時間を越えて
大声でトニーを呼ぶ。
トニーが階段から出てきた。
「ドウシタノ？」
トニーが聞く。
「決めたぞ！イギリスが海賊だった時代に行くぞ！！」
「かいぞく？いぎりす？」
「前、会わせた奴だよ！！あの人が悪魔って呼ばれた時代に行きたいんだ！！」
「…アイツ、かいぞくダッタ？うみノはしゃダッタノ？」
トニーが聞いてくる。
俺は頷く。
「だから、ね？頼むよ！！」
トニーは、コクリと頷く。
そして、テコテコと部屋へと歩いて行く。
俺もワクワクしながらついて行った。
「エットネ、モドッテクルジカン、ヨソクムリ、ダカラワカンナイ」
それを聞いて、驚いた。
しかし、笑う。
「そっちがエキサイティングじゃないか！よーし！俄然、燃えて来たぞ！！！」
トニーがキーボードで何かをカチャカチャしている。
画面は、船だったり剣だったりの画像が、画面に映し出されていた。
「ココニ、スワッテ」
指差された場所は、電気椅子みたいなイス。
拷問道具みたいだよ、トニー。
それを察したのかトニーが『ヘイキ、シナナイ、コロサナイ』と慰める。
そして、イスに座るとトニーがパソコンの前で言う。
「ガンバッテ、あるふれっど…キミナラ、ダイジョウブ」
トニーが励ましてくれた。
俺は、いつも通り答えたんだ。
「俺はヒーロ―だから、大丈夫なんだぞ！！！！」
「ウン、イッテラッシャイ」
トニーが手を振る。
俺も手を振った。
「いってきまーす！！」
タイム・トラベルして、驚いたのは服が変わっていた事。
海賊の子分が来てそうな服。
ズボンは黒、上は白い。
そして、到着した場所だ。
「ここって船の上だよね？」
そこは、巨大な船の甲板だった。
話題の海賊映画『パイ○ーツ・カリ○アン』の黒ヒゲと呼ばれている海賊の船そっくり。
大きさは、こちらの方が一回り大きいけど。
人々が忙しそうに行き交い、怒号や笑い声が溢れている。
その光景に目を輝かせていると、隣から声を掛けられた。
「何してるんだ、若造？ちゃっちゃと働け！！！」
いかにも厳ついその男性は、俺に木箱の荷物を3つ渡す。
そして、前方の部屋を指さした。
「あの部屋に持ってけ、若造」
「へ？」
「お前の耳は、節穴か？さっさと運べ！！」
背中をバシンと叩かれて、あまりの激痛にひきつった悲鳴を上げる。
痛いだろうと言おうとした瞬間。
「何してんのさ！その子が痛がってんだろ！！」
「か、母ちゃん」
「ったく！大丈夫かい？」
厳ついおっさんが気まずそうに恰幅のいい女性を見る。
どうやら、いや確実に夫婦の様だ。
女性が笑いながら、話しかける。
「悪いねぇ、そういや、兄さんは新入りかい？」
「へっ？」
俺は、なおのこと目を瞬かせる。
確かにこの時代では、新入りだし、まだ見つかっていないだろう。
俺という大陸は。
だが、奇妙だ。
もとから船にいる青年だと思わないのだろうか。
俺は、何故新入りなのかと問おうとした。
すると女性が問う前に話し始める。
「いやね、つい最近船長が身寄りのない子供たちを拾って、面倒見てるのさ」
「船長？」
「あぁ、他の奴らからは『蒼い悪魔』って呼ばれているが、本当はいい御方なんだ」
厳ついおじさんが胸を張って言う。
どんな人なんだ？
イギリスの船では、ないだろう。
だって、あの眉毛がこんな立派な船に乗ってるはずがない。
たとえ全盛期でも、もう少し小さめだろう。
それにこんな多くの部下を持っている、とも考えにくい。
とにかく俺は、二人をごまかして『新入り』のアルフレッドと名乗った。
二人は、納得し俺に自己紹介とココの事を丁寧に説明する。
