時間を越えて
イギリスが不審そうな声で聞いてきた。
人魚像など、どこに置いてあったか?と問う。
するとイギリスは、船長室の上の部屋を指さす。
「あそこだよ、あそこは略奪品の保管庫だからな…」
「…へぇ~、どんな人魚像?まさか、ゴールドかい?」
心の中で『悪趣味な君ならそれだね!!』と毒づく。
「ざけんなっ!大理石で作られた上品なマーメイドだ!!」
アメリカは、頷く。
上品なマーメイド。
大理石で作られた美しいマーメイドは、何故目を奪われたのだろうか?
「ねぇ、略奪品の保管庫って鍵があるんだろう?お宝をそんなあっさり盗めるはずないぞ」
「…まぁな、でもな…ここの奴らは、大方鍵を開けられる」
「それは、初耳だぞ…それに俺、金とかあんまり興味ない…その像の目だって何の宝石か知らないし」
「そうなのか?…おい、ジャック」
「はっ、はい」
イギリスがジャックに話しかける。
ジャックは、半ベソをかいていた。
「お前、マーメイドの目が何か知ってるか?」
「え…?…さぁ…俺は、宝石より黄金です」
おいおい、ジャック。
君は、イギリスに疑われるぞ、別の窃盗事件で。
「お前、素直だな…」
イギリスが君の素直さに呆れたぞ。
「…仕方ねぇな」
イギリスは、ため息を吐く。
そして、小さな声で何かを唱える。
ふとその瞬間、俺は分かってしまった。
彼が何をするのか。
妖精か空想の何かを出す気だ、
目を閉じ、イギリスは口を小さく開ける。
そして、何かに話しかけた。
「レプラコーン、俺の問いに答えてくれ」
風が吹く。
「俺のマーメイドの目が無いんだ…あぁ、お前のくれた宝物だ…」
アメリカは、小さな声に耳を済ます。
そして。
「…そうか…こいつ等じゃないのか…じゃあ、どいつ何だ?」
強い風が吹く。
そして。
「ほぉ、そうか…ありがとう、my friend」
一瞬にして凶悪な笑みを張り付かせた、イギリスは俺らに背を向け、別の男の近くによる。
「返せよ、俺のマーメイドの目を」
「な、何を言って「とぼけんなよ…さっき、俺のダチが教えてくれたんだよ、テメェが奪った、てな」
男は、なおも何か反論しようとする。
「そ、そんな!第一、あいつ等は問題児だ!!俺はあいつらが奪うのを見て教えたではないですか!!
俺は告発者と真犯人が分かり、怒りが増幅する。
彼はことあるごとに俺らを見下していた奴だ。
そうだ、あいつは毎日面倒で殴ったことがある。
それで恨みを持っていたことを、俺は知っていた
つまり、逆切れでここまでされたのである。
唯一の許せる点は、イギリスに会える手引きをしてくれたことぐらい。
「それにあいつ等h「ごちゃごちゃと、うるせぇんだよ」
イギリスはにたりと笑うと、冷たい声で愉快そうに微笑む。
男の首筋に腰に差していた剣を向けて。
「dead or live?…どちらがいい?」
「ひぃ!!」
男が逃げようとする。
それをジョージが阻止し、ミセス・ハンナは俺らの縄をほどいてくれた。
ジャックはミセス・ハンナに泣き縋っていたが、俺は腹の虫がおさまらない。
こいつ、殴る。
てか、半殺しにしたい!!
だから努めて明るく、イギリスに話しかける。
「ねぇ、船長…そいつを殴らせてくれないかい?」
「何?」
不審げに俺をイギリスが見る。
俺は、ニコリと笑うと殴る動作をした。
ゴキキと手を鳴らすと、イギリスが頷き笑う。
「半殺しにしてやれ」
「本から、その気だよ…」
二人そろって凶悪そうに笑う。
俺って君に似てるのかな?
ねぇ?my brother.
