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Gardenia

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Gardenia -贄-




「・・・・・ずいぶんお盛んだな。ミロ」
「何が?」
 教皇宮へと続く階段の途中でばったりと出くわしたアイオリアは開口一番挨拶もなしにそう告げられ、少々面食らった。
「女臭い。おおかた女がつけていた香水だろう?」
 そう言われて、なるほどと合点がいく。ガーデニアの香りが髪や身体に染み付いているらしい。しかし、だからといって“お盛ん”だの“女臭い”だのとは酷い言われようだ。アイオリアは俺を遊び人だとでも思っているのだろうか。
「失礼だな・・・花の匂いだよ、花!」
「なんだ。女にくれてやるのか」
「違うさ。まったく・・・付き合ってられん」
「悪い悪い。つい、な。なんでまたそんなに匂いを撒き散らかしてんだよ」
「ちょっとな。手に入れたので部屋に飾ってあるんだが・・・日増しに香りが強くなってさ。まぁ・・・色褪せてきたし、もう枯れるだろうけどな。そんなに匂うか?」
「ああ、もうプンプンだ。今から教皇に謁見するんだったら、ちょっと考えものだな」
「そんなに?なら、今日はやめておこう。大したことじゃないしな」
「そうしとけ。それに先客もいたしな・・・俺も引き返してきた」
「先客?」
「シャカさ。なにやら雲行きも怪しかったし、巻き込まれるのはゴメンだからな。ということで、俺は闘技場で暇潰してくるが、おまえも行くか?」
「そうだな・・・気が向いたら行くが」
「期待しないで待ってるよ。じゃ」
 アイオリアはそう告げると楽しげに階段を駆け下りていった。訓練ひとつにしてもアイオリアにすれば遊戯みたいなものだろうなと思いながら、ちらりと教皇宮を眺めたのち自宮へと気だるい足で向かった。
 別段、これといって何かすることがあるわけでもなかったため、うたた寝でもしようと寝所に身を投げ出し、ぼんやりと花瓶に活けてあったガーデニアを眺める。
「あんまり、日持ちしないんだな———」
 ここに持ってきたときは綺麗な純白の花弁だった。それが今はもう黄色く色褪せ、花弁は虚ろにしな垂れていた。それでも甘い香りだけは部屋いっぱいに充たしている。いや、むしろ濃厚すぎるほどの香り。ねっとりと淫靡さを醸し出しながら、纏わりついて離れない。
 淫らな淑女との戯れもあと僅かで別れの時が訪れるのだろう。
 一味違った恋を楽しんだような、そんな余韻に浸りながら、微睡みに身を委ねた。


作品名:Gardenia 作家名:千珠