厳ついおっさんがジョージ、恰幅のいい女性がミセス・ハンナと自己紹介してくれた。
二人はここの船長の『古くからの友人』でジョージが男の、ミセス・ハンナが女の指揮を執っているとか。
あと二人には、俺と同い年くらいの息子がいるらしい。
「ところでこの船の名前は？」
「この船の名前かい？この船は、『ウンディーネ号』だ」
「…ウンディーネ号…？」
その名前の船をアメリカは、知らない。
聞いたことも見たことも。
これほどの船なら、歴史書に残されるはずなのに。
「あぁ！いい名前だろ！！」
「…う、うん」
「さぁて！ほら、来い！！仕事をするぞー！！！」
「いっでーー！！」
また、背中を叩かれた。
俺がこの船に来てから十日ぐらいが過ぎた。
ココの船長はまだ見たことがない。
というのも、最下層の子分が船の主たる船長に会うことが、おこがましいらしい。
俺は仕事を覚え、友人もできた。
毎日、海を彷徨って、船を掃除して。
「なぁ、ジャック」
「？…なんだ？」
ジャックは、ジョージとミセス・ハンナの息子で、同い年がいない船の中でアメリカが唯一の同い年だったそうだ。
実際は、アメリカは国家なので彼の何十倍も年を取っているのだが。
ともかく二人は、よくはしゃぎ回った。
そのことでジョージやミセス・ハンナによく怒られる。
それが日常だった。
しかし、その日は違ったのだ。
何が違ったかというと、その日船長の気に入っていた彫刻の宝石が奪われていた。
そして、容疑者にジャックとアメリカが挙げられたのである。
最悪だ。
アメリカは、自分たち二人を犯人だと言い放った奴を殴りたくなってくる。
どうやって、殺（や）ろうか？
一瞬、物騒な単語が脳内に映し出されてしまう。
あぁ、やはり自分は元ヤンの弟だと自嘲的な笑みが漏れた。
そして、船長室の扉が開け放たれる。
そこから現われた人物にアメリカが目を見開く。
そう、アメリカが『昔の彼が見たい！』と思ってタイム・トラベルを実行した人物がいた。
青い海賊服、銀のピアスに銀細工、胸元に水色のペンダントを着けたイギリスがいたのである。
黒い皮のブーツを履き、海賊服の上着が風に靡く。
腕や首などに装飾品。
驚いたのは耳だ。
右耳に飾りのついた銀のピアスを2つ、左にエメラルドの銀ピアスを3つ。
君って、本当に元ヤンなんだね。
髪は変わらず金色、だが今より長く前髪は目にかかりかけ、襟足が肩についている。
頭には、海賊帽を被っていると思ったが被っていない。
変わりにハチマキのような黒い布を被っていた。
目は、今より淀んでいる。
モスグリーンのような目だ。
今のイギリスの目がペリドットなら、昔のイギリスの目はエメラルドのように暗い。
そして、紡がれた声は完全な喧嘩腰で殺気に満ちている。
「おい、俺の気に入っていたマーメイドの目を奪いやがったのは、テメェ等か？」
仁王立ち、威圧的な口調、背後には黒い禍々しい何かを纏ったイギリスが引きつった笑みで嗤う。
ジャックは完全に涙目、俺は育ててくれた元兄を凝視した。
怒ると何十倍も怖いらしいが本気は、これ以上なのだろうか。
能天気にそう考えた。
「人の質問には、ちゃーんと答えろってダディとマミィに聞かなかったか？」
ワントーン下がった声。
あぁ、本気で怒った。
だから、癖で返してしまった。
「生憎、親がいないんだよ…俺には、ね？」
その場の空気がピシリと凍った。
そして、その場の者全員が息を呑む。
ひそひそと部下たちが話す。
全て内容は、『アイツ、殺されるぞ』。
「第一、 その人魚の像がどんなのか知らないよ？俺たち」
「何？」