それからは、散々だった。
殴ったアイツは、右腕左足骨折の気絶。
ミセス・ハンナがあそこまで殴るなと怒鳴られ、ジョージや仲間たちは俺の背中を叩いた。
もちろん、笑いながら。
ジャックなぞ、『お前、強いな』と呆然としていて。
そして、アーサーは愉快そうに笑っていた。
「まじ、お前いいわ!!」
何が彼のツボにハマったのかわからない。
とにかく今日の夜、船長室に来いと言われたのだ。
「お前は、俺を見てどう思う?」
その台詞に俺は、疑問符を飛ばした。
あの後、約束通り船長室のドアをノックし、船長室に入ったのだ。
イギリスは、よく来たなとラフな格好でそういう。
青い海賊服の上着を脱ぎ去り、シャツの胸元は第三ボタンまで開けている彼がいた。
壁には本や剣、机の上には高価なアクセサリーの数々。
その机の前には、来客用なのか長い金縁の紅い布張りの一人座りのソファ。
向かい合う様に3人ぐらい座れそうなソファが置いてある。
そのソファにどっかりと座ったイギリスは、座れと顎で指す。
俺は、正面に座る。
真ん中には、大理石が表面のローテーブル。
上には、ワイングラスとワインの瓶が2本。
「何のつもりだい?」
「何が、だ?」
「俺をここに呼んで、どうする気だい?」
するとイギリスは、笑って話す。
「何もしねぇよ、話すだけだ」
「話?」
アメリカが横に首を傾げる。
イギリスは、頷く。
ワイングラスをイギリスが傾ける。
そして、赤ワインを飲む。
「お前は、海賊の俺に身内内で初めて口応えした部下だ」
「…何だって?」
「ジョージは、俺に口応えらしい口応えはしない…他の奴らも」
そのイギリスの表情は、雲っている。
だが、次の台詞で嬉しそうに微笑む。
「でもな、お前はした…最高に、いい口答えを、な」
「そうかい…ねぇ、君は妖精が見えるのかい?」
「あぁ、見えるし、話せるぜ?…お前、妖精が見えるのか?」
「まさか!見えたら今頃、この船の妖精皆見えてるぞ!!」
「確かに!違いねぇな!!」
イギリスが声をあげて笑う。
そして、アメリカは妖精で思い出す。
「そう言えば、この船の名前も妖精の名前だね…」
「あぁ、ウンディーネのことか?」
アメリカは頷く。
イギリスは、腕を組み思い出すように話し出す。
「ウンディーネは水の精霊だ…ウンディーネには魂が無いが、人間の男と結婚すると魂得るとされているんだ…」
「へぇ」
「だから、それを当てはめてこの船に、名をつけたんだ…」
「どういう意味だい?」
「魂を持たないウンディーネを俺ら海賊に、魂をいづれ見つかる安息に、例えたんだ…」
「…辛気臭いねぇ~」
「そうだな、辛気臭いな…」
その台詞にアメリカが面を喰らってしまう。
普段の、アメリカの知るイギリスは言い返して来るのに。
今のイギリスは、静かにそう返してきた。
そして、自嘲気味に微笑む。
「…俺は、安息なんて一時しか知らないからな…それでかもしれない」
アメリカは、その姿に息を呑む。
彼は涙を流さずとも泣いている。
心で。
静かに。
「何かを楽しい、何かを面白いと思うことは、あまりない」
「…」
「虚しいだけだ…何をしても…」
「アーサー…」
「…?……………お前、何で俺の名を?」
「え?…あっ!えっと、その、えっと、あっとねぇ~」
「ジョージに聞いたのか?」
「そうだよ!彼が君の名前を教えてくれたんだよ!!!」
とっさの彼の呟きに、気まずそうに呟く。
「そうか…そういば、お前の名前は?」
「アルフレッドだぞ!アルフレッド!!」
「アルフレッドか…お前の名付け親は、お前を大切にしているんだな…」
「?何でだい?」
イギリスが優しく微笑む。