大きすぎる大皿を抱えて、ハリーの前に差し出した。
こんなの一口だと思いながら、口に放り込む。
味は確かに今まで食べてきた食事の中では、とびきり極上の味がした。
「うまいか?」
その言葉に、ハリーは思わずうなずく。
その途端、小さな魔法使いはにっこりと笑った。
「そうか、よかったな」
満足そうな笑みだ。
しかし、ひょいとハリーは相手を摘み上げた。
「でもやはり役立たずなので、お前とはおさらばだ」
「ちょっとまて、恩知らずなやつめ!とりあえず僕は魔法使いだぞ。もしかしたら君が困ったときに、助けてやれるかもしれないぞ。そのチャンスをみすみす無駄にするのか?」
「そんな小っちゃな、辛気くさい魔法しか使えないくせに、何を言う!」
相手はじたばた暴れて、必死でハリーの指の間から抜け出そうとする。
そして思い切り、その手のひらを噛んだ。
「――痛ってー!!」
ハリーは叫んで、思わず手を開いた。
急いで魔法使いは、部屋の隅にある箪笥によじ登った。
まるで、ねずみみたいなヤツだと、ハリーは苦々しく相手をにらむ。
その埃っぽい箪笥の上で、彼はゼーゼーと肩で息をして座り込んだ。
「僕はどんな逆境に合おうと、逃げ出さないからなっ!君の本当の願いを叶えるまでは、僕は逃げない!!」
ハリーの迷惑もどこ吹く風とばかりに小さな魔法使いは、立派な「居座り宣言」をしたのだった。